【19】とりあえずオニーサンが凄いのは分かったよ……。
アリスが学院から姿を消してから数時間後のこと。
第二王子のもとに1人の従者が駆け込んできた。
「レオン殿下……!」
「殿下は取り込み中です。私が代わりにーー」
「シエル。いい、話してくれ」
さっと前に出たシエルを下がらせると、レオンは続きを促した。
「はい、それが……失踪者が新たにもう1人……
アリリエス・フォン・レイウェル公爵令嬢がつい先刻姿を消しました……!」
「「?!」」
従者の言葉に驚愕する2人。
「一体どういうことだ?彼女は療養中の筈……まさか彼女も?」
カトレット嬢らと同様、何者かに拐われたというのか。そんな疑問が浮かぶのは当然である。それを知る者は少ないが、彼女も事件の関係者だ。
「現在調査中です。魔法痕はなく、争われた形跡もないようでして……」
「相当の手練れということか……」
一気に緊張が増す。おそらくこれはラーナを通してレオンに魔法を仕掛けた人物と同一犯によるものだろう。あれほどの呪いをかけた人物となると余程の手練れの筈だ。その手練れに唯一立ち向かえたアリスさえ囚われてしまったと考えると、なかなか最悪の状況である。
「あーその、殿下?」
そんな緊張感の中、なんとも言いづらい表情で顔を出したのは出入りの許されていた準関係者であった。
「アスター殿か。先程の話、聞いてしまったようだな
……。レイウェル嬢はきちんと我が兵が連れ帰ると約束しよう。だからそのーー」
心配だろうが任せてくれ。そう言おうとしたレオンだが、何やら言いたげなオリオンに対し言葉を引っ込めた。
「ええと、そのことなのですが……本人から書き置きがありまして」
「なに?」
訳のわからないという顔をする殿下に内心で苦笑すると、オリオンは真剣な面持ちで告げた。
「アリスは単独でカトレット嬢達を追ったようです。時間がなかったようで、最小限の言葉を残していきました」
「ーーー聞かせてくれ」
「はい。
エミリア、髪飾り、探索魔法、西へ、ラーナの回収、黒幕
先程レイガー先生から話を聞きました。アリスはどうやらカトレット嬢の髪飾りを預かった後、探索魔法をかけたようです。おそらくは持ち主の居場所を示すその魔法を頼りに西へと向かったようです。令嬢方を攫ったのはカルミア嬢を後ろで操っていた黒幕でしょう。急ぎ救わねば彼女達の命が危ない、と」
アリスの残した言葉からここまで正確に読み取るオリオンに末恐ろしさを感じながらも、頼もしく思うレオン。アリスは瞬時にオリオンを頼ったのだろうがその気持ちもわかる。
「そうか。彼女はそんなことを……」
「ですが一人で追うなど危険すぎます!彼女は病み上がりなのです。すぐにでも捜索部隊を要請して参ります」
シエルの言葉はもっともだった。危険にもほどがある。いくら高い魔力を有していようと、一人の少女なのだ。
「そのことですが、アリスが探索魔法を使用した時には、カトレット嬢を追うことができる ぎりぎりの距離だったのでしょう。この書き置きを残すことが精一杯だったと思われます。
それにアリスは自分が長らく身につけていた耳飾りを一つ置いていっています。同じ方法で探索魔法を使ってオレがアリスを追えます」
この種の探索魔法は術者の魔力にもよるが、ある程度の距離が離れてしまうとその効果を発揮できない。だからこそアリスは単独で動かざるを得なかったのだろう。おそらく自分の領域を超えてしまうのが分かったからだ。今のオリオンのように。
「状況はわかった。急ぎレイウェル嬢を追う準備をしてくれ。すぐに精鋭部隊を遣わそう」
「承知いたしました。ありがとうございます」
オリオンは焦る気持ちを抑えつつ、冷静さを保った。アリスの意思は、カトレット嬢達を救う力を得てアリスを追うこと。今ここで1人突っ走ることではない。
アリスが1人突っ走ることなど昔から百も承知だ。それをいかにカバーするかが幼馴染の自分の役目であると思っている。
「シエルは精鋭部隊への伝達を。そして黒幕の特定を急ぐ。ことによっては私も出るからな」
「かしこまりました。あぁでも、殿下が出ることについてはギリギリまで止めますけどね。殿下もお命を狙われた身だということをお忘れなく」
「……わかっている。しかしこれ以上犠牲を出すわけにはいかないからな。最善を尽くそう。」
「御意に。」
女性陣にここまで守ってもらっていては己の騎士道に反する。彼女達に顔向けできるよう己にできる精一杯をしようと決めたレオンであった。
◆
アリスの追走部隊にはオリオンの他にレオンが引き抜いてきた少数精鋭の上級魔導師達が揃っていた。相手がかなりの魔法の使い手ということが分かっている為、念には念をいれてだ。
「今対象を追っているのがレイウェル公爵令嬢って聞いたんだけど……」
本当かな?と こっそり聞いてくる しょうねn……青年。確か名前はソアンだ。この中では比較的年も近いように見える。真っ白な髪にアイスブルーの瞳を持つ彼はフードをかぶり直しながらオリオンを見た。
「あぁ、先程聞いた通りだ」
「ふーん。学院のお嬢様が、ね」
そう呟いてなにやら考え込むソアン。
「ソアン殿はどこまで聞いたんだ?」
今回の件を。そう何気ない問いかけだったと思うが、彼は少し驚いたような顔をした。何か変なこと言っただろうか。
「?」
「あぁいや、僕名前言ったっけなぁと思って」
「いや、直接ではないけど。先程部隊の招集時に名を呼ばれていたから」
さも当然の如く言うオリオンにソアンは納得したと同時にちょっと引いた。少数精鋭とはいえ少なくない人数の名が呼ばれていた筈だ。まさか全部覚えて……なんて恐ろしい事は聞きたくない。自信をなくしそうだ。
「とりあえずオニーサンが凄いのは分かったよ……。あと殿とかそんなのいらないから。そして僕オニーサンの名前知らない」
「ーーーーオリオン・フォン・アスターだ。俺もオリオンでいい」
「長いな。リオンで」
「いや1文字しか変わらなくね?」
思わず突っ込んでしまったオリオン。まあアリスには昔からそう呼ばれているし慣れているのだが。それとこれとは何か別だ。まあまあ、と抑えられては何も言う気がしなかった。
「ーーえっとそれで今回の件だよね。僕が聞いてるのは、今回の任務が計3人のご令嬢の行方を追うってことかな。とりあえず最初の2人が拐われたっぽくて、1人が手がかりを掴んで追跡中っていうのは知ってる。まさかそれがあの公爵令嬢だとは思わなかったけど」
行動力ありすぎでしょ。そう言うソアンにオリオンは何ともいえない顔をした。アリスがそういう性格なのは昔からだ。しかし周りは知らないので心底疑問に思っていることだろう。
「あぁあとーーー敵さんがなんかやばそうなのも聞いた」
すっとアイスブルーの瞳が細められる。ソアンはこちらが専門なのだろうか。この部隊に呼ばれている時点で上級魔導師なのだろうが。
それから深く聞くことはできずに出発の時を迎えた。




