12.エリ、過去を語る
エリを追いかけ街を走ると案外早くみつけ捕まえることが出来た
本屋から暫く走ったところの道脇にエリは座り込んでいた
「エリ!よかった、見つけた!」
傍に近寄り声をかけるとこちらに気づくと寂しそうな表情を少しするが逃げるような様子は無い。
「コハク……ごめん、急にあんなとこ見せちゃって」
「気にしなくていいよ、それよりその魔法を教えてくれる人のことを教えてくれないか?」
ボックさんのあの反応といい、師匠が詳しく聞こうとしたことを考えるとエリくらいの子供に魔法を教えることは相当おかしいことなのだろう。
それを進んでやる人物、少しきな臭く感じる
「おじちゃんは半年前くらいに公園遊んでた私たちに声をかけてきてそれから二週間に一回魔法のことを教えてくれるの」
「そりゃそんな怪しい人の言うこと聞いてたらボックさんも怒るのも当然じゃ」
「私たちだって最初から話を聞いてたわけじゃないわ!でもずっと公園の隅でちっちゃい魔法を披露してて興味が出て……」
話しかけてそこから教わるようになったと
「その人の名前とか何してる人なのか知らないの?」
「わかんない、いつもおじちゃんで通じるし何してるかなんて気にしたこともなかったから。でも毎回最後に飴玉をくれるの」
「そっか、でもなんでそんな魔法を使えるようになりたいんだ?あんなにボックサンに怒られて、両親にもその様子じゃ話してないんだろ?」
別に魔法が使えなくても普段生活で困ることは無いはずだ、ましてや子供なんて尚更使う場面なんてないだろう
「コハクは魔法使えるからわかるんじゃないの?」
俺にわかる?どういうことだ?
「コハク洗濯の時魔法使わない?床掃除の時とか料理する時とか」
使っている、だが別に使えなくてもそう問題は無い
なるほど、そういう事か
「使えなくても問題は無いけど、使えた方が色々効率はいいな」
「私、先生の身の回りのお世話してあげたりするんだけど先生ってば全部の魔法が下手っぴだから魔石を沢山買うからいっつもお金ないの、でも私が魔法を使えれば」
先生の助けになれるからか……
「そもそもなんでそんなに手伝いに行くんだ?両親に頼まれたから?」
「それは、先生が私を助けてくれたから」
助けてくれた?
「どういうこと?」
聞き返すとエリはその当時のことを教えてくれた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
当時エリは家から両親に頼まれ晩御飯を分けてボックという人に持っていくのが晩御飯前の日課となっていた
また、ママとパパったらあんな人に料理持って行けって、なんであんな人にそこまでしなきゃいけないのかさっぱり分からない
あーあ、もうちょっと友達と遊んでいたかったなぁ
だいたい料理を貰うんなら自分で取りにきなさいよ!
そこでひとつ悪いことを思いつく
そうだ今日料理持っていかなかったら次の日からはお腹がすいて自分で取りに来るようになるんじゃ!
名案だとばかりに考えたエリはそこからちょっと遠回りをして家に帰ることにした
このまま引き返したら早すぎて怪しまれちゃうからね、でもこっちの方は通ったことないなぁ
やはり引き返すか?とも考えるがそんなエリの前を黒い何かが通り過ぎる
「きゃっ!なに?」
通り過ぎた方を見ると黒猫がいた
「ネコだ!かわいい!」
そうして黒猫を追いかけながら行ったことのない道をかけていってしまった
気がつくとそこは既に右も左も知らない場所だった、もう日も暮れ始め、あと半刻ほどで月明かりが主張しだすころだ
どうしよう……
道を聞こうにもなんて聞けばいいかわかんない
どうすることも出来ず歩きながら見つけた広場(後にコハクとツクヨが訪れる場所)のベンチに腰をかける
既に日は落ち月明かりが道を照らしている
もう、帰れないのかな……
このままここで死んじゃうのかな……
暗いところに一人でいるという初めての経験にエリは泣いてしまう
しかしもう道を歩いている人影も見当たらない
今考えれば冒険者ギルドの場所でも聞けばよかったのだ
しかしそれを思いつくほどこの時のエリには余裕はなかった
ひとしきり、涙を流したあとお腹が「くぅー」となる、晩御飯前に出てきたから彼女のお腹には何も入っていない
「お腹空いた、これ食べていいかな」
そもそもこんな事態になったのはあんな人に料理を持って行かなきゃいけなかったからで、それさえなかったら今頃パパとママとおうちでご飯を食べれていたのに!
