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どうして私がラスボスなんだ【更新停止中】  作者: 月草ユズ
今日から私も悪役令嬢?
27/34

【27】ようこそお越しくださいました

 

 ーーー時間は少し遡る。


 眠らせた兵士たちの服を拝借したオリオン達は、一直線に領主の屋敷を目指していた。途中で何度か兵士たちと遭遇したものの、堂々としたソアンを筆頭に歩いていると引き止められることなく進むことができた。


「……ここの兵士はこんなんで大丈夫なのか……?」


 オリオンとしては寧ろ心配になるレベルである。同じ服を纏うだけでこうも見逃されるものだろうか……?


「まあお陰で楽に進めるし万々歳だけどねー」


 馬で進めないのは面倒だが、もうおそらく屋敷は目と鼻の先。


「あれ?この魔力……」


 ふと何かを感じたソアンが立ち止まる。不思議に思ったオリオンはどうかしたかと声をかけた。


「や、お嬢さんの魔力いつの間にか移動してて……この先の屋敷にいるっぽい」


 気づかなかったや。と不思議そうに言うソアン。とりあえず魔力が感知されたということは無事なのだろう。一行はひとまずその事実に胸を撫で下ろした。



 だけどーーー。


「ーーー攫われた方の娘さんの気配がおかしい」


 さっきまではお嬢さん(アリス)に似た光る強い魔力を感じていたのだが。今はどうだろう、霞んだように靄がかかっている。


兵士に変装(こんなこと)してる場合じゃなかった」


「とにかく先を急ぐぞ」




 ◆



 先程までの慎重なローペースは嘘のように全速力で森の中を走り抜けるオリオン達。途中何人か引き止められそうになったものの、無視だ無視。相手などしてられない。


 しかし思いの外近くまで来ていたようで、屋敷へは割とすぐに到着した。森の中に佇むそれは貴族の煌びやかさなど とうの昔に忘れ、薄暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。


「ソアン、ここなのか」


 あれだけ走ったにも関わらず、オリオンの息はあがっていなかった。なんだ、一般の人だと思ってちょっと遠慮してたのに……杞憂だったな。記憶力といい魔力といい 何でもできるタイプだこの人。


「ソアン?」


「ん?あぁ、そうそう、たぶんね」


 うっかり観察していたソアンはオリオンの問いかけに答える。


「しかし入口らしき扉は鍵がかかっているしどうしたものか……。いっそ魔法で突破するか?」


 ぐるりと辺りを見渡してみても入れそうなところは見当たらなかった。するとソアンがすたすたと扉まで行き、しゃがみこむ。


「ーーーーこれ……防御魔法がかかってるね。魔法でこじ開けられないやつだよ」


「魔法もだめか……」


「うんまあダメなことはダメなんだけど……」


 そう言いながらカシャカシャと鍵穴に何かを突っ込むソアン。そして数分ののちーーー。


 カシャ。


「あ、開いた」


「!!」


 開いたんかい!魔法ダメとか言ってなかったか??

 と言いたげなオリオンの突っ込み顔が見てとれたソアンは笑いながら答える。


「魔法に頼らずに色々と出来るようになると便利なんだよねー」


「……お前一応 王国選抜の精鋭部隊だということを忘れるな?」


 半ば呆れ顔のザック隊長に念押しされる。その肩書きがなければ只の不法侵入者であり、この行為はお尋ね者のすることである。


「ヤだなぁわかってるってば。ほら、先を急ぐんでしょ」


 はやく行こう、と先を急ぐソアン。口ではあぁだこうだ言いながらも、オリオンはソアンの動きに無駄がないことに気づいていた。



 “魔法に頼らずに” ーーその言葉がオリオンの中に響く。


 追走部隊に来てからというもの、自分の至らなさに気付かされる。この件が無事に収まったら、やらなければならないことが たくさんあるな……そう一人決意するオリオンであった。


そうして屋敷に足を踏み入れたその時。



バチっ!!


「っ?!」


ソアンとオリオンの後に続いたザック隊長が突然見えない壁に阻まれる。


「ーー隊長?」


空中に手を当て、まるでそこに壁があるかのような仕草をするザックは、側からみれば街を賑わせる大道芸のようだ。


「え、なに、突然宴会芸?」


「んなわけわるか!!通れないんだよ!!!」


あまりよろしくない状況にも関わらず、ツッコミは健在の隊長。とまあ冗談はさておき、何故彼だけ入れないのだろうか。


「んーと、年齢制限?」


「お前ちょっと黙ってろ……」


疲れたように言うザックにソアンは眉を寄せた。


「心外だなぁ。真面目に考えてたんだけど。

ーーまあいいや。ここで考えてても仕方ないし、隊長はさっき分断した隊員の回収でもしてきてよ。追走部隊が全員敵のアジト?に入るのもマズいし」


ソアンの正論に少し頷きがたいザックだったが、今は一刻を争うのも事実。残りの部隊と合流し別の入口を探すと告げた彼はソアン達を一旦見送る。




 屋敷の中へ入ると、拍子抜けするほど誰にも遭遇しなかった。ここの警備はどうなってるんだ……?

