44.できる事をやります
ミーシャさんの合図と共にエリがものすごい速さでこちらに迫ってくる。
はやい、スピードならレインやボックサンにも匹敵しそうだ。
エリは俺に真正面からパンチを繰り出す。手のひらで受けてみると、これも獣人となったことでの影響なのか見た目の割にパワーもそこそこある。
拳を受止めるとすぐに下段蹴りをしてきたのでそれは後ろに下がって避ける、しかしそれも織り込み済みだったのか間髪入れずに追って拳を振るってくる。
ちゃんとコンビネーションが出来てるあたりボックさんに習っているんだろう。
だけどさすがにまだ習い始めて一ヶ月程度なので、荒削りなところが目立つ。
エリは戦っている俺より自分の拳や蹴りの先を見ているな、初心者にありがちな癖だがそれだと相手を見失ってしまう。
なのであえてそこを突くようにエリの蹴りが右から左に流れ視線も同時に流れる。なので俺は左から右へと少し素早く移動してみせる。
エリには俺が目の前から消えたように映っているんだろう、周りに視線を送るので俺は体制を低くして近づきエリの足の後ろに軽く足をかける。
俺の足に引っかかりエリはおしりから地面に転ぶ。
表情では状況を把握していなさそうな顔をしているがミーシャさんの終了の合図で意識が戻ってくる。
「終わりだな」
「むぅ、全然ダメだった」
「まだ初めて一ヶ月でここまで出来たなら充分すごいよ」
「先生にはたまに当たるのに」
それは多分ボックさんも加減しているからだろうな、今のエリの実力は力や速さはあるが戦い方がまだ拙い。手加減をしなければ目線や体の動きで次の攻撃がわかるのでボックさんに当たることは無いと思う。
それでもエリのやる気を削がないよう適度に攻撃を避けないようにしているんだな。
「頑張りましたね、とても良かったですよ」
「一回も当たらなかったのに?」
「そりゃあ、私だってコハクくんには一度も攻撃は当てれていませんからね。仕方ないです」
そもそもエリに戦いを教えているボックさんが攻撃に成功していないので今のエリにはできないのも当然だ。
「その歳でそれだけ出来たらすごいと思うよ」
「コハクに言われても嫌味なんだけど」
俺も励まそうとしたら何故か怒られた。
解せぬ……
休憩もそこそこに次の手合せの相手の所へ向かう
「次はミーシャさんですよね、昨日と同じルールでいいですか?」
「あの、コハクくんは普段魔法の練習はどんなことをしているんですか?」
「へ、別に普通ですけど」
同じだろうなぁと思いながら聞いてみたら逆に質問が帰ってきたので少し戸惑ってしまった。
「普段は師匠から言われたことをやってますよ」
「そのコハクくんの魔法の練習がどんなものなのか見せて貰ってもいいですか?」
「いいですけど、ここでできる範囲でいいですか?」
「もちろんです」
魔法の修練の中にはそこそこ広範囲な魔法も使ってみたりするのでそういうのをここでやってしまったら大惨事だ。
何をするか少しだけ考え地味だけどいいのがあったと思いつく。
エリも魔法が見れるのかとソワソワしているけど今からするのはそんなに見てて楽しいものでは無い。
俺はその場にあぐらを書くように座り目を閉じて自分の魔力に感覚を研ぎ澄ます。
魔人の体はそもそも全てが魔力で構成されており、擬似的に臓器を作り出している。魔力はそこら中にあり、場所によって量は違うがどこにでも存在している。
それこそ師匠の家の周りはそこにいるだけで一生食事をとる必要は無いくらいま力の濃度が高い、その半面街の中は少し薄い。
食事を取ればそれを魔力に変換することも可能だし、そもそも擬似的臓器からも魔力を自己生成しているので魔力の体に老化がない俺たち魔人が不死というのはそこが所以だ。
話がズレてしまったが大事なのは魔力を感じること、それから適切な量を使うこと。
炎ひとつ飛ばすのに大量の魔力はいらないように物事を発生させられる最低の量を見極めなければそれ以上の魔力を込めても無駄になってしまう。
なので俺は目を閉じて自分の体から少しずつ溢れ出る魔力をその場で氷に変換させたり炎にしたり風を吹かせたりする。
意外とこの必要最低限の魔力量で魔法を使うというのが難しく適当にやると本来よりだいぶ多く消費してしまうのでそうならないよう丁寧にかつスピーディにする。
最近は浮遊魔法を覚えたため一定の高さに体を保ちつついくつもの種類を同時に作れるようにしている。
これが前世で聞いたことのあるマルチタスクと言うやつだな
ちょっと違うぞ、とどこからが聞こえてきたような気もするがそんなことは気にしない
普段はこの作業を一時間くらいするが、これをそんな長時間見せられてもしんどいものがあるだろうから半分の三十分くらいで終わっておく。
残りは後ですればいいし
あと、今気づいたんだがどうやらシロークは俺の体から常少しずつ溢れている魔力を吸収しているようで魔力の移動が見えた。
意識しないと分からない程度だったので今まで気づかなかった。
体内時計でそろそろかなと思い、目を開き浮遊も解除して地面に着地するとすごい視線を感じたので視線の元を辿ればレイン含めた四人がじっとこちらを見ていた。
いや、見せてと言われたから見ているのは普通なんだがなぜか居づらい
「えっと、終わりましたけどどうかしました?」
もしかしたら思ってたよりも見ててつまらなかったのかもしれない、確かに見せるならもう少し見応えのある練習をすればよかったと思うがそもそも修練なんて地味なものが多いので仕方が無い。
