視界が開けたら、絶世の美男美女が泣いていた
「ああ……ああ、神様! ありがとうございます!」
(……うるさい。誰だろう、さっきから大音量で泣いているのは)
前世の私は、某IT企業で馬車馬のごとく働くシステムエンジニアだった。
締め切り前のデバッグ作業中に、意識が遠のいた。おそらく過労死、というやつだろう。
「次はもっと、ゆっくりした人生がいいな」なんて願った覚えはあるけれど。
ゆっくり目を開けると、視界がひどくぼやけていた。
ただ、そこには二つの大きな人影がある。
「見て、ルナ! レティシアが……私たちの愛娘が、目を開けたよ!」
「ええ、なんて美しい瞳……。まるでお父様そっくりの、燃えるような紅玉の色だわ」
(え、誰。お父様? レティシアって私のこと?)
私は状況を把握しようと、腕を動かした。
しかし、自分の意志に反して、視界に入ってきたのは——。
(……え? 短かっ。っていうか、ぷにぷに?)
そこにあったのは、大人の指の付け根ほどしかない、ちいさな、ちいさな「赤ん坊」の手だった。
その瞬間、私の頭の中に無機質な、けれど懐かしい響きの声が響いた。
《確認完了。固有スキル【慈愛の眼】を起動します。対象:周囲の環境および人物》
混乱する私の頬に、温かくて、とても良い香りのする何かが触れた。
母親らしき、銀髪の絶世の美女が私を抱き上げ、涙を流しながら微笑んでいる。
「……レティシア。私のかわいい、天使のような宝物」
耳元で、とろけるような甘い声が聞こえた。
目を開けると、そこは天蓋付きの豪華なベッドの中。私を抱いているのは、銀の髪をなびかせた、神話の女神様のような美女だった。
(えっ、綺麗……。この人が私のお母さん?)
《解。対象:ルナ・ド・グランヴェルのステータスを表示します。》
《状態:娘への狂信的な愛情(最大値)。「この子のために世界を浄化したい」と思案中。》
(お母様、思想が極端だよ!?)
「ルナ、私にも……私にも抱かせてくれ! レティシア、パパだよ! ほら、君のために隣国を一つ買い取って、レティシアランドを作ってあげよう!」
(……パパも極端だった!)
どうやら私は、とんでもなく高い地位にあり、かつ、とんでもなく親馬鹿な家族のもとに転生してしまったらしい。
前世の社畜生活では考えられなかった「過剰なまでの愛情」の波が、私を飲み込もうとしていた。




