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魔の増す間に  作者: 負けうさぎ
冒険者、はじめました

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40/50

38.残業はよくないです

街が見えてきた俺はシロークを首に移動させローブをフードまで被り万が一のメガネかけフル装備で門番の所へ向かう。


「えっと一ヶ月前にも来たんですけど」

「あぁ、ツクヨ様と一緒にいた子供か!この前見せてくれたカードを出してくれるか?」


門番は俺の事を覚えていたみたいで帰りに冒険者カードも見せたことまで覚えていたらしい。


「今日はツクヨ様はいないのか?」

「暫くは俺一人で街に滞在しようと思ってます。何度か街と森を行き来するのでよろしくお願いします。」


これからもこの門は通ることになるだろうから印象はいいに越したことはない、なるべく丁寧に接しておく。


「さすがツクヨ様の弟子だ、しっかりしてらぁ。俺の子供とはえらい違いだ!」


門番はガハハと笑いながら頭を撫でてくる。

手つきが荒いのでフードが落ちないよう頭を抑える。

前はもっと丁寧じゃなかったか?師匠がいたから猫でも被っていたのかな


「よし、カードの確認も取れたし入っていいぞ。」


前回と違って部屋に通されず真っ直ぐ門を潜り見た街は一か月前と変わった様子もなく人々で賑わっていた。


「街の中では出てきちゃダメだからな」

「シャン」


街に入る前に散々念押したが一応もう一度首元にいるシロークに念を押してまずは冒険者ギルドに向かった。


相変わらず冒険者ギルドは騒がしく外にいても中から冒険者の騒ぎ声が聞こえる。

今まで二回ここに入って二回とも絡まれているため少し入るのに気が重い。

それに今回はこっそり魔獣を連れてきているのでバレてしまったら大変なことになるのが目に見えている。


しかしいつまでも入口の前にいてもしょうがないのでドアを開き中に入ると先程までの騒ぎが嘘のように静かになりヒソヒソと話し出す。


俺としても絡まないのであればいいので周りの冒険者は無視して受付にいる見知った顔の人の所へ行く。


「久しぶりです、カリンさん」

「お久しぶりですね、なかなか来ないのでこの前の件で嫌気がさして別のギルドに行ったんじゃないかと思いましたよ」


カリンさんは前回挨拶しているのでほかの人たちみたいに詮索したり不要な心配はしないはずなのでありがたい。


「依頼を受けるんですよね?なにかご希望はありますか?」

「いや、今日は街に着いたばっかりなので宿を探そうかなと、それとちょっとギルドマスター呼んでもらっていいですか?」


さすがに今日街に到着してまた森に戻るのは遠慮したいので依頼は断り相談したいこともあったのでギルドマスターを呼んでもらう。


カリンさんはすぐに裏に行ってギルドマスターを呼びに行ってくれると直ぐに奥から走ってくる音が聞こえる。


「コハク!来たのか、久しぶりじゃないか」

「久しぶりです、と言っても一ヶ月ですよ」


カリンさんもギルドマスターも一ヶ月くらいで大袈裟だ。


「街には今日着いたのか?エリやボックには会いに行ったか?」

「そうですね、さっき街に着いたばかりなのでまだ誰にも会ってないですよ」

「そうかそうか、だったらボックも呼んでぜひ今日は家に泊まってくれ。どうせまだ宿もとってないんだろ?」


どの道、エリやボックさんに挨拶しに行こう思っていたのでちょうどいいかなと思いギルマスの申し出に了承する。


「それで、この後はなにか予定があるのか?俺はもうちょい仕事があるんだが」

「それなんですけどちょっとギルマスに相談があって」

「ダグマでいいって、相談ってなんだ?」

「ここではちょっと」


周りの冒険者たちに目を向けると察してくれて奥のギルマスの部屋に通される。


「それで相談ってなんだ?」


改めて部屋に入り向かい合った状態で聞かれたので被っていたフードを外す


「なんだメガネかけてイメチェンか?似合ってるぞ」

「違います、メガネはただの瞳を隠すための道具です」


俺が気づいて欲しかったのはそこじゃない

その時フードを外されたことによってシロークがモゾモゾと動き出す。


「ん?なにか今首元のマフラーが動いたような……」


ここまで見せて気づかないなら案外街中でも気づかれないかもな。

そもそも魔獣を連れて歩くという発想もないか


「シローク動いてもいいぞ」


俺のその言葉を合図にシロークはスルスルと肩のところくらいまで顔をのばし周りをキョロキョロとしだす。


「な、なんだそいつは!」

「シロークです、森で拾って飼うことにしたんですけどやっぱりまずいですよね?」

「……魔獣だよな?」

「まぁ、あの森にいたんで」


ギルマスは信じられないものを見るようにシロークと俺を交互に見る


なんで俺も?


