42.身分証明書はいざと言う時大事です
ペシ...ペシ……
妙な音ともに顔に何かが当たる
ペシ……
一定のリズムを刻むように顔を何かが叩く
痛いものでもないのでそのまま意識を手放す
ビタンッ!
「うわ、なに!?」
急に何かが顔を叩いた感触がして飛び起きるとすぐに犯人が見つかった。
シロークがほんとにヘビなのか怪しんでしまうほど体を伸ばして熟睡している。
しっぽの先端がたんたんと床を叩いているので間違いなくさっきのはこれだろう
寝る時はとぐろを巻いてなかったか?
すっかり目が覚めてしまったのでシロークも起こして毛布をたたみ部屋から出るといい匂いがする。
リビングの方に向かうとボックさんが椅子に座ってお茶を飲んでいた
「ボックさんおはようございます、ギルマス達は?」
「おはようございます、ダグマさん達ならもう仕事に行きましたよ」
まだそんなに遅い時間じゃないのにもう仕事に行ったのか
もしかしたら昨日早く帰った分今日早く行ったのかもしれない、それなら少し悪いことしたな
「ラビッテさんが朝ごはんを用意してますのでいま持ってきますね」
そう言ってボックさんはキッチンの方に向かう。
俺は軽くお礼を言ってから一度洗面所で手と顔を洗ってリビングに戻るとパンとスープが用意されていた。
シローク用のお肉だけ切り一緒にご飯を食べる。
「エリはまだ寝てるんですか?」
「エリちゃんなら部屋で宿題でもしてるんじゃないですかね?」
宿題?
何の話かと聞いてみれば俺たちが街を去った後に魔法の勉強をしているらしい、今はまだ実技をせず座学を学んでいるとのことだ。
俺が一番最後に起きたということにちょっとショックを受けたが俺だって仕事があれば早く起きれたはず。
なんなら昨日までは森にいたので疲れてたんだ、と誰に対してか分からない言い訳を頭の中でごちる。
食事も終わりシロークとのんびりしていたら二階から物音がするとエリが降りてきた。
「コハクおはよう、起きてたのね!」
「おはよう、エリも起きるのが早いな」
「なんだか最近早く目が覚めちゃうのよね」
意外とそういうところでも獣人になった影響があるのかもしれない
「もうしばらくしたら商業ギルドに向かおうと思ってるから準備は大丈夫?」
「あ、服だけ着替えるから少し待ってね!」
「ゆっくりでいいよ」
再び二階に駆け上がるエリに向けて言ったけどが聞こえてたか分からない。
「そういえば今回はどれくらいこの街に滞在するんですか?」
「いつまでというか、師匠からBランクになるまでとは言われてるのでのんびり依頼をしながら目指そうかなと」
「確か昨日Cランクに上がったんですよね、ほんとに凄いですね」
凄いのは魔人という種族のおかげなので「たまたまです」と言ってはぐらかす。
「それにしても、僕はあの店を買うのに二十年分くらいの貯金を使い果たしたんですけどね」
「山の麓くらい奥に行けばいくらでも稼げますよ」
「ははは、そんなところに行ったら稼ぐ前に死んじゃいますよ」
森の奥に行けば行くほどなかなか手に入らない魔獣が多いため買取金額は多くなるがその分敵も強くなるので危険も高い。
冒険者という職業はつくづくハイリスクハイリターンだと思う。
「話は変わるのですが少しコハクくんに頼みたいことがあるのですが」
頼みたいこと?
ボックさんはどこか少し言いづらそうにしている
「どうしたんですか?俺に出来ることならいいですよ?」
今日もわざわざ店を閉めて商業ギルドに付き合ってくれてるのだ、無理難題でなければ手伝ってもいいと思う。
「街にいるあいだ良ければ僕とエリに近接の手合わせを頼みたいんです、もちろん時間がある時でいいんですけど」
思ってた以上に予想の斜め上な頼み事に驚く、エリはまだしもボックさんも?
