43.またまた手合わせです
エミルさんに案内されるまま奥の部屋に入ると冒険者ギルドと似たような作りの部屋があった。
部屋には向かい合うように2人がけのソファがあり、座るよう促される。
俺達は三人だったがエリがボックサンの膝の上に座るかたちになった。
全員が座る頃に飲み物が配られるとエミルさんが話始める
「今回は珍しい魔獣をお持ちになられたそうでありがとうございます」
なんの話しをするのかと思えばこの前冒険者ギルドに渡した魔獣の話だった。
「えっと、冒険者には毎回こんな風にお礼を言うんですか?」
「いえ、普段からこうしてる訳ではありませんよ。コハクくんの持ってきてくれた魔獣が貴重だった事と仲良くしておいた方がいいような勘がしたので」
そういえば冒険者ギルドから商業ギルドが解体した魔獣を買取ってさらにそれを売ると言っていたので商業ギルドに利益が出たんだろう。
それにしても仲良くってさすが商人を束ねてるだけあってちゃっかりしてるな
「ところで家の件なんですけど」
「そうでしたね、いくつか条件にあった家がありましたのでこちらをご覧ください」
そう言われて街の地図と家のことが書かれた紙を沢山渡される
地図には番号が書いてありいえの条件が書いてある紙にも番号が書いてあるのでこの家がここにあるということなんだろう。
俺は一度軽く条件を見て、違うかなと思ったところの紙を省いていく。
少しずつ比べながら選ぶと残り四枚まで選ぶことが出来た。
「とりあえずこの四つを見てみることって出来ますか?」
「わかりました、それじゃあ今から行きましょう」
「エミルさんが行くんですか?」
ギルドマスターがそんな気軽に動いていいのか?
「大丈夫ですよ、逆に他の職員に任せて失礼なことでもしたら事ですからね」
わざわざ断る理由もなかったのだそのまま案内してもらうことなった。
選んだ家はどれも近いところにあったので内見は割と早く終わることが出来た。
家の中までしっかり見せてもらい所々ボックさんやエミルさんの助言を貰って決めることが出来た。
「それじゃあここで決まりでいいですか?」
「はい、ここにします」
「それではこの書類にサインをお願いします」
選んだ家の中で書類を出されたのでサインしようとするもハタとおもいだす。
「そういえば家のお金の支払い明日にしたいんですけど大丈夫ですか?」
俺はまだ冒険者ギルドからお金が入っていないので無一文と言っても過言ない。食事数回分くらいでは家が買えないことくらい俺でもわかる
「あぁ、お金がまだ入っていなんですね。その件でしたら良ければ差し引いておきましょうか?」
「差し引いて?」
「はい、元々ウチが買い取ってそのお金がコハクくんに渡されるという手順になるのでこの家を差し引いた分を冒険者ギルドに渡せば二度手間にならずに住みますよ」
「なるほど、それならお願いします」
また明日お金を払う為だけにここに来ないでいいのはありがたい。
「それではこちらの書類にもサインをお願いします。それとこの家の鍵を渡しておきますね」
鍵を受け取りもう一度別の書類にサインをしてそのまま俺達とエミルさんはそこで別れることになった。
「良かったですね、いい家があって」
「はい、そういえばボックさんミエルさんと知り合いなんですよね?」
初めて会った時久々と言っていたし昔あったことがあるんだろう
「あの本屋を建てる時にお世話になったんですよ、当時はまだギルドマスターではありませんでしたが」
「私もお父さんと一緒に会ったことある」
エリも会ったことがあったのか。
「コハクくん今からどうします?他の予定はありますか?」
「商業ギルドでもう少し時間がかかるかと思っていたので今日はもうないですね」
「それじゃあお昼を食べたら例の件いいですか?」
例の件というのは手合わせの件だろう。特に断る理由もないので頷き了承する。
「ありがとうございます、お礼に昼食は奢りますよ」
「ありがとうございます」
「私魚料理がいい!」
