【13】彼女の命を救わねば。
第二王子レオンのいる部屋は少数ながら厳重な警備体制となっていた。本来ならば入ることが出来ないだろうその部屋。
「シエル・リークスです。殿下のお部屋に通してください」
従者であるシエルは兎も角、その後ろのアリリエスの姿に衛士は戸惑いを見せた。
「……そちらのご令嬢もでしょうか?」
「ーー私は殿下の学友でレイウェル公爵が娘、アリリエス・フォン・レイウェルと申します。少しでも殿下のお力になれればと思い居ても立っても居られず……」
儚げな表情で瞳を潤ませると初め難色を示していた衛士は別の意味で戸惑いを見せた。そしてあっさりと入室が許可される。アリスにかかればこんなものだ。……って自分が言うのもなんだが そこはもうちょっと頑張って止めようよ。手間が省けていいけども。
中の医務官と魔導師に対しても先程と全く同じ くだりをやった後、漸くレオンの姿を見ることができた。
寝台に横たわる殿下の身体は、右腕から広がる赤黒い模様に覆われていた。
ーーー蔵書で読んだ通りならばこれは呪いの一種なのだが、これを跳ね返すのは至難の技かもしれない。魔導師達による魔法でなんとか広がるスピードを抑えているようだが、ここまで呪いが広がっているとは。
難しい顔をしているアリスに不安に思ったのか、シエルが心配そうにしている。そして同じような顔をする医務官が口を開く。
「レイウェル嬢、流石のあなたでも為す術がないでしょうか……」
「ーーーいえ、一つ方法があるのですが……」
その言葉に信じられないという顔をする医務官たち。本当ならすぐにでも取り掛かるべきなのだが、一瞬躊躇うアリス。それをすることで傷つく人がいるのを知っている。原因は未だはっきりしないままなのだ、誰も死なせるわけにはいかない。アリスはゆっくりと息を吐くとしっかりとした瞳を向けた。
「反対魔法は試されましたか??」
「反対魔法……ですか?」
反対魔法といえば言わずと知れた上級魔法である。しかもかけた術者よりも高い魔力を必要とする高度な魔法だ。アリスは表情を変えずに続けた。
「これは病でも怪我でもありません。魔法による呪いです。ですからその魔法を跳ね返すことが出来ればおそらく」
「……ですが反対魔法は……跳ね返すことが出来なければこちら側も同じ魔法を受けます。ーーあまりに危険です」
苦しそうな表情の魔導師は、過去にそのような経験があるのだろう。そして自分では殿下にかけられた魔法を跳ね返すことが出来ないのも分かっているようだ。
「あら、私はまだ死ぬつもりも殿下を死なせるつもりもありませんわ」
にこりと微笑むとアリスはレオンの前に進み出た。
思わず黙って場所をあける魔導師達はアリスの様子を見守るほかなかった。
「ーー少し離れていてください」
アリスは集中するとレオンの上に手をかざした。
金色の光がレオンへと流れ落ち、その赤黒い模様をなぞっていく。
じわりと汗が滲んだ。なんとも複雑な呪いのようだ。アリスは前世の記憶を戻してからというもの、魔力について困ったことなどなかったが、今回は別のようである。これは主人公の無敵のパワーが必要だったかもしれない。
レオンの身体を覆っていた赤黒い模様が、徐々にその広がりを狭めていた。右腕の核へと縮まっていくのが見て取れる。その様子に表情を明るくする魔導師達だが、尋常でないアリスの魔力消費量にすぐに心配のそれへと変わった。
「レイウェル嬢……!それ以上はあなたが危険です!」
えーっと。そこは心を鬼にしてでも殿下を優先しようよ?思わず突っ込みたくなるアリスだが、今はそんな余裕はない。魔力的にはまだいけるが、気力がなんともしんどい魔法だった。あとは右腕に広がる模様だけのところで、あと一歩力が足りなかった。
ーーーその時。
「アリス様!」
皆がアリスに視線を集中させる中、突然入って来たのは主人公エミリアとーーー
「あなたは……」
エミリアに支えられ、苦しそうなラーナの姿だった。
どうしてここにーー。手を止めずに顔だけ向けると苦しげな表情をした。
「アリス様、申し訳ございません。ラーナ様が突然苦しみだして……回復魔法をしているのですが、どうしてもここに来ると仰るので」
「アリス様……全部お分かりなのでしょう。わたしくしのことは気にせず……進めてください……!」
「ラーナ様……」
涙を流し そう言うラーナに、アリスは何も言えずにいた。周りは訳が分からず困惑するばかりだった。
彼女が来たということは、彼女はーーー。
「エミリアさん、わたくしは大丈夫です。アリス様と共に……どうか殿下をお救いください……!」
エミリアはラーナの言葉に戸惑いながらも頷くと、彼女を近くの椅子に座らせアリスの元へと来た。
「アリス様、私にもお手伝いさせてください!」
「ーーーーエミリア様、ラーナ様の回復魔法を止めて、殿下に同じ魔法を。」
「はい!!」
エミリアによる魔法の後押しで、レオンの右腕に残る模様が完全に消え失せたその時。衝撃でアリスは倒れこみ……ラーナが椅子から崩れ落ちた。
「アリス様!ラーナ様!?」
駆け寄ろうとするエミリアだが、先に控えていたシエルがアリスを支えた。
「ーーエミリア様、殿下の回復魔法を続けてください」
「アリス様っ、大丈夫なのですか??」
不安そうに言われた通り回復魔法を続けるエミリアにアリスは内心微笑むと、安心させるように頷いた。
「ラーナ様は私が。殿下をお願いします」
シエルの腕を借りゆっくり立ち上がると、アリスはふらつく足でラーナの元へ向かった。
こうなることがわかっていたのに止められなかった。倒れてなどいられない。彼女の命を救わねば。




