聖女の祈り
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太陽が沈み始め、3人が囲む焚き火がパチパチと心地よい音を響かせているなか、俺とオズはイリスが作った夕食を食べていた。
「…………」
「…………」
「……何よ」
俺は不思議に思っていた。
食材を渡してからずっとではないがある程度作るところを見ていて、特に変わったところはなかったのに何故こんなにも不味いのかと。
その頃、オズも不思議に思っていた。
皇帝として毎日王宮で料理人の食事を食べていて確かに舌は肥えているが、騎士団長時代には野営の経験もある。
そんな自分がただ火で焼いた肉よりも何故こんなにも不味いのだろうと。
「よし、イリス。明日からは俺が変わろう」
「うむ、これも適材適所というやつだ」
「はっきり不味いと言えばいいじゃない!」
実際のところイリスは今まで1人で料理をしたことがなかったらしい。
教会の前で時々行われる炊き出しの日はいつも手伝おうとすると全力で止められ、きっと聖女だからみんなが気を使っているのだと思っていたのだがどうやらそうではなく、自分に料理の才能がなかったからではないかと思い始めたイリスがポツポツと話し始めた。
「そうだな……イリスは浄化が使えるから掃除係と、毎日俺たちに浄化を掛けてくれ」
俺はクリーンが使えるからイリスの浄化は必要ないのだが、敢えてイリスにも仕事を与える。
ここで何もしなくていいと言うのはイリスが出来ることがないと言っているみたいでそれは嫌だったからだ。
「あとは大事な作業もあるぞ。この世界唯一のトマトが無事に成長するように聖女のそなたの祈りが必要だ」
聖女にそのような効果はないのだが、オズも皇帝らしく気を使って言ったのだろう。
それがイリスにも分かってしまった。
「……そんなに気を使わなくてもいいのに。でもありがとう、私にもここにいる意味をくれて」
みんなそれぞれ違う世界でどのように生まれ、どのような生活をして、どのように儚くなったのか、それは誰も知らないし深く聞こうともしない。
きっとオズもイリスもそれぞれ思うことはあるだろう。
だが、この距離が俺たちには有難くて心地がよかった。
夕食も食べ終わりしんみりとした空気のなか、誰もがその場を離れることはなく焚き火の音に思いを馳せていた。
翌朝、いつも通り俺とオズは家裏で身体を動かしていた。
すると昨日言われた通り、トマトに聖女の祈りを行っていたイリスが戻ってきた。
「ねえ、ちょっと来て!これって普通のことなのかしら!?」
2人はこの世界で貴重なトマトに何かあったのかと心配になり畑に駆け寄ると、そこには昨日まで小さな芽が生えていただけだったトマトが今ではすっかり成長し、小さな実をつけていた。
「…………」
「う、うむ。さすが聖女である。我の思った通りだ」
「さすがだな。オズもわかってて昨日あんなことをイリスに言ったのか」
「……うむ、そういうことだ」
間違いなく嘘だ。最近気付いたのだがオズは誤魔化したり嘘をつくときは右耳を触る癖がある。
昨日イリスに頼んだのはたまたまだったが、どうやらこの世界では聖女の祈りで植物が成長するらしい。
これはシンプルに俺たちも助かるし嬉しい誤算だ。家ぐらいいくらでも造ってやろうではないか。
「私、役に立った?」
「ああ、さすがイリスだな」
「っ……うん!」
目を見開き嬉しそうにするイリスをみて、俺とオズも嬉しい気持ちになる。
そしてこのままイリスは畑担当となり、俺たちはイリスの家を造ることになった。
◆◆◆
「ふんっ!ふんっ!」
俺は結局オズと一緒に森に来ていた。
オズが木を切り俺が家造りを始めようかと思ったのだが、肉も追加で欲しくなりそれなら俺も一緒に着いて行こうと思ったわけである。
「それよりも我は昨日、でまかせを言ったのだが本当に聖女に植物促進の効果があるとは思いもよらなかったぞ」
「俺もだ。俺がいた国にも聖女が居たが、そのような効果は聞いたこともない。もちろん隠しているだけかもしれないが」
「この世界では今まで居た世界とはスキルなども異なる可能性があるのかもしれない。これも全ては神の慈悲、か」
まだまだ検証をしないといけないことがたくさんあるみたいだが、俺たちはとりあえず木を切り肉を狩り続けるのだった。




