4人目の住民
光が収まり、姿を現したのは俺たちよりもまだ小さい狼獣人の少年だ。
ボロボロの服で背にはハルバードを背負い、その目は警戒と怯えが混ざっている。
しかし驚きだ。戦闘奴隷とはいえ、武器を持たせてもらえていたらしい。奴隷制度がどうだったのかはわからないが、主人に危害を加えることは出来ないように契約でもさせられているのだろうか。
「む?あやつが狂戦士か?随分とこう……我の懐に収まりそうなサイズだが」
「オズ、一旦狂戦士からは離れて。ただの普通の少年だ」
「ほら!貴方たちを見て怯えているじゃない!ごめんね、私はイリス。ようこそ新しい世界へ」
理不尽である。俺たちは優しい顔して迎えようとただ立っていただけなのだが。
「……大丈夫です。何か命令をくだされば戦闘や人殺し、なんでもやります」
そう呟く少年は、それが当たり前かのように無表情だった。
ここではもう戦闘奴隷ではなく、ただ1人の人間だとそう教えたところでそれを頭で理解するにはまだ時間がかかるだろう。
ゆっくり、ゆっくりでいいんだ。少年の居場所は確かにここにあると俺たちは教えていきたい。
「ふむ、それでは命令を言うぞ。これだけは絶対に守れ。1つ、眠かったら寝ること。2つ、作業や仕事は余裕がある時にすること。3つ、誰かが無理をしていたらみんなで止めること。この3つだ」
「え?」
「ちょっと!命令なんて言葉使わないでよ!でも、よく言ったわオズ。少年、いい?これがこの世界のルールよ」
「……わかりました」
そして俺たちは少しでも親睦を深めようと、みんなで料理を作りながら少年と話していく。
「ところで、いつまでも少年って呼ぶのもあれだよな?名前はなんて言うんだ?」
「……ないです。番号なら9番でした」
本来親から与えられる1番最初の贈り物がない。
俺でさえ勇者だからと勇斗と名付けられたのに名前すら貰えなく番号で呼ばれるとは、本当にこの少年はどのような人生を歩んできたのだろうか。
「俺が君に名前をプレゼントしてもいいだろうか?」
「僕に、名前を?」
「ああ、今まで大変なことばかりだったと思う。だがこれからの君の人生は希望に満ち溢れている。だから俺の世界で希望という意味を込めてエルピスという名を贈りたい」
ありきたりではあるが、俺はこの名前が少年に似合うと思ったんだ。気に入ってくれるといいのだが。
「む、我も贈りたいぞ。暗闇から抜け出して輝ける星になるように、星という意味を込めてアスターという名はどうだ?」
「おい、オズ!対抗してくるな!俺が先だぞ!」
「我の方が先に考えておった!」
いい大人が2人してみっともないがお互いが譲ろうという気は全くない。これが少年の初めての贈り物になるかもしれないのだから。
「エルピスとアスター……合わせてエルピスターがいい、です」
少年が少し嬉しそうに、そして恥ずかしそうに呟く。
「仕方ないか」
「ふむ、それがいい」
「じゃあ私からは愛称として、エルという名前を贈るわ」
こうして少年にエルピスターという名前が決まり、すっかり料理も完成したところで俺たちは焚き火を囲んで食事をし始めた。
と言ってもいつも通りのステーキとスープに今日はイリスのお陰で採れたトマトも添えられている。一気に彩りが良くなった。
「……これ、僕が全部食べてもいいんですか?」
「うむ、もちろんだ。残さずたくさん食べるのだぞ、命令だ!」
そう命令されたエルは一瞬驚いたような顔をしたが、ステーキを1口食べた。
今日はオズがお気に入りのアウトドアスパイスを掛けたのだがどうだろうか?
「っ……とても美味しいです」
そう呟くエルの目には涙が溜められ、俺たちは初めて本当のエルの顔を見られた気がした。
「そうだろうそうだろう。これは勇斗が丁度いい焼き加減で焼いて、美味しい調味料を掛けているから美味いのだ。間違えてもイリスには頼むのではないぞ!」
「ちょっと、聞こえてるわよ!」
「む、聖女とやらは地獄耳なのか」
「……ふふっ」
俺たちは顔を見合せた。
今、一瞬だが聞き間違いでなければエルが笑ったと。もう一度笑った顔が見たいが、そう上手くはいかない。せっかくの笑った顔を見逃してしまった。
いつかはこの笑顔を写真に収められるといいのだが。
「エル、今日は俺の家で一緒に寝ような」
「ふむ、この世界で初めての夜だ。寂しかろう?我も一緒に寝よう」
「おい、オズは自分の家で寝ればいいだろう!」
「たまにはいいではないか」
「ちょっと!私だってエルと寝たいわよ!」
さすがに4人で寝るのは狭すぎる。いくら家とはいえ簡易的な作りなのだ、4人で寝たら芋虫ではなくダンゴムシにならなければいけない。さすがに来たばかりのエルに窮屈な思いをさせるのはよくないと思い、断ろうとしたその時。
「女性が一緒に寝るのはだめ、です」
「うむ、よく言ったぞエル!」
「そういうことだイリス、諦めろ」
「なっ、なんでよエル!」
「…………」
こうしてイリスの叫びも虚しく俺たちは男3人で寝袋で寝たのであった。