エリの希望もあって以前泊まった宿屋で食事をすることになった。
宿屋の店主は俺を見ると覚えていたようで嬉しそうに手を振ってキッチンに戻っていく。
「人気者ですね」
「別にここでは何もしてないんですけどね」
実際なんであんなに宿屋の店主が俺と師匠に友好的なのか分からない、困ることは無いのでわざわざ聞いたりもしないが。
メニューからそれぞれ食べたいものを注文して待っていると誰も頼んでない料理まで着いてきた。
師匠と共にしたあの時の記憶が蘇る
「あの、これ頼んでないですよ」
一縷の希にかけてそう店主に聞いて見る
「いや、そいつはサービスでさぁ。まだ持ってくるから待っててくれ」
「ちょっと待って!」
急いで店主を止めてこれ以上は大丈夫ということを必死に伝える。このままだとほんとに前回の二の舞になる。
店主は渋々ながらも理解してくれた。
最初に持ってきてくれたサービス品だけ有難くいただく事で事なきを得た。
自分たちで頼んだ三人前の料理に一品追加されたがボックさんがいたためそこまで苦しくなく間食することが出来た。
俺たちは宿屋にお礼をいった後冒険者ギルドに向かうがどこに行くかわかっていない人が一人。
「ねぇ、今からどこに行くの?」
「冒険者ギルドだよ、ボックさんに頼まれて街にいる間たまに手合わせをすることになったんだ」
「そうなの?なんで?」
「最近体がなまってしまったのだいい機会だしコハクくんに指導してもらおうかと」
「指導という程のことは出来ませんよ」
「はい、そうでしたね」
ボックさんはほんとに分かっているのかにこにこと訂正する。
「私も行っていいの?」
「そりゃエリも手合わせするんだからな」
「え、なんで!?」
急に言われえりは驚いた表情をするがその辺の説明はボックさんに任せよう。
冒険者ギルドに向かいながらボックさんがこれから必要だと説明している、エリも体を動かすことは好きなようで将来魔法に生かせると言われて了承していた。
ちょろい
冒険者ギルドにつき裏手にあるひろばを借りるため受付にカリンさんが居ないかとさがすと向こうの方が先に声をかけてくれた。
「今日はどうしたんですか?後ろにいるのはギルマスのお子さんとボックサンじゃないですか」
二人とも声をかけられ挨拶をしている。
「ちょっと、裏の広場を借りたいんですけどいいですか?」
「それはもちろんいいですけど何に使うんですか?」
裏の広場の使い道と言えば修練するか手合わせするかしかないだろうけどこのメンバーを見て手合わせするとは誰も思わないよな
「ボックさんに言われて手合わせするんですよ、なのでこれからしばらく何度か借りることになるかもしれないです」
「ボックさん大丈夫ですか?」
俺のことを知っているカリンさんはボックさんの体を見て心配をする
まぁ、片腕では戦うことは難しいもんな
「えぇ、死なないよう頑張ります」
流石に片腕とはいえ手合わせで死ぬことは無いだろ。
「コハクくん、あまりやりすぎたらダメですよ」
何故かカリンさんに念を押された
いやいや、昨日手合わせした時も別にやりすぎたりしてないはずだ。
二人とも俺がギルドを出るまで倒れ込んでいたけど...
とりあえず「はい」とだけ言って広場に向かうと広場には既に人がいた。
広い場所なので問題は無いだろうが手合わせをするなら伝えておかないとぶつかったりする危険があるので話しかけようと向かうと見た事のある顔があった。
「琥珀さんじゃないっすか!」
「あ、こんにちは!」
コハクさん?
呼び方が気になったが聞かなかった振りをして話しかける。
「昨日ぶり、レインにミーシャさん」
そこに居たのは昨日手合わせをした二人だった、昨日もあれだけやったのに今日も修練しているらしい。さすが若手のホープなだけあって真面目だ。
「どうしてまたここに?それに女の子もつれて...まさかデートっすか!」
なんかムカついたので昨日より魔力を込めて殴っておく。こいつの目にはボックさんもいるのが目に入らなかったのか?