そう考えると今度はどんどんと怒りが湧いてきた
そうだ、どうせもうあの人には渡さないし、私が食べた方がママも喜ぶはず!
そう思い料理が入った箱を開けようとすると後ろから野太い声が聞こえた
「よお、嬢ちゃん迷子かい?良ければおいらがお家へ連れてってやろうか?」
急なおじさんの声に驚きはしたが提案自体はまさしく神の救いだった
「ほんとにお家に連れてってくれるの?」
「あぁ、もちろんだぜここは暗いからな。まずは教会にでも行こうか」
教会に行けばそこからならおうちへの帰り方もわかると考えエリは箱の蓋を閉じそのまま男について行くことにした
しかし結構な距離を歩いている気がするのに一向に教会につかないどころか知ってる見にすら出ない
「ねぇ、本当に道あってるの?」
「あぁ?案内してやってんだ!黙って着いてこい!」
と先程とは打って変わって男の激しい口調にビクリと体を震わすがここで何かを言って置いていかれたらと思い黙って更に歩くことにした。
しかしその後も大きい道に出ることはなく更に道が細くなってきたので流石にエリも怪しいと疑う
絶対変だ、逃げなきゃ
そうは思うが足がすくみ歩くことが出来なくなってしまうと男はえりの腕を強く掴み引っ張る
「ちっ!勘づいたか?まぁここまで来ればもう問題ないな」
「お家に連れていってくれるんじゃないの?」
「あぁ、連れてくぜ?お前の"新しい"お家にな」
男が舌なめずりをする
「い、いや!離して!パパとママのとこに帰る!」
「おいおい、もうお前は帰れねぇよ。だいたい道もわかんねぇのにどーやって帰るんだ?」
男の言う通りだった、ただでさえ迷子になってあそこに座っていたのにそこから更に歩いてしまったためもう自分がどこにいるのかさっぱり分からない
しかしこのままだとほんとに二度と両親に会えないと思い行動に移し、自分の腕を掴んでいる男の手に思いっきり噛み付く
「いでぇ!なにすんだこのガキャァ!」
男は噛まれていない方の手ですぐにエリの顔を引っ張叩く
「うっ」
エリは思わず倒れ込むがここしかないと思いすぐに立ち上がり男から逃げる。しかし大の男と子供の足じゃ距離は全く縮まらない。
「おいおい、そんなに走ってどこに逃げようってんだい?」
後ろから男の声が聞こえる
このままじゃ逃げきれないと思い路地に逃げ込みそこに置いてあったゴミを入れるための箱に隠れる。
匂いはきついがそんなこと今は気にしていられない
「へへへ、子供ってのは馬鹿だねぇ。嬢ちゃん!鬼ごっこの次はかくれんぼかい?」
男の声が響く、箱の中で口元を押え少しでも音がならないようにするが歯がカチカチとなる
どんどんと男の足音が近づいてくる。
止まって!動かないで……!
パパ、ママ助けて……
こんなことならあんな意地悪しなければ良かった
今となっては意味の無い後悔ばかりが頭に浮かんでは消える
きっとこれは意地悪な私への神様からの罰なんだ……
ごめんなさい、ごめんなさい……
そんな謝罪を聞くものはここにはおらず男の足音が近づく音だけがしついには目の前で止まる
するとゴンッという鈍い音がしたかと思ったら瓶が割れる音が響き渡る
その音につい驚いて箱の上部に頭をぶつけてしまった
見つかった……!