「危険じゃないのか?」

「言うことは聞いてくれるので大丈夫かと」

「大丈夫って言ってもなぁ」


まぁ、大丈夫たがらと言ってもそれだけでそっか!とはならないだろうな。


「ギルマス、手を前にいいですか?」


論より証拠なのでとりあえずギルマスにシロークを触って貰うことにした。

ギルマスがおずおずと手を伸ばすのでそこにシロークをのせるとギルマスの腕から登るように顔のところまで行くと俺の方に向かって飛んできたので上手くキャッチする。


おぉ、シロークと俺なら大道芸人にだってなれそうだ。


「こんなにゾワゾワとした感覚は初めてだ、とりあえず危険がないのはわかったが街中では出さないようにしてくれ。」


元々その予定なので頷いておく。


「魔獣を飼うってこと自体聞いたことがないし、そもそもそんなに懐くものなのか?」

「さぁ?シロークは初対面からこんな感じでしたよ?」


別に懐かれるような何かをした訳では無い、倒れてるところを見てられなくて申し訳程度のパンを上げただけだ。


「ま、まぁいい。相談はそれだけか?」

「あと、魔獣の買取をして欲しいんですけどどこに行けばいいですか?」


ギルマスの奥さんがそこのリーダーというのは聞いたが場所までは聞いてないのでせっかくなのでここでいざ聞いておきたい


「あぁ、それなら俺が案内しよう。カリンも連れていくか」


ギルマスが直々に案内してくれるみたいだ

また別の人を紹介されても覚え切れる自信が無いのでありがたい。


「解体、買取はここでやってる。未解体のものは解体料を差し引くことになるが大丈夫か?」


連れてこられたのはギルドの横にあった建物でてっきり倉庫かと思っていた場所だった。


「解体はできないし面倒なのでありがたいです。」


正直、解体はしたくない。部位ごとに切りとったりとか面倒くさいし何より血まみれになるのが嫌だ。


俺とギルマスはそのまま買取所の建物に入ると受付がまたいくつかありギルマスが一人の職員に何かを言うとその職員は後ろに下がっていった。


なんだ?そう思っていると奥から別の女性が出てくる


「コハクくん久しぶりね!街に来ていきなり魔獣を持ってきてくれたんですってね」


奥から来た女性はラビッテさんだった。

自分の奥さんを呼んでいたのか。まさかここに来たのも奥さんに会う口実じゃないだろうか


「コハク今変なこと考えてなかったか?」


俺の視線に気づいたのかギルマスが聞いてくる。

さすがギルマスなだけあって視線に敏感だ


「気のせいですよ。それでここに出していいんですか?」


これ以上勘ぐられないよう話題を変える。


「えぇ、未解体なのよね?ツクヨさんの弟子ならきっとすごい魔獣なんでしょうね」


なんか知らないけど勝手にハードルが上がってる、そんなに期待されても遭遇した魔獣達だからそんな珍しいものもないはずなので期待しないで欲しい。


とりあえず俺は最初に倒したトラみたいなのをアイテム袋から取り出すと周りがざわつきだす。

気づかなかったがギルドにいた冒険者が興味本位で着いてきてたみたいだ。


「これって王虎(ケニングタイガー)じゃないですか!」


そんな名前だったんだ。とりあえず四匹持ってるので全部取り出す、一匹でもかなりの大きさがあるためそれだけでももう置けなくなってきた。


「おい、俺あんなの初めて見た……」

王虎(ケニングタイガー)って実在してたんだな……」


野次馬していた冒険者がヒソヒソと騒ぎ出す


「こ、コハクこいつはお前が倒したのか……?」

「そうですよ、ところでまだたくさん魔獣があるんですけどどこに出したらいいですかね」

「な!まだあるのか!?」


ギルマスは驚いているがそりゃ森の中通って出会ったのが虎四匹なはずがないだろ

今日は泊めてもらえるからいいけど明日からは宿賃なども必要なので出来れば沢山売っておきたい。


