少しずつ変わり始める
夜も更けてみんなが寝静まった頃、エルはこっそりと寝袋を抜け出し、森へ来ていた。
美味しいご飯を食べて、暖かい場所で暖かい人たちに囲まれて寝る。そんなことは初めてで中々寝付けず、それなら少しでも役に立とうと森へ来て焚き火用の木を切ろうとしたのだ。
だがそんなエルを仮にも元皇帝と元勇者は気付かないはずがなかった。
「エル。我の国でも夜通し働こうとする者は重宝されたが、ここでは休むことも仕事だ」
「第3条の適用だからな。寝れないなら無理に寝る必要はないが、作業はまた明日やればいい。一緒に帰るぞ」
「えっ、ちょっ……待っ」
エルは2人が着いてきていたことに気付けなかった自分に驚くが、何かを言おうとする前にオズに抱えられて家まで連れ戻されてしまった。
勇斗が森で採れたハーブを使ってハーブティーを入れる。
「エル、寝れないなら少し話すか?」
「……いえ、お2人は眠たいでしょうし大丈夫です」
「このぐらい、夜通しの執務に比べたらどうということもない」
「ああ、このぐらい5日もまともに寝れずにダンジョンの深層でモンスターと戦っていたあの頃に比べればどうということもない」
「……やっぱり今日は寝ましょう」
2人はエルに気を遣わせないように本当に大丈夫だという意味を込めて言ったのだがどうやら逆に気を遣われてしまい、この年頃の扱いは難しいのだなと勘違いする2人であった。
◆◆◆
翌日、俺が目を覚ますとエルはすでに目を覚まし寝袋を綺麗に畳んでいるところだった。
「すみません……起こしてしまいましたか」
エルは申し訳なさそうな顔をする。
「いや、ちょうど起きる時間でオズも起きるぞ。俺たちは外で身体を動かすがエルも動かすか?」
「的役が必要でしたら言ってください。自分がやります」
「む、エル。そうではない。元居た世界の生き方を変えることはすぐには難しいが、ここにはエルのことを奴隷だと思う奴も的だと思う奴もいない。みんなただ1人のエルとして関わりたいと思っているのだぞ!」
「そういうことだ。もう一度聞くぞ、一緒に身体を動かすか?」
「……一緒にやりたいです」
俺たちの話し声で起きたオズが的役になれるというエルに対して俺の言いたいことを言ってくれた。まさか俺も的役になると言われるとは思っていなくて、一瞬反応が遅れてしまったのだ。
全く……どうすればエルに俺たちの気持ちが分かってもらえるのか。
難しいが俺たちは分かってもらえるまで毎日伝え続けるしかない。
「ふっ……はぁっ……!」
「いいぞ!もっとだ、遠慮しないでもっと来い!」
準備運動がてらに身体を動かしていた時までは良かった。その後にオズの強い者と戦いたいという悪い癖が出て、今はオズとエルが模擬戦をしている。朝からよくやるもんだ。
ちなみに俺の時は家造りの途中に戦ってみたくてウズウズしてたオズに気付いて模擬戦をしたのだが剣だけの戦いでは俺が負けて、魔法ありの戦いだと俺の勝ちだった。
「っ、参りました」
「うむ、我も危なかったぞ。エルは凄いな!」
どうやら模擬戦はオズの勝利で終わったみたいだ。だが、エルの戦い方を見てると俺も危ないな。
魔法を使えば勝てるだろうけど、俺もまだ負けないように程々に頑張ろう。訓練のしすぎはよくないからな。
「貴方たちは朝から何をやっているのよ。それにしても汗が凄いけど浄化した方がいいかしら?」
「む、そうだな。我は勇斗に出してもらって水浴びをするから大丈夫だ」
「俺も水浴びでさっぱりしようかな」
「……僕も浴びたいです」
「よし、上から水をかけるぞ!」
俺はエルが自分から浴びたいと言ってくれた事が嬉しくてついつい力加減を間違えてしまった。
「あばっ……あばばば」
「ごふっ……ぶくぶく」
「……ぶっ」
「ちょっと!それはもはや水浴びじゃなくて溺れてるから!」
危ない危ない。せっかくやり直した2度目の人生が水浴びで終えるところだった。
これからは気を付けよう、俺は嬉しくなると力加減を間違えるということがわかったからな。
「ほら、早くしないと私が朝食を作るわよ?」
「む、それはまずい。勇斗!」
「ああ、俺が急いで作ろう。エル、イリスがこちらに来ないように見張っておいてくれ!」
「……わかりました!」
そう言うとエルはイリスの前で、ここは通さないとばかりに両手を広げた。その行動に俺は思わず笑いそうになる。
「ちょっと、エル!わからなくていいのよ!そんなことしなくたって、料理はしないわよ!」
俺は一生懸命バリケードをしているエルに混ざってオズもバリケードをし始めたのを見て、笑いながら朝食を作るのだった。