拳はしっかりと腹に入りレインはその場に崩れ落ちる。
「えっと、どうかしましたか?御二方も連れて」
蹲るレインをちらちら見ながらそう聞いてくるのでこの二人と手合わせをすることを伝え少し迷惑かけるかもしれないことを伝えるとミーシャさんからも対案が飛んできた。
「それでしたらその、ご迷惑でなければ私たちにももう一度お願いできませんか?」
まぁ、二人も四人もそこまで変わらないので受ける。
その代わりエリに魔法のことを教えて欲しいと頼むと快く頷いてくれた。
いまだ蹲っているレインと俺以外で自己紹介をした後手合わせの順番はボックさんエリ、ミーシャ、レインの順ですることになった。
レインは端に寄せられ寝転んでいる。
たった一発で情けないな...
しかし周りはレインを不憫そうな目で見ている
何故...…?
「それで、ルールはどうしますか?魔法はナシなんですよね?」
確かボックさんは魔法が使えなかったはずなので俺だけ使っても勝負にならない。
というかこのメンツで俺が魔法を使って勝負になる相手はいないけど。
「そうですね、魔法無しの最初は五分間でやりましょう」
ルールも決まったのでボックさんから少し距離を取り体を伸ばす。
魔人でも準備運動は大事だ
「それじゃあ俺はいつでもいいですよ」
「私も大丈夫です」
「それじゃあ、えっと、初め!」
ミーシャさんのキョドった合図と共にボックさんが素早く詰め寄ってくる。
スピードは以前と何ら変わることなく衰えは見えないが、片腕しかないため自然と次の一手の予測範囲が狭まる。
ボックさんは俺に蹴りを入れてくるのでそれを後ろに軽く避ける。
位置が低い?
蹴りの位置が妙に低いことに違和感を感じより後ろに下がると蹴りのために前に来ていた足で地面を踏み締め拳の方が飛んでくる。
予め後ろに飛び避けていたため当たることは無かったが危ないところではあった。
「今のが当たりませんか……」
さすがは年長者なだけあって経験が多いことが分かる。片腕こそないが昨日の二人とは違って駆け引きが上手い。
俺は足を止め迎え撃つ体制で構える。
ボックさんはそれに一瞬驚いた表情をするがすぐに気を引き締め直す。
ボックさんの蹴りや拳が色んな角度から飛んでくる。フェイントを挟んだりしているため手が図が多く感じるが師匠との手合せと比べればまだまだ隙が多い。
良けれる攻撃は避け間に合わなさそうな時のみ防いで時間をやり過ごす。隙を見て反撃してもいいのだがその一撃で蹲られても修行にはならないので隙があるとわかるよう軽く当てるだけにする。
触られる度ボックさんは一瞬動きが止まり悔しそうな表情をする。
そうしているうちにミーシャさんから終了の合図が叫ばれる。
ボックさんはその場に座り込みエリが駆け寄って水を渡すとそれを一気に飲み干す
「勝てないとは思ってましたがここまで相手にならないとは」
「片腕になって一ヶ月なら仕方ないですよ」
「いえ、あれから毎日鍛錬はしてるので一発くらいは入れたかったんですがね」
謙遜をしてるが実際腕が片方なくなって一ヶ月目でこれだけ戦えるのはすごいことだ。
前世の常識ならまだ入院してる期間だ。
「ボックさんすごく強いんですね」
ミーシャさんも目を光らせて尊敬の眼差しでボックサンを励ます。レインも話しかけたそう顔をしているがまだ端の方で動けず顔だけこっちに向けている。
「それじゃあ次はエリだね」
「今のを見て私に何しろって言うのよ」
エリからすれば今のを見て俺といきなり戦えと言われたら意味わかんないだろうな。
そもそもエリに戦うとかできるのか?
そう思い訪ねてみると起きてからボックサンの鍛錬中一緒にやってるらしい。
どうも獣人になって身体能力が上がったようで楽しくやれてはいるらしい、なので基礎はできてるとの事だ。
なら問題は無いかな?
「じゃあ俺からは何もしないからどこからでもいいよ」
そう言って先程のようにエリから距離を取りミーシャさんの合図と共にエリがこちらに走ってくる。
しかしスピードが早い、ボックさんに迫る速さだ。
え?早くね?
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