 ソアンの感知能力をもとに、上へと階段を駆け上がる。そして突然、先頭を行くソアンの足が止まった。


「どうした?」


「ーーっ下がって!!」


 ソアンの一声に何かを察したオリオンは瞬時に下がる。その直後に、目の前を何かが過ぎ去った。そして地面には深々と抉られたような跡が一直線に続いている。あのまま進んでいたらどうなっていたことか……。


「今のは一体……」



「ーー奴さんの登場みたいだね」



 アイスブルーの瞳を鋭く光らせたソアンが見る先にはーーーー。



「ようこそお越しくださいました」


 光のない瞳をこちらに向け、そう言うのは探していたご令嬢の一人。全くもってその言葉と行動が合致していない。



「ラーナ・フォン・カルミア伯爵令嬢……」


 オリオンの言葉に反応するソアン。


「彼女がーー?」


 てっきり奴さんかと思った。けど……間違ってないのかな?なんか攻撃されたっぽいし。まあでもとりあえず無事そうだ。雲行きはちょっとどころか怪しいけど。と一人考え込むソアン。対してオリオンは訝しげに彼女を見ていた。


「カルミア嬢、オレ達は敵じゃない。あなたを助けに来た」


 そう伝えてみるも、彼女に反応はなかった。しかしオリオンは続ける。


「あなたの他にカトレット嬢も攫われた。先に後を追ったアリスにはまだ会ってないのか?」


 ぴく。


 ラーナの表情が少しだけ動く。そしてゆっくりと手が前に伸ばされる。……届いたか??



 ーーーしかし……



「だめだリオン!さがって!」


 ソアンの言葉の直後また避けた場所には一筋の線が走っていた。あとを辿るとやはりラーナから放たれたものだとわかる。やはりだめか……。


「ーーーー彼女、正気じゃないね」


 ソアンがラーナを見てそう呟く。そのアイスブルーの瞳は何かを見極めているようだった。


「え?」


「何者かに操られてる。……魔力が混ざってる」


「それ、は……一体どうしたらーーー」


「ーーー彼女の気を引き寄せる何かがあれば……」


 そうこうしているうちに、再びラーナの右腕が伸ばされる。今度は確実にオリオン達に向いていた。ひとまず盾の魔法を出現させ様子を見る。



 ーーーーそして、


 オリオンが盾を出しつつラーナへと解除魔法をかけようとした時、ソアンが何やらぼそぼそと呪文を紡いだ時ーーそれは起こった。



 ドン!!!



「っ?!」


 地を打ち砕くような地響きと共に、立つのも困難な程の揺れがオリオン達を襲った。



 オリオンは咄嗟に前だけに出していた盾を周囲に展開させる。案の定耐え切れなかったのだろうガラスの破片やら何やらが飛んでくる。そんな状況にはっとしてラーナを見ると、彼女にも その状況は襲いかかろうとしていた。


「カルミア嬢……!」


 言うが早いか、瞬時に横をすり抜けた何かが彼女の身体を庇う。ふわりとフードが外れ、その真っ白な髪が流れる。そして揺れた衝撃で暴発したラーナの魔法がその腕を掠めた。


「ソアン!?」


「あっぶなー……君、大丈夫?」


 安心させるように へらりと笑うと怪我はないかとラーナを見た。すると その虚ろな瞳が微かに揺れる。


 未だに揺れは続いているが、歩けないほどではなくなった為、オリオンはソアンの元に駆け寄った。拝借した兵士の装いはところどころ赤が滲んでおり、極め付けに先ほどの光線が左腕を赤く染めていた。顔には一切出さないが、これはなかなかに痛むはずだ。



「大丈夫かっ!すぐに手当てを」


「大丈夫大丈夫ー、それよりもう一人のご令嬢が気になるし先をーー」


 急ごう、そう続けようとした言葉が途切れた。



 はらり。


 ソアンに庇われた状態のままのラーナの瞳から、涙が溢れた。しかしそれに反してゆっくりと彼女の腕はソアンに向けられる。


「……にげて……ください…………」


 か細い声でそう告げられる。身体が操られているのか、悪趣味な。その場にいた誰もがそう思う。ソアンは悲しげな瞳をラーナに向けた。



 そしてまたその腕が魔法を創り出そうとしたその時。



「ラーナ様っ!」



 心の何処かで待ち望んでいた、澄んだ声が辺りに響く。次いで視界に映ったのは美しい金色だった。



修正

ザック隊長とわかれました

隊長のツッコミは健在です

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