それぞれの世界の事情
青い空に輝く太陽。心地よい風が吹いている中、俺とオズは地面に横になり空を見上げていた。
なんと平和なことだろう。
「……困った。我も今日1日は何もせぬ時間を堪能しようと思っているのだが、気が付いたら頭の中で森の効率的な開拓計画と10年後の推移を計算している」
「ああ、その気持ちはわかるよ。俺もただ昼寝をしようとしているだけなのに、風の音を聞くだけで反射的に敵や暗殺者がいるのではないかと反応してしまい無性に悔しい」
「貴方たち相当重症ね。いい?ここには国民も敵もいないのよ、のんびりダラダラしたいなら家の中でしなさい!」
聖女の祈りを終えたイリスに俺たちは怒られてしまった。
この、外で風を感じながら横になるのが幸せだというのに。
「そういえば次はどんな住民が来るんだろうな」
「む、そうだな。狂戦士とかはどうだ?最近、身体が鈍っていてな、久しぶりにバチバチに殺り合いたいぞ!」
「物騒過ぎるわよ!」
そういえば俺も毎日身体を動かしているとはいえ、あの頃に比べたら全然だ。
ダンジョン深層でモンスターと戦っていた俺が今ではホーンラビットやただのイノシシを狩るだけ……そりゃあ鈍るか。
「いつも通り女神様の傾向的に考えればそろそろ新しい住民が送られて来そうな気がするが、斧を振れる人がいいな」
「それは私が使い物にならないって言いたいのかしら?でもそうね、私は貴方たちにツッコめる人がもう1人欲しいわ」
3人それぞれがまだ見ぬ4人目に思いを馳せていた頃、タイミング良く女神様からの念話が届いた。
送られてくる一定期間でも決まっているのか、それとも俺たちの作業が終わるまで待ってくれているのかそれは女神様にしかわからないことだが、俺は女神様が告げる4人目の情報を苦い顔をしながら聞くのだった。
「2人とも、女神様からの連絡で後1時間程で新しい住民がこちらにやってくる」
「む、どのような奴なのだ?狂戦士か歴戦の猛者とかか?」
俺はどう告げるか迷っていた。
俺は短い期間だが、これでも2人のことを信じている。4人目の彼を元居た世界の人間たちと同じように扱ったりはしないと信じてはいるのだが……
「ねえ、どうしたのよ。そんなに言いづらいような人なの?」
「いや、4人目はまだ14歳の少年だ。それも過酷な環境を生き抜いた獣人の……戦闘奴隷だ」
日本には奴隷というのは存在しなかった。
一部界隈では、スキルが弱い者だったり魔力がない者だったりがほぼ奴隷同然のように扱われていると聞いたことはあるが、それでも表立ってはっきりとした奴隷などはいなかった。
だが、女神様ははっきりと言った。
『戦闘奴隷』だと。まだ14歳の少年がダンジョンや敵との最前線に放り出されて戦い、時には肉壁として使い捨てのようにされてきた。
そんなことがあっていいのだろうか。
俺はやるせない気持ちになっていた。
「ふむ、そうか。我の国にも昔は戦闘奴隷が居たと聞く。今は廃止され、奴隷は借金奴隷と犯罪奴隷だけになったが」
「私のところはそうね、正直国の上層部は未だに異種族を嫌っていて奴隷のように扱う人も多いわ。聖女として上層部に近い位置にいたのにも関わらずなにも改善出来なかったのがとても悔しいわね」
やっぱり2人の国には奴隷が存在するのか。
そんな2人は戦闘奴隷であった少年と仲良くしてくれるだろうか。
「勇斗、考えていることはわかる。我は今まで皇帝として犯罪を犯したものは奴隷落ちにしてきたし、その奴隷と親しくすることはない。だが、ここでは違う。我はもう皇帝ではないのだ。ましてや何も犯していない戦闘奴隷の少年など普通はあってはならない。彼をそうした大人たちを処したいぐらいである」
「私もよ。治癒の力でその少年の心までは治せないかもしれない。だけど私たちで甘やかすことぐらいは出来るわ」
「オズ……イリス……」
オズとイリスが住民、いや、仲間で良かった。
その少年がどのような環境で、どのような毎日を過ごしてきたかは俺たちにはわからない。だが、これからどう過ごすのかは自分で決められる。
俺が大人たちにされてきたような生活を少年が送らないためにも俺たちがめいいっぱい甘やかしてやろう。
そう決意した時、少年が降り立つことを意味するように地面が光り輝き出したのだった。




