33.約束を果たします
俺は師匠とボックさんと一緒に話しながら門へと向かった。
「そういえばボックさんはエルフだったことはもう隠さないんですね?」
目の前のボックさんは耳が長く髪の色も薄緑色だ。
大幅なイメチェンだ
いや、元々がこっちなのだから今までのがイメチェンなのかな?
「はい、エリちゃんがいる以上僕だけ隠れている訳には行きませんからね。それにバレる人にはバレることが分かりましたし。」
「私を騙そうなんて百年早いんだよ」
百年たっても師匠は欺けないだろ
「私の方こそ驚きましたよ、まさか二人が魔人だったなんて。僕より長生きな種族を始めて見ましたよ」
エルフは種族的に長生きな方だがさすがに寿命がない魔人とは比べることも出来ない。
比べることでもないんだが
これでこの街で俺たちのことを知っているのはギルマスとボックさんそれから領主一家だけだ。
エリにも大きくなったら言うつもりではある。
どうせいつかは寿命の長さでバレてしまうしな
「ボックさんが隠してないからって僕たちのこと言わないでくださいよ?」
「言わないですよ、恩人にそんな迷惑はかけません。…ところでお二人はどこに住んでるんですか?」
どこと言われても向こうの山の麓としか言いようがない……
そもそもあの山に名前はあるんだろうか?
「私たちはすぐそこにあるミラム山脈の麓に住んでるよ」
ちゃんと名前あるのか...そりゃあるか
「ミラム山脈って全然すぐそこじゃなくないですか?」
「空を飛んでいけばすぐじゃないか?」
「空は普通飛べないんですが.....いや魔人なんですもんね」
ボックさんが師匠の常識についていけず俺たちが魔人だからと思考を放棄する。
でも俺も空は別に飛べない、師匠の常識を魔人のベースにされては困る。
「空なんで僕も飛べないですよ、でも師匠も歩いていけば半日って言ってましたよね?」
歩いて半日程度なら馬などを使えばそこそこの時間で来られる距離だ。
しかしボックさんはそれに対して怪訝な顔をする。
「半日……?いやいや、あんな道歩いてたら半日で死んじゃいますよ」
どういうこと?来る時見た感じでは普通の山道と言った感じだったが
「師匠どういうことです?どうせ分かってるんでしょ?」
「どうせって...なんか最近扱いが雑じゃないか?」
「気のせいですよ。だから教えてくださいよ」
雑も何もそもそも俺が訳も分からず困惑してる姿を見て楽しんでるくせに何を言ってるんだか
「あの森は魔獣が多いんだよ。それに街から遠ざかり森が深くなればなるほど魔獣の強さも上がるから普通の冒険者は森の奥までは入らないんだよ」
そういう事情があったのか
それにしては俺はまだ一回も生きた魔獣を見たことがないんだが?
師匠の家があるとこは最奥も最奥だ、そのことについて尋ねたら
「そりゃあの森に私より強い魔獣はいないからね、基本的に魔獣は自分より強いやつのテリトリーには入らないんだよ」
なんとも師匠らしい理由だった。
きっと師匠が住み出した頃は魔獣も来ていたんだろうな。
それを返り討ちにしてる姿が簡単に想像できる。
「じゃあ半日ってのは一体どこからきたんですか?」
「私があの家から魔獣を狩りながら街に降りる時間がだいたいそれくらいだった」
師匠の体験談かよ……
「...じゃあその時間はあまり参考にならないですね」
「どういう意味よ?」
「いい意味でですよ」
「どんな意味よ!」
師匠が隣で騒ぎ出すがこの際無視してボックさんに聞きたいことがある。
「ボックさんは以前別の街に住んでたって聞きましたけどそれはどこにあるんですか?」
「え、えぇ。前に住んでいた街は反対側ですよ。エルフの集落の方は遠すぎてどことも言えませんが」
そう言いながらボックさんは騒ぐ師匠をちらちらと見ながら街のある方向に指を指す。
確かにちょうど反対側だ
あっち側にもきっと門があるんだろうな
そんなことを考えていると、前の方から紺色のかっちりとした服を着ている男たちが走りながら俺たちの横をとおりすぎていく。
「それにしても衛兵が増えましたね」
「そりゃあ領主の息子が殺されたとなっては仕方がないでしょうね」
「ほんと一体どこのどいつの仕業なんだろうねぇ?」
騒ぐのを辞めた師匠が俺の方を見て言ってくる
そういうところが俺の態度を雑にさせるんだぞ……
「誰なんでしょうね?そういえば師匠その領主の息子に求婚されてましたよね?」
俺の思わぬ反撃に師匠もたじろぐ
「うっ、また嫌なことを思い出させて……しかしそうか、もうこの街であのやり取りをしないでいいのか!」
えぇ、なんか急に喜びだしたんだけど……
「流石にそれで喜ぶのはちょっと……」
「ふん!お前にはあの面倒くささが分からないからそう言えるんだ」
まぁたしかに分からないけど
「あはは、そんなこともあったんですね。あの方の奥様はこの街にいないですからね」
この街にはいない?
