2人目の住民
「身体が痛いな……」
家が完成したことで家具という物にまで気が回らなかった俺だが、朝起きるとやはり床に寝袋を敷いて寝たからか身体がバキバキだった。
これならテントで寝るのと変わらないのでは?と思ったのだが、テントよりは寒くはないと信じたい。
それから俺の技術では家の中にキッチンは造れなかった。だから外に竈門を作ったんだが一々外に出ないで料理が作れるようになりたいな。
今なら日本の家の技術がどれだけ凄いかがわかる。
「はぁ……」
俺は肌寒い中、外で朝食用にホーンラビットの肉を焼いていた。ただアウトドアスパイスを振りかけただけだが、これがまた美味い。
だがさすがに2週間もホーンラビットの肉ばかり食べていると飽きてくる。
家も完成したことだしそろそろ畑も作りたいが……と、考えていると女神様から初めての念話が届いた。
『勇斗さん、新しい生活は楽しめていますか?』
『お久しぶりですね女神様。毎日がとても楽しく、無理しない程度に色々なことに挑戦させて頂いていますよ』
『それはよかったです。それでこの後ですが、後1時間程でそちらに異世界の者が向かう予定ですのでよろしくお願いしますね』
女神様からそう伝えられると念話は切れた。
ついに新しい住民が来るのか……協力したり仲良くしたり出来るといいな。
俺は新しく来る住民に心踊らせながら畑を作っていった。
区画を決めたら簡単に土魔法で畑を耕し、植える物は森から手に入れた芋類やニンニク、そして奇跡的に見つけた1本のトマトだ。
俺はトマトを見つけた瞬間、女神様に感謝した。
何故そこにトマトがあったのかなど関係ない。鳥や他の生き物が種を運んでくれたのかもしれないし、女神様の慈悲で1本だけ植えてくれていたのかもしれないがそれでもいい。
やっと野菜が食べられるということに感動して涙まで出そうになったぐらいだ。
野菜が当たり前に食べられる時は肉さえあればいいと思っていたのに、ホーンラビットしか食べていないと野菜が恋しくて恋しくて貴重なそのトマトを間違えてその場で全部食べてしまうところだった。
俺は丁寧に1個のトマトから種だけ取り出し土に植えていく。
頼むから成長してくれよ……失敗してこの世界からトマトがなくなるなんてことはあってはならない。
そしてこの種を取り出した後のトマトは食べてもいいよな?今は俺しかいないし、何より残すなんてことは絶対にだめだ。もったいない!
俺は勢いよくトマトにかぶりついた。
「っ、ぐずっ……うまい……ずびっ……うますぎる……」
普通のトマトだ。今まで何度も食べてきた普通の味のトマトなのに涙が止まらない。
もう食べられないと思っていたから余計に美味く感じるのだろうか?
トマト1つに大号泣している俺はまだ気付いていなかった。
すでに新しい住民がこの世界にやって来ていて、俺がトマトを食べて号泣しているところを若干引き気味に見ていたことを。
俺は今更気配を感じ振り向くと、そこには2メートルはありそうな美丈夫が立っていた。
「…………」
「…………」
とても気まずい。予定では先輩風を吹かしてかっこよく迎える予定だったんだ。
それがまさか初対面がトマトを食べて大号泣しているところなんて誰が想像出来ただろうか。
「……初めまして、気付くのが遅れてすみません。一応この世界の住民1人目の勇斗って言います。よろしくお願いします」
第一印象は最悪かもしれないが俺は何事も無かったかのように挨拶をする。
「……丁寧な挨拶をすまない。我の名はオズヴァルト、気軽にオズかヴァルトと呼んでくれ」
ははーん、俺はこういうのが鈍くないから分かってしまった。
オズヴァルトさんは立ち振る舞いや話し方、オーラからして絶対異世界の貴族というやつである。
気軽になんて言ってるけど、馴れ馴れしく呼んで不敬だとか言われたらどうしよう。
「その、最初はオズヴァルトさんって呼ばさせてもらいますね。慣れたら追々……」
「む、仕方ないか。それよりこれからのことについて色々と話し合いたい」
俺はとりあえずこの世界に来てから何をしたいたかを話していく。
森を見つけて家を造り、畑を耕し野菜を植えたこと。そしてトマトを食べている時にオズヴァルトさんが来たことを。
「ふむ、我の家を造るのも手伝ってもらっていいだろうか?」
「もちろんです。ですがこの世界には大事な3つのルールがあります」
「ルール?」
俺は初日に決めた何よりも大事な3ヶ条を伝えた。
「はっはっは、それは確かに大事だ。うむ、我も異論は無い!」
こうして俺は新たな住民オズヴァルトさんと一緒に、素材集めのために森へ向かって歩き出したのだった。




