【23】悲願?
薄暗い地下の通路は二人で横並びに歩くには狭く、アリスはレンの後ろを歩いていた。
「ねぇレン、私の魔力が特殊なのは聞いたけれど……どうしてなのか知ってる?元の姿に戻す魔法なんて知らないし使った覚えもないのだけど……」
ふとアリスは後回しにしていた疑問を口にした。
レンは一度ちらりと後ろのアリスに目を向けると、また前を向いて歩き出した。
「ーーーーお前のソレは生まれ持つものだろう。
しかしまあ……よく今までなんともなかったな」
あぁ、王都にでもいたのか。それにしても……と何やら呟くレン。教えてくれる気があるのかないのか。
何やら考え込んでいたレンは徐ろに口を開いた。
「おれ達にはお前のその魔力の匂いはとても美味そうに感じる。だから今までよく魔物に襲われなかったと不思議だったが……もしも王都にいたのなら話は別だ」
「王都??確かに王都に住んでいるけれど……」
え、あ、もしかしてここって王都じゃないのか。そういえば髪飾りをもとに気にせず走ってきたので気づかなかったが、走った距離を考えると王都から出ていても不思議ではない。破落戸が関所など通るはずもないし、知らぬ間に抜け道を通っていたのだろう。
「やはりな。王都にはおれ達魔物を除ける結界が張られている。近頃それも薄れてきたようだが……お前の匂いはそれで隠されていたのだろう」
「王都に魔物除けの結界……ね」
あり得なくはない話だ。王都には王族も貴族も、それに有能な魔導師達も多く集まっている。それならば、各地で聞く魔物の被害も、王都で聞くことがないのも納得がいく。
「ーーーーあとはお前のその……耳飾り」
アリスが考えに耽っていると、レンがふと振り返り、アリスの耳元に目を向けた。彼の言葉にきょとんとした顔をすると、無意識に残された片方の耳飾りに触れた。
「……これが何て??」
「かなり弱まっているが、ソレもお前の匂いを隠している。何か魔法がかけられているようだが……今は不十分だ」
「耳飾りに……魔法??」
どういうことだろう。この耳飾りは小さい頃からつけている、所謂貴族の装飾品だ。しかしレイウェル公爵家は国でも1、2を争う大貴族でありながら、華美な装飾品やら趣向品やらに然程関心のない稀有な一族でもある。
そんな我が家が唯一と言っていいくらい身につけているのがこの銀装飾。なんでも大昔に王家から賜ったとかで、忠誠を誓う証でもあり今でも身につけるのだとか。
ーーー本当に、なんでそんなところの令嬢である私がラスボスなんだ……。愚痴をこぼしたくもなるが話がそれるので今は置いておく。
とまあ、その内の一つでもあるこの耳飾りに魔法がかけられているなど、アリリエスは聞いたことがなかった。
「……それは対にして使うものだろう。もう一つはどうした」
耳飾りが一つしかないことをレンは見ていたようだった。探索魔法の為に使えればと思って置いてきた耳飾りを思い浮かべるアリス。
「もう一つは……今は友人の元に置いてきてしまったの」
「ーーーーお前の匂いが強いのは そのせいだろう。ここは あらゆるものを隠す道だから良いが、早いとこ その魔法を完成させることだな」
耳飾りに魔法に……懸念材料は増えたが、アリスはこうしてなんだかんだ教えてくれるレンに対し、やはりそんなに悪い人には見えないなぁと思い直すのであった。
◆
開かれた扉をただ呆然と見るエミリア。
入ってきたのはこれまた見知らぬ男だった。手に何か変な透明の珠を持っている。怪しさ満点だ。
「ーーーなんだ、目が覚めたどころか意識がはっきりしているようだな」
面白そうに目を細める男は、部屋に入ると扉を閉めた。ロウレンも姿を消してしまうし、一体なんだというのだ。あれか、こいつか私を攫ったのは。
「ーーーあなたは誰です。私に何の用ですか」
しっかりとした瞳を向けると、視線を逸らすことなく問う。そんなエミリアの様子に男はまた面白そうな顔をした。先ほどのロウレンの時とは偉い違いだ。この男はエミリアをどうとでも扱う気だろう。そんな気が感じられた。
「……良い目をするじゃないかーーー力持つ者よ」
「え?」
この男は何と言ったか。《力持つ者》??
