34.手合わせをしました
街から帰ってきて早一ヶ月ほどのんびりとした生活が続いている。
帰ってきたその日は俺も師匠も疲れていたためお風呂に入ったあとすぐにお互い寝てしまっていた。
それからは朝起きてからはご飯を食べ、当番の家事をやり区切りがいいところで魔法の練習をして空いた時間は本を読んだり料理をしてみたりとのんびりとした日々が続いている。
そんな俺は今目の前にぶら下がった肉を見つめながら頭を抱えている。
なんでそんなことをしているのかと言えば、以前街に行った時にボックさんのところで買った本にジャーキーの作り方が載っており作ってみたんだが、これがまた意外と難しいのだ
欲しすぎると当然固くなりすぎるしたまにカビが生えたり普通に腐ったりする。
「今のところはいい感じだな?……ジャーキー道も奥が深いな」
「ジャーキー道ってなんだ?」
急に声をかけられ驚き後ろを振り向くと師匠が呆れた顔をしていた。
「師匠いつの間にそこに?」
「いまさっきだよ。それで今回は上手く行きそうなの?」
「今のところはいい感じです。このままカビが生えないといいんですけど」
今のところその兆しは無いので成功して欲しい。
「それにしてもどうかしたんですか?」
今日はもう家事も魔法の練習も終わらせたしまだご飯の用意をするには時間が早い
「いや、この本を読み終わったからお前に渡そうと思ってな」
そう言って師匠は『お金の稼ぎ方!』と書かれた本を俺に手渡してくる。
そういえばこの本たまに読んでたな
最後まで読んだのか。
「どうでしたか?参考になりました?」
「参考には別にならなかったが面白くはあったぞ」
「そうですか...」
それはこの本の望むところではない気がするだが……
「そういうコハクこそ料理本とは別に読んでるやつがあったろ?それは面白いの?」
「あぁ、『ケンディの冒険譚』ですか?普通に面白いですよ。まだ読み終わっては無いですけど」
ちゃんと誰にも選ばれなかったケンディは俺が寝る前に少しづつ読んでいる。
王道の異世界の冒険譚という感じで普通に面白いと思う、もう少しで読み終わりそうなので次は『ケンディの冒険譚 下』を買おうとおもっている。
「そうなのか、じゃあ読み終わったら私にも読ませてくれ」
「もちろんいいですよ」
是非とも師匠にもケンディの冒険を応援して欲しい
「ところでこれは何の肉を使ってるの?」
「前に街で買ったベアコングですよ」
ベアコングの肉質は赤身で筋肉質な感じだった。
普通に焼いて食べても美味しかったのだが今回はあえてジャーキーに使ってみた。
「魔法の方もこれくらい自分から積極的にやってくれればいいんだけどねぇ」
「うっ、魔法だってちゃんとやってますよ」
魔法だって別にサボったりはしてない
「そうかい?なら久しぶりに手合わせしてみようか」
それはまさに最悪のお誘いだった
以前にも一度だけ魔法のみ、魔法なし、全部ありでの3回勝負をしたが結果は当然全てボロ負け。
しかも魔法ありのルールでは後半はもう師匠の魔法をひたすらに避け逃げるという手合わせにもなっていなかった。
そんな苦い思い出があるため出来ればやりたくない
「いくら練習をサボってなくてもまだ前回とそんなに変わらないですよ」
「変わってなかったら課題の量を増やすだけだから安心しろ?」
一体その発言のどこに安心の要素があったのか聞きたい、しかしこうなってしまったらもうやる以外の道はなくなってしまった。
「分かりました、今から始めますか?」
「そうだね、いつもの所で始めよう。」
俺はそのままいつも魔法を練習している湖の近くに行く。
「それじゃあまずは徒手のみでやろうかね」
そう言う師匠は数メートル先で体を解しているので俺も軽く体を動かしておく。
準備運動は大事だからな
「はい、ルールは以前と同じでいいんですよね?」
「もちろん」
「それじゃあ行きますよ!」
俺はそう宣言した瞬間に師匠の元に走り出す。
ルールは簡単なものでどちらかが急所に一撃入れたら終了というものだ。
以前は五分もたたないうちに師匠に後頭部を蹴り飛ばされてしまった。
あの時は頭が吹き飛んだかと思ったな……
以前やられた時のことを思い出しながらも師匠の足元まで来るととんでもないスピードで蹴りが飛んでくるので俺はそれをギリギリのところで避けその足をつかみ蹴りの勢いを利用して師匠の胸元に蹴りを入れようとした瞬間横から拳が飛んできたので急遽、両腕を使って防ぐが後ろに飛ばされる。
相変わらず隙がないな……
俺だって前世ではナイフ術や格闘術を仕込まれており同業者には負けたことは無かったんだけどな...