そういえば師匠を第二夫人とか言ってたってことは既に一人はいるのか
でも昨日領主邸に行った時はいなかったからすっかりその事は頭から抜けていた。
「この街に居ないってどこにいるんですか?」
「王都で働いているらしいですよ?あくまで噂ですけど、なんでもすごい気が強い見たいでゲビタ様とはあんまり合わなかったみたいです。」
なるほど、たしかにゲビタも気は強そうだったからな。
気の強い同士だと考えが合わない限り大変だろうな、それにゲビタと考えが合うやつなんていないと信じたい...
そうこう話しているうちに門が見えてきた。
「さっき空を飛んでと言ってましたけど帰りは空を飛んで帰るんですか?」
まぁ、行きと同じで師匠に抱えてもらうしかないな
しかしそんな俺の考えを砕くように師匠が爆弾を投下してくる
「そうだね、そういえばコハク帰りは抱えないから自分で飛ぶんだよ」
え?
「自分で飛ぶって俺羽生えてませんけど?」
「羽なんかなくても魔法で飛べばいいでしょ」
「俺その魔法知らないんですけど……」
「大丈夫よ、門の外で軽く教えてあげるから」
軽くって……
絶対そんな簡単な魔法じゃないだろ……
というかそれならそうと先に言っといて欲しい
「それなら別に家に帰ってからでもいいじゃないですか」
「私だって誰かを抱えて飛び続けてると腰が痛くなるんだよ」
絶対嘘だ
回復魔法を扱える人が痛むとかないだろ
俺がジトっと師匠を見るがそんなことはお構い無しと言わんばかりに続ける。
「いつまでも私に抱えられてる訳には行かないでしょ。せっかくの長距離移動なんだから活用しない手はないよ」
もうこうなったら師匠の考えはてこでも動かないので俺も説得は諦める。
「コハクくんも大変そうですね」
そんな俺を見てボックさんは同情してくれる。
わかってくれますか!?
俺がそう気持ちを込めてキラキラとした目でボックさんを見るとボックさんは俺の後ろを見て顔を青くしサッと顔を背ける。
なんだと思い後ろを見るが後ろにはただ師匠が普通に歩いている。
なんだろう?
そういえばいつの間に師匠は俺の後ろにいたんだっけな?
横にいたような気がするけどまぁ気のせいか?
そうして門に着いた俺たちは門番の人にギルドカードを見せ街の外へと出た。
すると直ぐに師匠は空を飛ぶ魔法の使い方を教えてくれる。
なるほど、火と風と闇魔法の融合なのか
実際に目の前で見せてもらい何度かやると俺もすぐに飛べるようになった。
まだスピードは出せないが落ちたりはしなさそうだ。
風が気持ちいい!
