【26】いや待ておれの所為か?
「お、お前たち一体どこから……?!」
うん。そりゃあいきなり地面?いや、床から人が現れればそういう反応になるだろう。間違ってない。間違ってないよ?しかし我々からしたら出るところを間違えた。ここじゃない。よりによって何故敵さんの目の前。
「レン〜〜」
「いや待ておれの所為か?」
「あなた謎にこのお屋敷の地理に詳しいから。てっきり確信犯かと」
「お前な。これはおれも予想外だ。前は倉庫だった」
敵さん目の前に言い合うアリリエスとレン。どこか余裕そうなこの2人にラファエルは唖然とした。え、これピンチじゃないの?向こう武器持ってるのに?こっちは地下牢から出たばかりで丸腰だ。自分は魔力も回復していない。それに彼女もーーー。
「まあ姿を見られてしまったら仕方ないわ。怪しい者ではありませんなんて信じてもらえないでしょうし」
黒髪赤眼の男に金髪アイスブルーの瞳の少女、そしてブロンドに蒼眼の青年。何とも言えない組み合わせに怪しさは満点だ。
「何をこそこそ話している!何者か知らんが主様の邪魔立てはさせぬ!」
「主様……ね」
ちらりとラファエルを見るアリリエス。彼の顔は冷めきっていた。その怒りを抑え込むように。主様とやらの信仰者はラファエルの顔を知らないのだろうか。ここは走った距離からしてとっくにカルミア領だと思っていたのだが、違うのだろうか。
「おい!」
そうこう考えに耽っていたアリスはレンの声で現実に引き戻された。目の前に迫るは兵士の持つ剣。
カキィィンッ
咄嗟に張った盾の魔法に弾かれるそれ。危ない危ない。
「なっ!!今何かが剣をはじき返したぞ?!」
うん?何かがって……魔法に決まっている。もしやこの人達魔法知らないのかな??こんな初歩的な盾の魔法なのに??
この世界には魔法を使える者と使えない者がいる。確かに分かれてはいるが、基本的にここの国民は魔法の内容に関して不平等がないようある程度教育を受けて育っている。はず。
「えっと…………じゃあ、えい。」
かるーく、本当にかるーく魔法を創出する。すると白い気体が辺りを包み、やがて気温がぐんと下がる。兵士たちの下でぱきぱきと音を立てて足元が凍りつく。
「なっ、なんだ?!」
「これは一体?!!」
ざわざわと慌てふためく兵士たちを前にアリスはぽかんとした。やはり、けったいな物をみるあの目から察するに、彼らは魔法を知らないようだ。
「ここでしばらくそうしていて?」
アリスは文字通り兵士の足止めをすると、くるりと同行者2人に向き直る。
「そういえばえっと……ラファエル様?あなたを閉じ込めたのは一体誰なんです?」
正直なところ、彼に会う前はラーナを利用したのはカルミア家当主だという線も否定できないでいた。しかしそれが違うということは既に判明している。とすれば彼らを陥れた犯人は……?
