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『現役僧侶が見た令和の地獄――怪談は今も生きている』  作者: 蒼龍 堅明


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7/11

第七夜:『身代わりアプリ:感染(パンデミック)』

「嫌な過去はブロックし、面倒な責任は誰かに押し付けたい」

スマホの普及は、人間のそんな卑怯な本能を加速させています。

日本三大怪談の一つ『四谷怪談』。その凄惨な裏切りと復讐劇は、現代では「アプリの不具合」という形をとって、より逃げ場のない地獄を描き出します。

あなたが大金で買った「安心」が、死者の怨念というウイルスに感染したとき、何が起きるのか。


今夜は、現代に蘇る伊右衛門とお岩の物語をお話しします。

伊東は、タワーマンションの最上階で、新妻と祝杯を挙げていた。

手元のスマホには、非公開の厄落としアプリ『身代わり・地蔵』が常駐している。

かつては自分を支えたが、邪魔になると見るや一方的に「ブロック」した結果、絶望の中で命を絶った元恋人——その彼女の祟りを恐れた伊東が、高額な課金と引き換えに導入した「災厄吸い取りソフト」だった。


「これさえあれば、あいつの怨みもただの電子クズだ」


だが深夜、枕元でスマホが異常な熱を持ち始めた。

画面には、ノイズと共に「顔の右半分が焼けただれた女」の顔が、無数に増殖して映し出される。

【警告:システムが未定義の『コンピューターウイルス』に感染しました。身代わり機能が反転リバースします】


「.....ウラメシヤ......」

スマホのスピーカーから、女の、低く湿った声が響く。

直後、伊東のSNSアカウントが暴走を始めた。彼が隠してきた過去の悪行、隠し口座、そして元恋人を追い詰めた非道なLINEメッセージが、全フォロワーに向けて自動的に一斉送信されていく。


「やめろ! 削除しろ!」

焦る伊東が画面を叩くが、操作を受け付けない。

それどころか、スマホの充電ケーブルが蛇のように伸び、伊東の腕に巻き付いて、血管から直接「生気」を吸い出し始めた。


鏡を見ると、伊東の右顔面が、あの醜く死んだ彼女のようにどろどろと溶け落ちていく。

逆に、アプリの中の女は、伊東から吸い取ったデータで、みるみる美しさを取り戻していく。


【同期率:99%。まもなく、あなたの『存在』の削除デリートを完了します】


伊東は助けを呼ぼうと叫んだが、その喉からはもう、声が出なかった。

彼の肉体は、一瞬ごとに老化し、腐り、ついには見るも無残な姿へと成り果てた。

一方、スマホの画面の中では、美しい彼女がデジタルな永遠の命を得て、伊東が手に入れたはずの未来を嘲笑うように眺めていた。


翌朝、高級マンションに残されていたのは、バッテリーが膨張し、黒いヘドロを吐き出すスマホと、その横で、誰にも看取られず「データの屑」のように干からびた男の死体だけだった。

【住職解説】


現代では、スマホやアプリが人間の過去や責任を「消去」する手段と錯覚されがちです。しかし、仏教で説く因果は、どんな高度なソフトでも防ぐことはできません。


削除できない「業」というウイルス

 過去の行いを消したつもりでも、傷や怨念は形を変え、必ずあなたのもとに戻ってきます。物語の男は、アプリに押し付けたつもりの過去に、自らの命を明け渡しました。


立場のトレード

 怨念や業の力は、いかなる電子的手段でも制御できません。あなたの人生の一部を、気づかぬうちに他者に「同期」させてしまう危険があります。


あなたのスマホに届く通知や未払いの請求書は、もしかすると、あなたが過去に押し付けた業の知らせかもしれません。今夜は、画面の向こうに潜む見えない因果に思いを馳せてお休みください。


※本稿は、著者が住職として経験してきた事象を背景に、仏教的教訓を伝えるために再構成した「フィクション」です。

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