ペンギンではない
「この辺はあまり強いモンスターは出ませんが一応気を付けてくださいね」
「ああ、俺がいた世界にもモンスターはいたし、それなりにやれるから大丈夫だ」
「頼りになります」
今俺たちは森の中を歩きながら山菜やキノコを採取しつつ、木を切っていた。
オズヴァルトさんの森での歩き方を見て、それなりどころではないことは分かっている。
「勇斗、嫌でなければお互い得意なことや苦手なことを話し合わないか?」
「能力の確認ということですか?」
「うむ。いざという時にお互いのことをわかっていた方がいいと思ったのだが」
俺は鑑定スキルを持っているから見ようと思えばオズヴァルトさんの能力を見ることは出来るが、それはきっと不誠実だろう。
ここは日本ではなく俺の事を知って都合良く使おうなんて思っている訳ではなさそうだし、それに悪い人を女神様が転移させる訳がないはずだ。
……うん、オズヴァルトさんになら聞かれて困ることはないし話しても大丈夫そうだな。
「そうですね、俺は元の世界で勇者として生まれました。剣も魔法もそれなりに出来て、インベントリが使えます」
「それは凄いな。前衛でも後衛でも活躍出来るというのはそうそういない。一緒に行動する身としては頼もしい限りだ!」
純粋にそう言ってくれてるのが伝わってくる。2人目の住民がオズヴァルトさんで良かった。
「我は皇帝になる前は騎士団長をしていたから剣は得意だが、魔法は身体強化ぐらいしか使えない。だからどちらかというと前衛だな」
「なるほど皇帝だったんですね……え、皇帝?ペンギンではなく、本物の皇帝?」
「そのペンギンというのがよく分からないが、国のトップだな。ただ第1王子だっただけだ、気にすることでもない」
どうやら俺の勘は鈍かったみたいだ。
貴族どころか全ての貴族の頂点だったらしい。
こんな若くして皇帝だったオズヴァルトさんが亡くなったのか……色々思うことはあるが、この世界ではしがらみとか気にせず好きなように生きてほしい。
「そうですね……オズヴァルトさん、いやオズ。俺のことも勇者とか関係なく仲良くしてくれると嬉しい。よろしく頼む」
「ああ!こちらこそよろしく頼む勇斗!」
俺たちはイノシシの気配を感じながら森の中でアツい握手を交わした。
「このイノシシは空気を読むことが出来るらしい」
「だが我々の貴重な食材であることに変わりはない。すまぬな」
そう言うとオズヴァルトさん……いや、オズは首を一撃で斬り落とした。
さすがだ。元とはいえ騎士団長の剣技は綺麗なものである。
そして俺は皇帝をオズと呼ぶのに慣れることが出来るのか。
「俺のインベントリは時間経過なしで容量無限なので俺が持ちましょう」
「うむ、そうしてくれると助かる」
どうやらモンスターと一緒で普通の動物も倒しても死体のままらしい。
解体は面倒だが久しぶりのホーンラビット以外の肉だ、ありがたく頂こう。
それから俺たちはただひたすら斧を振り続けて木を集め、拠点に帰ってきた。
太陽はすっかり沈みかけていて2人の腹の虫が鳴き始めている。
俺はオズが来る前にトマトを食べただけだし、オズはこの世界に来てから何も食べていない。通りで腹が減るわけだ。
「我がこのイノシシを解体しよう。その間に勇斗は竈門の準備を任せてもいいか?」
「もちろんです」
とは言ったものの竈門の準備などすぐ終わる。
面倒な解体をオズが引き受けてくれたので、俺は簡単なスープを作ることにした。
俺のインベントリには色々な調味料が入っているが今日は簡単にお湯に溶かすだけのスープだ。そのスープに先程採ってきた食べられる葉っぱを入れて野菜をかさ増ししよう。
「む、いい匂いだな」
解体を終えたオズが肩にイノシシを担いでやってきたのだが……うん、とてもワイルドである。
返り血を浴びても美丈夫であることに変わりはない。
「オズ、その肉を焼く前にさすがに身体を綺麗にした方がいいな」
俺は生活魔法のクリーンをオズと自分に唱えて汚れを綺麗さっぱり落とした。
「おお!水浴びをどうしようかと思っていたのだが、これはありがたい」
だがやっぱり日本人としてはいつか風呂は欲しいよな。
ドラム缶風呂みたいな感じでもいいから手に入らないだろうか?
いや、ないものねだりをしても仕方ないな。
今はこのイノシシを美味しく頂こう。
「勇斗!このアウトドアスパイスというのは素晴らしい!無限の可能性を感じるぞ!」
「もぐもぐ……わかる……もぐもぐ……俺もこの……もぐもぐ」
「すまない、ゆっくり食べてくれ」
そうだろうそうだろう。
ついつい俺はこのアウトドアスパイスの良さを熱弁しようとして行儀が悪くなってしまったが、この何に掛けても美味いアウトドアスパイスのお陰で俺は2週間も毎日ホーンラビットを食えていたのだからな。
まだ予備はあるが無くなった時俺は発狂する自信がある。
そうして夕飯を食べ終わって腹いっぱいになった俺たちは眠くなり、この世界のルール第1条に従って寝ることにした。
もちろん俺の家で2人揃って寝袋である。