するとすぐにキィと音がし箱の蓋が開く
ごめんなさい、パパ、ママもう会えない……
エリの目からすっかりと光がなくなり虚ろな目で開いた外を見るとそこには料理を届けるはずだった男の顔があった
「よかった!エリちゃん!怪我してないかい!?怖かったろう?あぁ、どうすれば、ひとまず僕の家に行こう」
ワタワタと情けなく騒ぐ男
なんでここにと、男はどうなったのか、どうしてと聞かなければいけないことは沢山あったのに何一つ言葉としては出てこなかった。
「う、うぅ……怖かったぁ!怖かったよぉ!ふええーん」
泣きじゃくるエリを前にボックは優しく体を持ち上げその小さな体をだきしてた。
「本当に無事でよかった。もう大丈夫、一緒におうち
に帰ろう」
囁くような小さな声だったがその声が今まで聞いたどんな言葉よりも大きくエリの心に残ることとなった。
ひとしきり泣きじゃくりエリも落ち着き改めて周りを見渡すと先程まで自分が入っていた箱の前で口から血を出し白目を向いた男が倒れていた、ボックは大きな音のする魔石をわりどこかにエリを見つけたということを知らせていた
「なんで、こごに、いるの?」
散々と泣き声が枯れ上手く話すことは出来ないがボックにはしっかりと伝わったようで
「君のお父さんがうちに来てね娘がここに向かってから帰ってこないなんて言うものだからうちには来てないし人攫いにあったんじゃないかって」
みんなで探してたんだよと言う
「にしてもほんとに人攫いに合ってるなんて街の領主様に警備を強化しろと言わなきゃな」
きっと必死に探してくれていたんだろう。よく見るとボックの髪の毛はいつも以上にボサボサで葉っぱもついており、服も泥まみれだ
本気で心配してくれたことに嬉しさもおぼえるが心が痛くなる
しかしそんなエリの心情は知らず
「ほんと災難だったね、これから料理を持ってくるのは辞めてもらおう。」
そうエリの身を安慈る
ちがうの……
「だいたい僕はたまに食べるのを忘れるだけでちゃんとご飯くらい自分で用意できるって毎回言うのに、あの二人は」
心配心からか、両親を少し攻めた口調になっている
「ぢがうの!」
抱かれたままの体勢で大きな声を出したため顔の近かったボックは驚きエリの顔を覗き込む
「違うってなにが?」
「わ、わたしが、私が悪いの。私が寄り道しちゃっで、意地悪で持っでかなくて」
言葉にならずちゃんと伝わっているかも分からないがそのままおじさんに連れていかれるまでの経緯を話す。
一通り説明が終わったあとエリは怖くなった。
それはそうだ、誰がこんな意地悪をした子を助けたいんだ、自業自得でこんな目にあってみんなに心配をかけて
失望させてしまったかもしれない
パパ、ママもこんな子嫌いかもしれない
そう思いおずおずとボックの顔を見上げると、彼はキョトンとした顔をした。
「そうか、それで。」
そう言いながら何かを考えると抱いていたエリを地面に下ろす。
このままだと置いてかれてしまう!
「待っ!」
「エリちゃんお腹すいていないかい?」
何を言われたのか一瞬分からなかった、こんな時にする質問では無いことはわかった。
しかしそんなことはお構い無しに話し出す
「まだ食べてないんだろう?エリちゃんも良ければ一緒に食べないかい?」
そう言いながらボックは道の真ん中に座りえりがずっと抱えていた箱を取り蓋を開ける
「おぉ、今日も美味しそうだ!ほら、こっちにおいで」
そう言って自分の膝をパンパンと叩く、ここに座れということだろう
何も言えず黙ってボックに背を向け膝の上に座り
「怒ってないの?」
「怒ってないよ、君からすればこんなよく知らない男に毎日毎日、面倒なのは当然だ」
「君の両親は怒るだろうね、もちろん君を愛してるが故だよ?だから僕の役目は怒ることじゃない」
「おじさんの役目は甘やかすことって相場は決まってるんだよ。ほらおたべ」
そうにこりと笑い料理をエリの口元へ運ぶ
匂いにつられつい口を開けてしまう
「美味しいかい?」
こくりと頷く
空きっ腹にママの料理を食べたことへの安心感なのか背中から伝わるぬくもりのせいか分からないが心が暖かくなるのを感じる
「助けてくれてありがとう」
下を向きながら伝えると背中越しに「どういたしまして」と返ってくる。
そこからは両親や街の衛兵なんかが走って到着するまで二人道路の真ん中で食事をした。
今回も読んで頂きありがとうございます。
どんな評価、感想でも励みになりますので良ければお願いします。
次回も是非よろしくお願いします( ´ ▽ ` )




