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見合い相手は殺し屋でした⁉ 幸せを掴むスリリングなメソッド。  作者: 八波琴音


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「――で? どうだったよ? 鹿島って男は」

 古書店――カウンターのジョセフがハタキで自身の肩を叩きながら、レオンに尋ねた。

 ちなみに、店が開いている間は、彼らの出身地である都市国家鳳竜(ホウリュウ)の共通言語である応竜(オウリュウ)語を使っている。

 小声であることから、この国の公用語である大和言葉を使っていたとしても聞き取れることはないだろうが、物騒な話をすることが多いためにこうした工夫をしている。

「患者として接触しただけだから、詳しい調査は出来ていないが――クロ、だろうな」

「なんだよ、クロだろうなって、甘ぇ甘ぇ、俺ならとことんまで調査してたけどな」

「俺の本業は情報屋じゃない。対象を軽く探るだけで十分だ」

「んなこと言ってたら、冤罪(えんざい)生み出しまくりのアホ軍警となんら変わらねえよ」

「……だが、ほぼクロだと確信はしている」

「だからよぉ。その根拠はなんだよ。証拠は? 戦利品ってものがあるんだよな?」

「まあ……な」

 レオンは懐から受け取ったものを躊躇(ためら)いがちに出した。

「睡眠薬? これが戦利品か?」

 ジョセフが怪訝そうに錠剤の瓶を受け取る。

 未開封のそれには正規の製薬会社の印が入っているため、おかしなところはないが。

「これがクロだって断言するにはちょっとなあ……もっと怪しげな何かとかねえのか? たとえば、惚れ薬なんつって言われて渡された代物、とかさ」

 ジョセフの台詞に、レオンはぎくりとした。

「あ……いや……まあ……」

 ジョセフの作戦で恋煩いのために眠れない――という言い方をさせたのは、うまくいけば怪しげな薬品を差し出してもらえるかもしれない、という狙いがあったからだ。

「あるんだろ、怪しげなブツがさ」

 にやにやと張り付くような笑みを浮かべられたことで、見透かされていたことを悟ったレオンは息を呑み、後ずさった。

「……なあ、絶対に私用で使うなよ? 何が入ってるか分からねえんだぞ? それに、そんなモノを使って――」

 と言いかけたところで、レオンがカウンターの上に遮光細工の入った薬瓶を置いた。

 中にはハート形の錠剤が詰められている。

「やっぱりあるんじゃねえか。『恋丸薬』って……まんまだな。もっとひねりを効かせたネーミングとかさあ」

 薬瓶に貼られた手書きのラベル見て、ジョセフが苦笑した。

「おい、レオン、何で素直に出さなかったんだよ、こいつがキモなんだろ?」

「こんな破廉恥な瓶を出せると思うか?」

 微かに顔を赤らめ、レオンが憮然とする。

「ってなあ……『作戦』じゃねえか。やっぱ思い切りが足りねえよ、おまえさん」

「だから、俺の本業は調査じゃないと言っている……おかしな台本を書かないで欲しかったな。実際、あの医者とのやり取りの間、顔から火が出そうだったんだ……」

「あ~、ノリ切れねえのがおまえさんのつまんねえとこだよなあ。せめて恋煩いって設定は、信憑性を持たせるための演出だってのに。まあいいや、とりあえず、こいつの分析をしなきゃだな」

 ぽんぽんと、薬瓶をお手玉のように放ってはキャッチするという動作を繰り返しながら、ジョセフは言った。

「一応、お安くしといてやるよ。俺は交渉上手だ」

 ジョセフはレオンに掌を差し出した。

「――商売上手の間違いだろう。押し売り野郎……」

 というやり取りをする間に、引き戸が開き、この店を訪れるのにおおよそ相応しくない、ひとりの若い女性が現れた。

「……いらっしゃい」

 情報を求めてきたわけではないのだろう――彼女がウラの雰囲気を纏っていないことを怪訝に思いながら、ジョセフは大和言葉(ひょうじゅんご)で声を掛けた。

「―――!」

 そして、彼女の姿がはっきりと視界に入るや否や、ジョセフとレオンは双方ともに硬直してしまっていた。

 レオンは思わず背を向け、顔を伏せた。

「あの……楽譜は置いていますか?」

 おおよそ場違いである来客――二十代前半と思しき娘が訊いた。

「あ~、残念ながら、そういう芸術関係のものは置いてないかな。小説の他には伝記とか辞典はあるんだけど」

「そう……ですか。でしたら、お取り寄せを……」

 すぐに引き下がる雰囲気ではないことから、ここへの探りを入れている――方便であることは分かっていたが「悪いな、お嬢さん。取り寄せは新書を扱ってる書店で頼むよ。ここは古い書物しか扱ってない」と、ジョセフは応えた。

「わ、分かりました。あの……」

 と、ずっと追ってきた男性に声を掛けようとしたところで、既に彼の姿が消えていることに気づく。

「え……? あの、先ほどいらした男性の方は……?」

「ん? 何のことだい?」

「え? 確かに黒い背広の帽子を被った男性が……」

 かび臭い古書店への場違いな来客である百合亜は、きょろきょろと周囲を見回した。

「ああ、時々『出る』んだよ」

「で、出るって……?」

 ジョセフのおどろおどろしい声にぞくっとした百合亜が、顔をひくつかせた。

「やっぱりねえ、古い書物には、怨念が籠もることがあるんだなあ」

「怨念って……?」

 思わず百合亜は自分の肩を抱いた。

「元の持ち主の……当然、これだけ古いものだと、持ち主が亡くなってて出回っているものも多い」

 ジョセフは店内を見回すようにして、不気味な笑みを漏らした。

「~~~~~~」

 青ざめた顔の百合亜が肩を震わせた。

「お嬢さん、視える人だったんだねえ。そういう人は霊に気に入られやすいから、気を付けた方がいい」

 カウンターの前にあったカンテラを顔の下から当てながら、ジョセフはくくくと喉を鳴らした。

「は……はいっ……失礼しましたっ」

 不気味な雰囲気に恐れをなした百合亜は、気になっていた男性の追及を諦め、早々に立ち去った。

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