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デパートの窓際に位置しているその茶店にはモダンな雰囲気の座席の脇には長く続く池があり、そこを鯉や金魚が泳いでいた。
「何にする?」
優雅に泳ぐ池の鯉を珍しそうに眺めている百合亜にメニューを差し出し、レオンが尋ねた。
「ええっと、わたし……お水……」
「水?」
「こういうお店の場合、飲み物を頼むよりも食べ物を注文した方が原価率的に、お得なようなので……お水とトーストをいただこうかしら」
おおよそ華族のお嬢様とは思えぬ台詞に、レオンは呆気にとられるどころか、感心したように頷いた。
――なんという堅実さ。素晴らしい。ますます理想的だ。
普通なら引いてしまうかもしれないところだが、ますます好感を抱いたレオンは頬を微かに染めた。
「千蔵さまは……?」
「僕も同じものに――」
と応えたところで、「お決まりのようですね」と、素早くウェイトレスが駆け寄ってきた。
あまりにテキパキしている様子に違和感を覚えていると――
「こちら、あなた様へ」
そっと耳打ちしながら、レオンにメモを手渡してきた。
――な……っ。こんなときに……。
それを開いたレオンが慌てた表情をした。
「……千蔵さま?」
「いや、申し訳ない。ちょっと、うちの会社の方で。電話を掛けてきても……?」
「ええ。どうぞ」
レオンは店の端の方に設置された電話ボックスに入っていった。
――『お仕事』かしら?
千蔵――レオンの本業を知っているだけに焦りを感じない百合亜は落ち着いた様子で微笑んだ。
その様子を見てほっとしたレオンが電話に出た相手に「こちらレオン」と言葉を発した。
『随分変わった場所に居るようだが……?』
電話の向こうの声が怪訝そうに尋ねる。
「今日は休暇だと言った筈だ。どういうつもりだ?」
『悪い。ちょうどずっと追っていたターゲットの近くにおまえが待機しているようだったからな』
「待機って……俺は――」
『今回の件を片付けてくれれば、減給の話は白紙。破格のボーナスを進呈しよう』
「乗った」
思わず即答してしまったが、出た言葉は回収できない。
百合亜のことはどうしようかと思う間もなく、ターゲットの居場所と簡単な特徴と名を告げられ、一方的に電話が切られていた。




