【12】全力を尽くします
ーーー第二王子が倒れた。
その意味とは。病によるものか、それともーー?
「エミリア様、詳しくお伺いしたいのですが。殿下はいつ、どうしてお倒れになったのですか?」
「つい先程、ラーナ様が青ざめた表情でいらっしゃって……余程良くない状況なのかと思い……まずアリス様にご報告しなければと……」
「ーーーラーナ様が?」
「はい、なんでもレオン様に呼び止められ……お話をしていたところ急に体調を悪くされたとか。そのままお倒れになった後、医務室に運ばれたそうです」
色々気になるところはあるが、今は殿下の容態が気にかかる。おそらくだがこれは病などではない。今頃は魔導師たちが全力で回復にあたっていることだろう。
「……それで、ラーナ様は?」
「ラーナ様ですか??ラーナ様なら医務室に向かわれてると思います。とても顔色が悪かったので……」
きょとんとしながら答えるエミリアに対し、アリスはすっと立ち上がると凛とした表情で言う。
「そう。では私たちも医務室に参りましょう」
「はい!あ……でもレオン様のお見舞いは難しいのでは……?」
「あら、私たちがお見舞いに行くのはラーナ様のところよ」
にこりと笑うとエミリアは納得がいったようで、アリスに続いた。
◆
「思っていたより静かね」
医務室前までくると、アリスはそう呟いた。
流石に第二王子が倒れたとの情報が流れるのはまずいだろう。おそらく殿下のいる部屋は厳重な魔法による結界がしかれ、今も治療が行われているはずだ。
「レオン様……大丈夫でしょうか」
不安そうに言うエミリアに対し、アリスは冷静だった。
「殿下は必ずお守りしましょう。今は私たちに出来ることをするだけですわ」
レイウェルの名を出すと、警戒体制の医務室もあっさりと入室を許可された。ラーナのいる部屋を教えてもらうと、アリス達はそこへ向かった。
「レイウェル公爵令嬢殿……?」
その途中でふと声を掛けられる。振り向くと顔見知りでもある殿下の従者殿が顔を真っ青にしたままそこへ立っていた。
「あなたは殿下の……」
「はい、シエル・リークスと申します。」
「リークス殿、顔色が良くありませんが大丈夫ですか?」
心配そうに返すアリスにシエルは一度笑いかけると、すぐに表情を暗くした。
「シエルで構いません。ーーわたしのことなど問題ないのです……今はそれよりも」
「……シエル様、殿下のことでしたら聞き及んでおります。私達に何かお手伝いできることはございますか?」
アリスの言葉にばっと顔をあげる。
「一体どこで……いえ、レイウェル公爵令嬢ならば……」
「あら、私のこともアリスで構いませんわ」
何やらぶつぶつと考え込んでいるシエルに苦笑しながら言うアリス。そして凛とした表情に戻るとまっすぐシエルの目を見て告げた。
「ーーー殿下のことは、ご一緒にいたというラーナ様のお話を、エミリア様経由でお聞きしました。直接殿下に御目通りするわけにもいかず、まずはラーナ様のお見舞いにと参ったのです」
「そう……でしたか」
「殿下の様子をお伺いしても?」
アリスの言葉にシエルは一瞬言い淀むも、すぐに口を開いた。藁にもすがる思いなのだろう。
「……殿下はお倒れになってからずっと意識が戻っておりません。心の臓の動きも弱く、顔色も悪くなるばかりで……利き腕には赤黒い痣のようなものが徐々に広がっており、魔導師が何をしても消えないのです」
「……そうでしたか」
赤黒い痣のようなものとは……なかなかなことをしてくれる。レイウェル家の蔵書の中で昔読んだ記憶を引っ張り出す。
アリスは暫くの沈黙の後、エミリアとシエルを交互に見た。その様子に疑問を浮かべる2人。
「シエル様、殿下の元へ案内してください。一つだけ、お助けする方法がございます。エミリア様は、ラーナ様の元へ向かってください。そして出来る限りの回復魔法の準備を。」
一瞬の間の後、シエルとエミリアの表情が驚きに変わった。
「本当ですか?!」
「やってみなければ分かりませんが……全力を尽くします」
「アリス様、私に出来ることはラーナ様の元へ行き、回復魔法の準備をすることなのですね?」
しっかりとした瞳で問うのはエミリアだ。彼女は最初に会った頃とは別人のように、本当に逞しくなった。
「はい。すぐに私も向かいますわ。それまでラーナ様をお願いしますね」
「わかりました!アリス様ならきっと殿下をお救い出来ます。私は私に出来ることを行います!」
そうしっかりと告げたエミリアに微笑むと、アリスはシエルの後に続いた。
悪役令嬢どころではなくなってしまったが、今は自分に出来ることをやる。ただそれだけだ。
ーーーまずは殿下を救う為に、そして殿下も気づいたのだろうこの事件の真相に辿り着くために。