「ーーーー我が叔父のラウスです。」
苦々しくそう答えたラファエル。まさかそんなことが……。
「ラウスは私の父の弟です。彼はこの国に対し……王家に対し並々ならぬ怒りを覚えているのです。この、現当主である私に対しても同様に。」
「ーー理由をお聞きしても??」
「彼は勘違いをしているのです。我が家に対する古い呼び名、裏切りのカルミア家……それをつけたのは王家だと。しかしその真実が伝えられるのはカルミア家当主のみ。彼は当主にはなれなかった……だから知らないのです」
ぽつりぽつりと語られる真相の欠片。話が見えてきたアリリエスは眉を寄せ黙って続きを聞く。
「ラウスはまず我が妹ラーナを利用し情報を集めた。あの子の知らぬ間に術をかけていたのです。叔父の危うさを感じていた私は、きちんと話をしようと彼を訪ねました。ここ領主別邸は父の時代から叔父に与えていた屋敷なのですが、私の甘さ故に一人訪れた際、囚われてしまったのです。
ーーーーそれからはラーナの無事が定かではありません。こうしてあなたがここへ来ているということは、叔父は更に何か愚行を犯したのでしょうか」
神妙そうな面持ちでアリスを見るラファエル。
「……ラーナ様は魔法の出口として利用され、第二王太子殿下への呪術を発動しました。反対魔法により術はラーナ様へと跳ね返り、一命は取り留めましたが意識は戻らない状態でした。
先日、1人の友人と共に行方不明となり、攫われた可能性が高いことから、私はその後を追ってここまで辿り着いたのです」
「……ラーナが?!そんな……っ」
アリスの言葉に驚きを隠せないラファエルは、思わず叫んでしまう。
「おそらく、彼女たちもこの屋敷に囚われています。あなたの叔父様がこれ以上事を起こさぬよう、一刻も早く止めなければ」
「うそだ!!!」
「主様がそのようなことをする筈がない!あの方は我らの為にと……!」
足が凍ったままの兵士たちが口々に叫んだ。あ、そういえば意識はあるんだこの人たち。あらかた足が動かない状況に慣れたのか、ばっちりこちらの話を聞いていたようで。戸惑いを見せながらも反論をしてくる。
アリスは ふと息をつくと兵士たちに向き直る。
「ーーーーそれでは、あなた達はこの方がカルミア家当主だと知っていて?その彼がこの下の地下牢に閉じ込められていたのです。あなた方の言う主様によって」
冷たく言い放たれるアリスの言葉に、彼らは口を噤んだ。
「し……しかしカルミア家がこのように肩身の狭い思いをしているのは王族の所為だと……」
「ーーーー叔父は真実を知らないだけです。我らの祖先が何を犯したのか……。そしてそんな我らの罪を、国王陛下は許してくださったのです」
真剣な瞳で彼らを見つめ答えるラファエルに、兵士たちは動揺を隠せないでいた。
「そ……そんな……」
「我らはどうすれば……」
「ーーまずは真実を確かめることです。誰かに付き従うことは時として自分で考えることを放棄してしまう……何かあった時にその人の所為にするのは無責任ですわ。自分で考え、納得の上で行動することが必要なのです」
動揺したままの兵士たちをしっかりと見て告げるアリスの言葉に、何人かは俯き拳を握りしめ、また何人かはその手に持つ剣を床に落とした。
「おい、そろそろーー」
黙って成り行きを見ていたレンがアリリエスに声をかける。あぁまた時間をくってしまった。急がねばならないのに。
3人が先へ進もうと顔を見合わせた、その時。
ドン!!!
「っ?!」
地を打ち砕くような地響きと共に、立つのも困難な程の揺れがアリス達を襲った。レンとラファエルが咄嗟にアリスの側へと寄り上から落ちてくる物や破片を防いだ。当の本人はというと地面に倒れこみながらも腕を大きく前に突き出し、足が固定されている兵士たちの上に巨大な盾の魔法を出現させていた。
「お……まえはっ、少しは自分を優先しろ」
「あら。でも2人のお陰で何ともないわ」
ありがとう、と少し辛そうに笑うアリス。そりゃあそうだ、立て続けに魔力を消費しすぎている。ラファエルは心配そうな顔のまま、内心でそう納得していた。……のだが、アリスはスカートで見えない足首に手を当てる。
ーーー捻った……地味に痛い……。
魔力云々関係なしに物理的痛さに顔をしかめるアリスであった。
「それより、何が起きているの……?」
先程までの大きな揺れはないものの、未だに建物はガタガタと揺れている。
「とても大きな魔力をこの上から感じる」
真っ赤な瞳を天井に向けるレン。その目は鋭い光を帯びていた。
「お前の探しもの、そこにある」
その言葉に、アリスは素早く立ち上がると足の痛みなどなかったかのように扉を目指して走り出した。後の2人も彼女を追って走り出す。
残された兵士たちの足場の氷は跡形もなく消え去っていた。