どういう訳かうちの師匠は魔法だけでなく格闘も強い。
しかし師匠の方が手足は長くリーチがあるため距離をとっていても仕方がないか
俺はまた師匠との距離を詰めるとタイミングを合わせたかのようにまた蹴りがとんでくるのでしゃがんで回避し、軸になっている足の方を攻撃しようとすると先程交した蹴りが今度は上から降ってきたので俺は、何とか腕で受け流し腹部に向けて攻撃するも難なく避けられてしまう。
こんな感じでリーチ差もあってなかなか俺の攻撃は届かない。
大体師匠と俺は身長差で言えば四十センチ差くらいはありそうなのだ。
師匠相手にハンデ戦をしているような状況で有効打なんかあたるわけもない
「体術は前とあまり変わらないね」
「そりゃ普段から組手してるわけでもないですし身長もそこまで変わってませんからね」
「それじゃあ今度はこっちから攻めるよ」
そう言うと師匠がすぐ目の前に現れると四方八方から蹴りや拳が襲いかかってくる。
攻撃を防ぐだけでも腕や足が痛み、後ろに吹き飛ばされないよう踏ん張っている足から衝撃が流れてきた地面が割れる。
何とか防いだり受け流したりはしているがそれも長くは続かない、防ぎきれずに鳩尾に拳がめり込む。
一瞬息が止まるがここで動きをとめたら負けてしまう。
俺は鳩尾にめり込んだ腕を掴み体を捻って師匠の体を俺の後方の地面に叩きつけるように投げるが途中で抜け出されてしまい地面に上手く着地した師匠の回し蹴りによって俺は十メートルほど吹き飛び地面の上をいくらか転がったところで止まる。
「ここまでだね、最後の掴みはなかなか良かったんじゃないか?」
「ゲホッ、でも抜けられました」
「私じゃなかったらあのまま地面にたたきつけられてたさ」
微妙なその励ましに文句のひとつも言いたいが正直蹴られたばかりでそれどころでは無い
師匠の手足はしなやかで決して鍛えているという感じでは無いのにどこにこんな力があるんだろう
異世界は不思議だ
魔法のある世界で何を言ってるんだという話ではあるが不思議なものは不思議なのだ
しかし前回よりかは長く粘ることが出来たのでそこはよしとしよう。
人生ポジティブに捉えることも大事だ
その後俺は数分の休憩を貰ったあと魔法のみのルールで始める。
ホントの地獄はここからだ
俺は始まりと共に魔法をいくつも展開し飛ばすが師匠は動くことなく全てを全く同じ魔法で迎撃し、かつ違う魔法を俺に向けてくる。
そうなってしまえば俺に出来ることは俺はひたすらに走り飛んでくる炎や氷の槍を避け地面から突然出てくる棘に気をつけながらタイミングを見て反撃するしかない。
俺が飛ばした魔法の倍以上の数の魔法が飛んできているためいくら避けてもキリがない。
それどころか気がつけば俺の周りを覆い囲むように魔法陣が大量に浮いている
「師匠?これはいくらなんでも死ぬんじゃ...?」
「ちゃんと防ぐんだよ?」
とてもいい笑顔でそう言った途端俺目掛けて大量の炎と氷の槍が飛んできた。
俺の周り全体を結界で防いでもいいのだがそうやって耐えてる間に規模のでかい魔法を使われてしまえば終わりなので最低限の魔法を使用しながら師匠を牽制しないといけない。
いけなのだが……
やべ、詰んだかも...
飛んでくる槍をなんとか防ぐも思ってた以上に飛んでくる数が多く対処しきれない。
仕方なく結界を張り全て防ぐが目の前に大量の魔力が集まってるのがわかる。
急いで前方に結界を集中させたが土煙を巻き込みながら飛んでくる炎に俺の結界はなんの抵抗もすることも出来ず俺は爆発に巻き込まれてしまった。
今回も師匠を一歩も動かせなかったな...
いや、死んでないだけマシかもな
また休憩の時間になったため、俺は身体中が真っ黒の煤だらけになりながら一人で反省に入る。
俺の体はもうすっかり魔力も安定しているため体の強度自体高く多少の怪我ならすぐ治るため無事ですんでいるが、きっと魔人でなければ手合わせ一回につき五回は死んでるんじゃないかと考えるどゾッとするな
「うんうん、前回に比べたら魔力の扱いも判断力も上がってるじゃないか」
ちなみに師匠はずっと満足そうにしている。
これなら今のところ課題を増やされる心配は無さそうだ
「ところで少し気になったんですけど」
「なにがさ?」
「師匠より強い人っているんですか?寿命がない魔人なら師匠よりも長生きしてる人だっているんじゃ?」
休憩に座って師匠の用意していた水筒で水を飲みながら聞いてみる。
確か八百歳と言っていたがそれならまだ年上も存在しそうだ。
「そうね、年上は何回か見たことあるけど今生きてて私より強い人物に心当たりはないわね?」
「生きててって死んでる人ならいるんですか?」
「えぇ、私の育ての親よ」
衝撃の事実だ。
師匠にも育ての親がいたのか……
いや考えてみれば当然なのだが師匠の子供時代なんて想像もつかない。
しかしもう死んでるということは魔人ではなかったのか...?
俺が驚きと気まずさで何を言えばいいかわからず口ごもっていると師匠は笑いながら「気にするな」という。
しかし俺には一瞬師匠の顔が懐かしむような寂しげな表情になったのが見えた。
そこに触れてもいいのか分からなかったのであえて話を変える。
「じゃあ師匠に勝てれば誰が来ようと問題ないってことですね」
「それはそうだろうね。私に勝てればの話だけど、それじゃあそろそろ最後の手合わせを始めようかね」
師匠は立ち上がり腕を大きく伸ばして気のびをし始める。
俺も水筒をアイテム袋に入れ立ち上がり構えをとる。
次が魔法も格闘もありなためどちらでも負けてる俺からすれば勝算はいちばん低いのだが最後となれば少しは気合いも入る。
数メートル先にいる師匠の後ろに魔法陣がいくつも浮かび上がる。
俺さそれに対抗するように魔法を発動させながら師匠の元に駈けた。
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