確かにこれなら自分で飛べるようになった方がいいな
「ほんとにすぐ出来てしまいましたね……」
俺がすぐに習得してしまったことに驚きを通り越して呆気にとられている。
確かに少し複雑さはあるし魔力も結構使うので他の種族が使うにはなかなか難しそうだ。
「それじゃある程度はできるようになったし帰ろうかね」
「はい!」
ふわふわと辺りをを飛んでいたら呼ばれたので師匠の元に行き飛びながらボックさんに別れの挨拶をする。
「それじゃあね、コハクがまた近いうちに来るからよろしく頼むよ」
「また来ますね!」
「ツクヨさん!コハクくん!本当にありがとうございました!ありがとうございました」
俺たちがそう言うとボックさんは残っている片方の腕を大きく振りながらまた礼を言っていた 。
俺たちはそのまま家の方に向かってのんびりと飛んでいく。
たまに後ろを振り返るとボックさんがまだ手を振っている姿が見える。
「なんだかんだ長い滞在になりましたね」
実際は一週間もなかったんだろうが元々は三日位の予定を考えれば二倍だ。
「そうだね、どうだった?初めての街は」
「色々ありすぎて大変でしたけど楽しかったですよ!街で買い物したり景色を見たり以前の俺では考えられないことばっかりでした。師匠連れてきてくれてありがとうございます!」
暗殺をしていた頃の俺にはこんなことがあるなんて想像もできないだろうな
「いいんだよ、これからもたまには色んなところに行こう」
「はい!」
もうだいぶ門からも離れ人がいるのはわかるがボックさんかは判断できないところまで来た。
門の上から街並みが見える。
さっきまであそこにいたんだなと思うと不思議な気持ちになる。
そんな事を考えながら空を飛び続けているとふと街の方から名前を呼ばれた気がして振り向く。
師匠も聞こえたようで同時に後ろをむく
しかしパッと見では分からないが確かに魔力がいくつか見える。
「今なんか呼ばれました?」
「あれは……エリちゃんだね。目が覚めたみたいだね」
エリ!?
よかった、目が覚めたのか!
しかしなんでここに?
「きっと目が覚めてきっと私たちの見送りに来たんだね」
「戻りますか?」
「いや、どうせまたいつか来るんだからまた今度でいいさ」
たしかに俺なんか多分冒険者として活動しないといけなくなりそうだからきっとすぐに会えるだろう
「しかし気づいてしまったからにはなんの別れの挨拶もなしは可哀想だね」
師匠がニヤリと笑う
あぁ、この顔をした時はだいたいろくなことが無いんだよなぁ
「コハク上に向かって特大の氷を飛ばしな!せっかくだから約束も兼ねて別れの挨拶をしましょ」
約束?
…………そういうことか!
何をするかわかった俺は自分の上に向かって自分の何倍もある氷を思いっきり飛ばす。
それを見た師匠も上に向かって魔法を飛ばす。
あれは...火と風の魔法だな
どんどんと俺の氷が空へ向かっていくとやがて師匠の飛ばした魔法が氷にぶつかると氷が粉々になってまわり一帯に飛び散らばる。
氷が陽の光に反射しキラキラと雪のように下に振ふり落ちる。
「綺麗ですね、師匠あの約束覚えてたんですね」
元々街の案内のお礼に魔法を見せるという約束であったがエリが途中で家に帰ってしまい有耶無耶になってしまっていた。
「当たり前でしょう、私は約束は守るタイプなのよ」
偉そうに胸を張って答えるがそういうところもこの人のいい所だと思う。
「それじゃあ今度こそ帰ろうか」
「そうですね!」
俺はその後待ちの方を振り返ることなく家の方に向かって飛び続けた。
家に着いた頃にはもうすっかり夕暮れ時だった。
まだスピードが出せず飛んでいたため時間がかかってしまった。
家が見えた時はほっと安心した。
「つ、疲れました。やっと着きましたね」
「最後の方は多少早く飛べるようなってたじゃないか。これからは飛ぶ練習もしておくんだよ」
「はい、それよりも早く家に入りましょう」
流石に長時間飛んでいたことで疲れた!
今だけは明日の魔法の練習のことは考えたくない
「わかった、わかった今開けるよ」
師匠は俺の疲れ具合をみて笑いながらも家の扉の鍵を開ける。
今更だがこんなところに泥棒なんか来ないだろうから鍵いらなくないか?
こんなところまで泥棒が来れたらもはや冒険者として成功できるはずだ。
まぁ、鍵をかけて悪いことは何もないので何も言わないが
師匠も玄関を開け家の中に入るので俺もそれに続いて家に入る。
そこまで離れていた訳では無いのにすごく久しぶりに感じ安心する。
「そう言えばおかえり、コハク」
師匠の突然のその言葉にここが自分にとっての帰る家なのだと再確認できる。
あぁ、きっとだから安心したんだろうな
だったら俺も師匠に言わなきゃな……
「はい!ただいまです!師匠もおかえりなさい!」
そうして俺は久しぶりの街から家に帰ってきた。
これにて1章が終わりました!
ここまで読んでくださった皆様本当に感謝しかないです!しばらくは毎日11時か12時に投稿出来ればと思っていますので今後ともよろしくお願いします!!
今回も読んで頂きありがとうございます。
どんな評価、感想でも励みになりますので良ければお願いします。
次回も是非よろしくお願いします( ´ ▽ ` )