ただ想像していたのは魔法をどこかへ向けてうつみたいなものだったんだろうと思い、それもやろうかと提案しようとした時
「せ、繊細すぎます!すごい、あんなの初めて見た」
どうやらミーシャさんはたまらなかったのではなくただ驚いてただけだったようで今は興奮している。
ボックさんもそれは同じだったようでなにかブツブツと一人で喋り出す。
「なんか、すごいのは分かってたわよ。」
「お、俺もわかったぜ。それより空飛べるンスか」
レインとエリはいまいち何をしていたのかわかって無さそうだ。
エリはまだ座学しか魔法は勉強していないらしいし、レインは魔法を使わない剣士だからそれもしょうがない。
それよりも気になることがある。
「さっきからその喋り方はなんなの?」
レインは出会い頭にさん付けで呼んだり口調も昨日より幾分か軽い。
「あぁ、それなんすけどよければ俺たちを弟子にしてくれないっすか?」
「え、やだ」
あまりに急なお願いに反射で答えてしまった。
しかし何だ急に弟子って……
「えぇ、なんでっすか?」
「なんでってそもそもまだ俺が修行中だし逆になんでそうなったんだよ」
なんでと聞きたいのはこっちの方だ、昨日一回手合わせしただけでどうなったら弟子にしてくれなんて言ってくるんだ。
「昨日あの後ミーシャと話し合ったんすよ、それでコハクさんの弟子にしてもらえればまだまだ俺たちは強くなれるってなって」
「それで今日たまたま会ったから頼んだと」
「今日だったのはたまたまですけどコハクさんがここに来るまで出待ちするつもりだったんで実質たまたまじゃないっす」
それってストーカー……
俺がずっと来なければどうしてたんだと聞きたくなったがどうせ来るまで待ってたとか言うのが目に見えたのでため息をついて口をとざす。
「だから頼みます、弟子にしてください!」
レインは頭を下げてお願いしてくる。先程まで興奮していたミーシャさんもいつの間にかレインの隣に立って頭を下げてお願いしますと言ってくる。
「そもそもこんな年下にそんな……」
「冒険者に年齢は関係ないっす、大事なのは強さと心意気っす!」
「心意気って俺はそんな大したものは持ってないけど」
どうにか断ろうと言葉を探すが、全てレインに返されてしまう。それどころか心置きとかよく分からないことを言い出した。
そな心意気とかわかるほど俺たち話てないよな?
「いや、俺実は昨日あの後聞いたんすよ。コハクさんが絡んできた冒険者を一掃して子供に絡む弱いやつは冒険者をやめろって言った話を」
それ師匠の話!
なんか、俺の知らないところで師匠のしたことまで俺のせいになってる!
「その話を聞いて感動したんすよ、だからお願いします」
「お願いします」
二人してもう一度頭を下げてくるが正直俺の考えは変わらない
「ごめん、二人を弟子にはできない」
「どうしてですか?」
レインが俺の目を見て聞いてくる。
こんな子供相手に真っ直ぐ話せるのはすごいと思う。なので俺もちゃんと話す。
「まず、俺がまだ師匠に教えて貰っている立場だし、それにこの街にいつまで滞在するかも分からないからね」
可能性の話で言えば明日明後日に帰ることになることだってありえるのだ。
それに師匠から出されたBランクという課題を無視して弟子を取るというのは後で怒られる気がするし
「ついて行きます」
「それは無理だよ」
「ついていけるよう頑張るので!」
「俺に攻撃を一度も当てれない時点で無理なんだよ」
冷たく聞こえるかもしれないがあの森深くの師匠の家に行くには圧倒的に実力も足りてない。
それに弟子を取るには多分、師匠を納得させるということも必要になるので俺の実力も多分足りてない。
「そんな……」
ここまで頼んで断られるとは思っていなかったんだろう。項垂れている。
しかし、俺に弟子は取れないのでしょうがないのでこればかりはどうしようもないが妥協案を出してみる
「その代わりこの街にいる間だけたまに手合わせする程度ならいいよ」
タイミングがあった時でいいなら俺の活動にも支障はないしいつ街から出ていくことになっても問題ない。
その提案にレインとミーシャさんは目を輝かせ嬉しそうにする。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
また頭を下げられ少し小っ恥ずかしい気持ちが湧いてくる。
「良かったですね、二人とも」
「おめでとう!」
黙ってやり取りを見ていたボックさんとエリも二人に歩み寄り仲良さそうに話している。
エリはミーシャさんに習うことがこれから増えるだろうし、レインはボックさんの動きに学べることも多いんだろう。
それぞれどうやっているのか、どうしてなのか質問をしあっている。
その姿を眺めていると横からシロークの鳴き声がしてくる。
「シャン、シャーン!」
自分がいるよとアピールしているようだ。
どうやらシロークの目には俺が寂しそうに映っていたみたいだ。
ありがとうと言いながら頭を撫でてあげると嬉しそうにする。
「あぁ、シロークを出してる!」
「コハクさんなんですかそいつ!?」
「魔獣!?」
シロークを撫でている俺を見て三者三葉に騒ぎ出すので軽く紹介をしてその後レインとも手合わせをして昨日と同じようになるまで手合わせを続けた。
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