「よく知らぬという顔だな。
ーーーそなたは選ばれし者なのだ。直に分かる」
含みのある笑みにエミリアの警戒心は高まるばかりだ。
「あなたは一体……」
「私はラウス。ラウス・フォン・カルミア」
「……カルミア?では やはりあなたが私をここへ?」
そう無意識に口にしたエミリアに、ラウスは片眉を上げ意外そうな顔をする。
「ーーーほう? やはり、ということは予想していたということか。情報を与えるようなことはしていない筈なのだがな」
その言葉にしまったと思うエミリアだがもう遅い。この情報源はロウレンだ。しかしなんとなく彼のことは言わない方が良い気がする。なにせ自分を助けようとしてくれていたのだ。この男が来る前に姿を消してしまったし……。
ぐるぐると考えを巡らすエミリアに、またラウスは ふと口元に弧を描いた。
どうしようなんか笑ってるこの人……!何か誤魔化す術は……カルミア……カルミア家…………あぁそうか。
「私は とある件に関与していました。ラーナ様も。よくご存知でしょう?」
凛として答えるエミリア。自分が拐われたのはレオン様の件があってすぐだ。そしてラーナ様のあの様子。理由はよく分からないが、何かしら関わっているのだろう。カルミア家といえば勿論ラーナ様のことも知っているだろう。というざっくばらんな考えからのハッタリだったのだが。男は意外そうな顔をすると更に笑みを深めた。…………なんで??
「ーーーなるほど、そうか。そなたは全て分かっていたか」
うん?えっと、わかってない。わかってないよ??
何勝手に解釈してるんだこの人。と不信感ダダ漏れなエミリアを余所に、ラウスは独り言を続けた。
「……ラーナは私の兄の子だ。あの子には気の毒なことをさせた。しかしそれも全て我が一族の悲願の為だ。分かってくれるだろう」
「……悲願?」
「我ら一族はこの国のアルメリア王家によって虐げられてきたのだ」
ーーーーーえ??
話がよくわからないが、何故だが男はエミリアが知ってる前提で話し続けている。
「《裏切りのカルミア家》ーーーそれが王家によってつけられた、我ら一族への異名だ。理由も明確にはされていない。そのせいで我らは現階級である伯爵家以上にはなれず、功績も認められることはない。貴族界にいながら、居場所などないも同然であった
…………一体我らが何をしたというのだ?それこもれも、謂れのない噂を広め、我らを陥れたこの国の王族の所為なのだ。奴らは我らが力をつけるのを恐れ、排除しようとしたのだろうがな」
苦々しい表情で告げる男からは、強い憎しみの感情がひしひしと感じられた。
ーーーこの国の王族が??彼らを?ラーナ様のお家を陥れた?誰がそんな戯言を信じるだろうか。エミリアは不思議で仕方がなかった。
しかし聞いている中で一つの考えにたどり着く。あぁそれでーーー。
「まずはこの国の王子だと思った。ラーナがうまく近くにいたからな。アレはなかなか使えたが、よく邪魔が入っていた。ついに呪いに成功したかと思った矢先、そなたらに阻まれたのだ」
そう言うと忌々しげにエミリアを見るラウス。
やはり。この男がラーナ様を利用して、レオン様に手を出したのだ。
「しかしまあそれ以上の収穫があったから良しとしよう。お陰で力持つ者達を手に入れることができたのだ」
「ーーー力持つ者達??」
まさか……!
エミリアが考えつくと同時に、ラウスはにやりと笑う。するとその手に持っていた球が眩い光を放った。
「そなた達は我が悲願の為に力を貸してもらおう。
ーーーこの国の王族を排除する為にな。」