「ボックさんは十分強いじゃないですか、俺に教えれることなんて」
「いえ、あの時のコハクくんの動きを一瞬見て技術だけでも僕の数段上にいるとわかりました」
ボックさんは真っ直ぐとこちらを見ながらそういってくれる、確かに近接格闘は前世で修練と経験を積んで同職にも負けない実力はあった。
そこだけは自分の努力で得たものだと思ってはいるが教えれるかと言われれば微妙な所だ。
「やはり難しいですか?」
俺が悩んでいるとボックさんが不安そうにそう訪ねてくる。
「手合わせ自体はいいんですけど俺に教えれることなんてないですよ?」
「大丈夫です。自分より強い相手と手合わせする、それだけでも充分得るものはありますから」
「まぁ、そこまで言うなら」
「ありがとうございます!」
「それじゃあ、家を決めたら冒険者ギルドに行きましょう」
場所はどうしようかと思ったが昨日も手合わせをしたなと思いつき冒険者ギルドの広場でやればいいかとなった。
エリは冒険者じゃないけどギルマスの娘だし多分大丈夫だろう。
ちょうど俺たちの話も一段落着いたところでエリが着替えて降りてきた。
「お待たせ、それじゃあ行きましょ」
エリの用意もできたので俺たちは家を出て商業ギルドに向かう。
ちなみに家の鍵はボックさんがギルマスから預かっていたようで戸締りに抜かりは無い。
「それにしても、コハクが家を買うなんてすごいわね」
「これからもちょくちょくこの街には来ると思うから家があった方が便利だしね」
「たまに来るからという理由で家を買う人はいないと思いますけどね」
まぁ、普通に考えれば宿屋でいいんだろうけどシロークのことも考えれば家を買った方が面倒事は少なそうだ。
「いい家があるといいんですけどね」
こればかりは運なためどうしようもない、これから一生過ごす訳でもないので余程悪くなければいいかなとも思っている。
最悪の時は今回の滞在は宿屋で過ごせばいいだけだし
話してるうちに冒険者ギルドと似たような建物が見えてくる。しかし冒険者ギルドよりはいくらか綺麗だ。
「着きましたね、ここが商業ギルドですよ。」
建物の入口は商人っぽい人達がたくさん出入りしている。
冒険者っぽいガタイのいい人もいたので誰でも出入り自体は可能なんだろう。
とりあえず俺達も入口から入るとたくさんの受付がありそこに人が並んでいる。
「ここに並べばいいんですかね?」
「そうですね、一度ここに並んで受付で対処出来る話ならここで、魔獣の取引、住居取り扱い、出店に関してなどになるとまたこの後専門のいる所に引き継ぎをされたりします。」
なるほど、たしかに全ての業務を受付で対応していたら回らなくなりそうだもんな。
俺達も列に並び話しながら待つことにする。
意外と進むペースは早く見た目ほど待つことなく受付に着くことができた。
「こんにちは、本日はどのようなご要望でしょうか?」
「家を買いたいんですけど」
「かしこまりました、今資料をお持ちしますので少々お待ちいただけますか?」
受付の女性は丁寧に接してくれているが話している俺と隣に立っているボックさんを交互に見ているので多分俺が買うとは思われてなさそうだ。
受付の女性は一度奥に行くと直ぐに戻ってきてカウンターのテーブルに紙を広げる。
「これがこの街の地図となってましてここが現在地でこちらとこちらが西門と東門です。立地の希望はありますか?」
受付の女性は指をさしながら一つ一つ教えてくれる。
俺が通ってきたのは東門なのでそこと冒険者ギルドの間くらいが望ましいのでそれをそのまま伝える。
「えっと、お父様?もそれでよろしいですか?」
受付の人が困ったようにボックサンを見ながらそう尋ねる。
どうやらボックさんが俺の父親だと思っているみたいでボックさんもそう言われて驚いていた。エリは横でくすくすと笑っている。
「えっと、僕は知り合いなだけで親では無いです、家を買うのもコハクくんなので……」
受付嬢は慌ててボックさんに謝るが困ったように俺の方を見る。
「えっと僕が家を買うのかな?」
「そうですけど」
急に子供相手に話すみたいになったな
「家ってもしかしてお人形さんの?そういうのはうちでは無いけど扱ってる店なら……」
どうやら俺が普通の家ではなく人形遊びの家を買うのかと勘違いを始めたみたいだ
まぁ、こんな見た目で家を買うと言ってもふざけてるようにしか見えないよな。
とりあえず冒険者カードにはランクも載っているのでそれを渡す。
「これは冒険者カード、ってCランク!?え、うそ!」
よほど驚いているのか俺とカードを交互に見る。
カードには俺の魔力が登録されているので他人のものと疑われることもない、便利な身分証明書だ。
「ここでこのまま対応されるなら今渡した方がいいですかね」
横からボックさんが何やら懐から封筒を取り出し、カードをじっと見ている受付上に渡す。
「これをギルマスに渡してください、冒険者ギルドのダクマさんからの紹介状です。」
そういえば昨日そんな話をしたのを思い出す。
すっかり忘れていた。聞けば朝渡されたらしい
「えっと、少しお待ちください」
そういってカードを俺に返すと封筒を持って奥に走っていってしまった。
「ぷぷ、先生がコハクのお父さんだって」
「僕はまだエルフ的にはそんな歳ではないんですけどね」
「ボックサンっていくつなんですか?」
「まだ、二百いってないですよ」
そんなにいってるのかと驚く
充分大人だ、ていうかエルフの子供がいる歳は何歳からになるんだ
エリは知っているようで特になんのリアクションもしてない
すると、奥から先程の受付嬢と一緒に眼鏡をかけた女性が一緒に歩いてくる。
「初めまして、私はここの一応責任者をやってるエミルと言います。コハクくんよね、よろしくね」
責任者ってことは商業ギルドのギルドマスターってことじゃないか、なんでわざわざここに?
エミルさんは握手を求めるように手を差し出してきたので俺も無視する訳には行かないのでその手を取って軽く挨拶する。
「コハクです、よろしくお願いします」
「とりあえず、ここではなんだから奥の部屋に行きましょう、ボックも久しぶりね」
「お久しぶりです、エミルさん」
どうやらボックさんは商業ギルドのギルドマスターとも知り合いのようで挨拶をしている。
意外と顔が広いなこの人も
俺たちは案内されるまま奥の部屋へと通された。
ギルマスは手紙に一体何書いたんだ?
今回も読んで頂きありがとうございます。
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