魔獣なんてシロークの餌分持ってれば十分だからな


とりあえず出せるところがないので建物から出てギルドの職員が大量のシーツを地面に敷きそこに出すよう言われたのでアイテム袋から全て取り出す。


全ての魔獣を取り出すと俺の思ってた以上にあったので少し驚いたがまぁ、多くて悪いことはないだろう。


先程から喋らないラビッテさんが少し気になるがこれだけ魔獣を持ってきたんだからまとまったお金を手に入れることはできるはず


その時カツカツとラビッテさんは俺の前まで黙って歩いてくると思いっきり肩を掴んできた。


「コハクくん!約束したわよね?ツクヨさんみたいにはならないって、どうしてこんなにあるの!?それにほとんどが滅多に見ることがない魔獣ばっかりだし……」


ラビッテさんはそのまま膝を着いてしまい何を言われてるのか分からなかったのでギルマスの方を見ると頭を抱えながら説明してくれた。


どうやら量が多いのは前提として持ってくる魔獣がどれも珍しいものらしい。


珍しいものはただでさえ解体が難しく時間がかかるのにこれだけの量があるとどうやっても仕事が回らなくなるため残業が確定したことで絶望したらしい


そして俺もその話を聞いてピンと来た


師匠もこんな感じでした往復するだけで毎回怒られてたんだろうな、それに多分ギルドに出す魔獣も選んでいたんだなと図らずも過去の師匠の苦労を知ってしまった。


「それなら今日は残業しない程度の量引き取ってください、後は俺が回収しておきますので」

「それだと魔獣が腐っちまうぞ?ギルドの問題だから遠慮しねぇで出してくれ」

「大丈夫です、俺のアイテム袋は特別なので」


師匠の【時間停止】が組み込まれた俺のアイテム袋に入れておけば腐ることは無い

さすがに今日泊まりに行く家の相手を残業させる訳にはいかないので腐る心配は無いとしっかりと伝えておく。


俺のせいで寝てる時に家の持ち主が仕事から帰ってくるなんて気まずすぎる


それでようやくラビッテさんも地獄に落ちた表情から元の笑顔に戻る


「それじゃあ今日はオーガと王虎(ケニングタイガー)を一匹だけ預かるわね、お金は明日でもいいかしら?」


基本的に未解体の魔獣は査定をして解体したあとに金額が決まるそうなのでお金が貰えるのは次の日となるそうだ。

俺は問題ないのでそれに了承して残りの魔獣を片付けていく。


「さっき聞いたんだけど今日はうちに泊まるのよね?」

「はい、すいません急に」

「いいのよ、エリも喜ぶわ」

「そういえばエリは今家にいるんですか?」


考えてみれば両親がここで働いてるということはエリはお留守番でもしてるのかな?


「エリならあれから私たちのいない間はボックの家にいるわよ、なんだか前にも増して最近懐いてるのよ」


ほほほほと楽しそうにラビッテさんは笑っているが隣のギルマスは面白くなさそうな顔をしている。

どうしたんだ?


「ボックのことは信頼してるがさすがにまだ早すぎるだろ」


父親の嫉妬心か、っていうかギルマスの考えこそ気が早すぎる気がするが面倒くさそうなのでここは黙っておく。


「俺はあと一時間くらい仕事をすれば終われるがお前はどうだ?」

「私も同じくらいね、ある程度下に任せられるくらいまではやりたいからね」


どうやら二人ともあと一時間程度で仕事を上がれるようにしたらしいので俺は特に行くところもないのでギルド内で待っておくことにした。


「あぁ、そうだ。コハクは一度カリンの所に寄ってくれ」


去り際にギルマスにそう言われたので俺は受付にいるカリンさんの元へ向かった。


今回も読んで頂きありがとうございます。

どんな評価、感想でも励みになりますので良ければお願いします。

次回も是非よろしくお願いします( ´ ▽ ` )

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