【15】そしてここはどこなのかしら?
ぱちり。
スカイブルーの瞳が開かれる。視界は良好。システムオールグリーン……ごほん。
冗談はさて置き視界は良好どころか真っ白だ。何だろうと思うまでもなくそれは天井だった。つまり、アリリエスの身体はベッド(とてもふかふか)で仰向けになっていた。
はて……?何があったんだっけか。
なんだか身体は怠いしびっくりするくらい重い。寝ているときはあんなにふわふわしていたのに!なんということだ。とまあ はっきり覚えてる訳ではないが、そんな感じがする。
「そしてここはどこなのかしら?」
「なんかデジャブだな。医務室だよ」
私も言った後で思ったわ。そんなことは教えてあげないけど。アリスは顔を馴染みある声のした方に向けた。なんだいたのか。
「リオン。私はあなたに会うのはいつぶりかしら」
「倒れた後のことを言ってるなら、丸3日だな」
例のごとく変わりないアリリエスに対し、若干呆れた顔で告げるオリオン。回りくどい言い方も、正確に読み取って答えてくれるから有難い。さすが腐れ縁だ。
それにしても3日とは……。家にはなんと言おう。
アリスが遠い目をしていると、それを察知したのかオリオンが口を開いた。
「公爵家には殿下の名で事情を説明し、回復するまで学院で療養することも伝えてる。あの場にいた者としてアリスの目が覚めたら話を聞かないといけなかったからな」
「そう……」
とりあえず家のことを気にしなくて良いと分かり、身体の力が抜けた。
「ーーすごく身体が重いわ……」
「そりゃあそうだろう。それだけ魔力を一気に消費したんだ。この前の比じゃない」
そりゃあこの前はフリをしていただけだからねぇなんて言えず。今回は別だ。あれだ、記憶を戻してうっかり山を吹き飛ばしちゃった時以来だ。やはり魔力の使いすぎは良くないらしい。
「ーーーみんなは無事?」
アリスはこの問いが内心を占めていた。起きてすぐは頭が働かなかったが、この幼馴染との会話で徐々に倒れる前の記憶が戻ってきていた。
「全員命に別状はない。
ーーーレオン殿下も回復して既に動き回ってるし、カトレット嬢も魔力消費量は問題なし。2人ともアリスの目が覚めないのを心配してる。カルミア嬢は……今も眠ってる」
オリオンの言葉に、アリスはひとまず安堵の息をついた。想像していたよりも、まだ良い。救いたかった人々が全員生きているのだ。後の心配事はこれからなんとかすればいいだけのこと。
ラーナが目を覚ましていないのは少々不安だが、あのレイガー先生が封印を施し処置をしたのだ。彼が命に別状ないというのだから大丈夫なのだろう。
むしろ自分が先に目を覚ましていて良かった。色々と動きまくったアリリエスを差し置いて何かを決断するとは思えないが、心配事は少ない方が良い。考え事をするアリスを、少し心配そうに見守るオリオン。
「リオンは聞いたのね」
ーー今回起こったこと。アリスの倒れた理由を。
「あぁ、大方……な。レイガー先生に呼ばれて行ったらみんな倒れてるし顔色悪いしで驚いた。アリス達が犯人探しするって言ってた矢先にこれだもんな」
だから無茶するなと言ったのに……という恨めしげな目がアリスに向いた。何も言えないアリスはただそっと目をそらした。
「そのーーーカルミア嬢……だったのか?アリス達に魔法を仕掛けたのも……殿下に魔法をかけたのも」
少し言いづらそうなオリオンの問いかけにアリスは困ったように肩をすくめた。
「……それは正確ではないわね」
「どういうことだ??」
「ーーーラーナ様は……魔法の入口となっていただけなの。その先の、何者かによる魔法のね」
「ーーーそういうことだ」
突然聞こえた声に2人が振り返るとそこには……
「レオン殿下」
つい先日倒れたばかりの、第二王子の姿があった。アリスは寝たままでは流石に不敬だと起き上がるも、本人及びその従者殿ことシエルに止められた。病人は寝ていろと、そういうことらしい。いや、病人とかではないのだけれど。
そうこう思っていると神妙な面持ちの殿下が目の前に来た。……そういえば仮にも淑女が寝ている部屋に男3人も来るとは非常識ではないだろうか……?
「アリリエス・フォン・レイウェル殿、この度のこと全てシエルに聞きました。我が命、救ってくれたこと感謝いたします。」
ーーー!?
すっと綺麗な騎士の礼をするレオンに、アリリエスは不意をつかれ戸惑った。一国の王子が公爵令嬢ごときに何をなさる。心臓どっか行っちゃうかと思ったわ。
「殿下、私が殿下をお救いするなどという大それたことは行なっておりません。殿下をお救いしたのはエミリア様ですわ」
彼女の回復魔法のお陰で、殿下は今こうして無事でいられるのだ。そうしっかりとした瞳で告げると、今度はレオンが面食らった顔をする。次いで面白そうに笑うとアリスを見た。
「ーーー本当にあんたは変わっているな。普通は褒美を望むところでは?」
そんなレオンの言葉に、アリスと隣にいたオリオンが顔を見合わせた。あぁそうか、普通はそういう思考になるのかしら?オリオンはアリスが普通とはちょっとズレているのを知っている為、レオンの言葉に同じような反応をしていた。
「恐れながら殿下、私は仮にも公爵令嬢です。自分の望むものは自分で手に入れますわ」
アリスの言葉にまたレオンは納得したように笑った。そんなに褒美を望まないのが可笑しいのだろうか。
あいにくそんなに物欲ないのだけど……。
「そうだったな、しかしまあ本当にあんたに助けられたのは事実だ。ありがとう」
今度は堅苦しくなく、素直にお礼を言われた。そういうことならこちらも素直に受けとろう。
「ご無事でなによりですわ」
アリスが優しげに微笑むと穏やかな空気が流れた。
「ーーーそれで、カルミア嬢が魔法の入口とはどういうことです?」
話を戻したのはオリオンだった。殿下が来たのもその事で話があったからだろう。
「あぁ、さっきレイウェル嬢が言っていた通りだ。何者かの魔法の入口にされたのだろう。
最近魔導師コースで不可解な魔法の暴発事件が起きていたのは知っている通りだが、特に発生条件をみるとレイウェル嬢とカトレット嬢の周りで起きていた他にある人物が浮かんだ」
「ある人物……それがカルミア嬢ですか?」
「あぁ。私はそのことであの日、彼女に問いかけようとしたんだ」
あの日、とはレオンが魔法を仕掛けられ倒れた時である。
「しかし彼女は自分が関係していることに気づいていなかった」
「ラーナ様が気づかれたのは殿下が目の前で倒れた後、ですわね」
レオンの言葉にアリスが続けた。どんなに怖かったことだろう。知らぬ間に利用され、人を傷つけることになろうとは。
「そのようだな。彼女と話している中で突然彼女の腕から魔法が放たれたんだ。その後は不覚にも意識を失ってしまったが……レイウェル嬢の知るところだろう」
「取り乱されたラーナ様がエミリア様に助けを求めて、更に私のところまで話がきたのですね」
話は繋がったが、レオンには分からない点がいくつもあった。
「カルミア嬢が魔導師コースの暴発事件にどのように関わっていたのでしょう?同じように突然腕から魔法が放たれたのであれば、流石に気づくでしょうし」
「おそらく起爆装置としての魔法を掛けられたのだろうな。今魔法の痕跡を調べさせてはいるのだが……彼女の腕は返された呪詛魔法が封印されていて状況は困難だという」
「なるほど、彼女が起爆装置となり、ある条件を満たすことで魔法の暴発が起こっていた、と。
ーーーでは彼女を通して魔法を掛けていたのは一体……?」
そこが、一番の問題だった。ラーナに魔法を掛けた張本人が、今回の事件の黒幕であることは確かだ。
しかし今のところその影すら掴めないでいた。




