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昨日の僕はもういない  作者: 不可思議ラボ


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4/7

第4話 312人の僕から、本物を一人選べと言われた

何百台ものバスから

僕が降りてきた。

同じ顔。

同じ声。

同じ名前。

なのに

誰一人として

同じ人生ではない。

スーツ姿の僕。

作業着姿の僕。

白衣を着た僕。

学生服の僕。

杖をついた老人の僕。

まだ十代に見える僕までいる。

312人。

その全員が

一斉に周囲を見回した。

誰も状況を

理解していないらしい。

僕の隣にいた男が

腕を掴んだ。

「動くな」

「でも」

「始まる」

「何が?」

答えは

すぐに分かった。

駐車場の照明が消えた。

真っ暗になる。

数秒後。

中央だけに

白い光が落ちた。

そこに

巨大なモニターが現れた。

『候補個体 312』

数字が点滅する。

そして

新しい文字。

『統合処理を開始します』

ざわめきが広がった。

「統合って何だよ」

誰かが叫ぶ。

直後

すべてのスマホが鳴った。

僕のスマホにも

同じ画面が表示される。

『あなた自身を

一人選択してください』

その下には

312人分の写真。

一人ずつ

番号が振られている。

僕の番号は

187。

「選ぶって……」

嫌な予感がした。

さらに説明が出る。

『選択された個体の

記憶・経歴・可能性を

現在個体へ統合します』

意味が分からない。

隣の男が

小さく呟いた。

「やっぱりそうだった」

「何を知ってるんですか」

男は答えない。

そのとき

遠くで誰かが叫んだ。

「俺はこれだ!」

一人の僕が

スマホを押した。

画面には

番号42。

医師らしい僕だった。

『42を選択しました』

電子音。

次の瞬間

42番の身体が

白く光った。

「待て」

医師の僕が叫ぶ。

しかし遅かった。

身体が

光の粒になっていく。

悲鳴。

数秒後

42番は消えた。

そして

選択した僕が

その場に倒れた。

「大丈夫か!」

周囲が駆け寄る。

男は頭を抱えていた。

しばらくして

ゆっくり起き上がる。

「分かる」

「何が?」

「手術のやり方が

全部分かる」

誰も声を出せなかった。

本当に

統合された。

医師だった自分の

記憶も能力も人生も。

その男の中へ。

すると

空気が変わった。

312人の僕が

スマホを見る。

会社員。

医師。

経営者。

研究者。

投資家。

音楽家。

弁護士。

それぞれ

違う人生を歩んだ僕。

選べば

その人生を手に入れられる。

誰かが

二人目を選んだ。

一人消える。

三人目。

また消える。

『候補個体 309』

数字が減った。

「やめろ!」

僕は叫んだ。

でも止まらない。

自分が消される前に

他の自分を選ぶ。

誰もが

そう考え始めた。

『候補個体 301』

『296』

『288』

数字が

急速に減っていく。

僕はスマホを閉じた。

選ばない。

絶対に。

隣の男を見る。

「ここから

逃げられないんですか」

男は答えた。

「出口は一つある」

「どこ?」

男が指さした。

駐車場の奥。

一台だけ

白いバスがある。

行き先表示。

『ORIGIN』

「オリジン?」

「最初の世界だ」

心臓が跳ねた。

「元の世界に

戻れるんですか」

「たぶんな」

僕は走ろうとした。

男に止められる。

「今は無理だ」

「なんで」

「条件がある」

男が白いバスを見る。

車体の横に

数字が表示されていた。

『1』

「一人しか乗れない」

僕は黙った。

「だから

最後の一人になるまで

統合させるんだ」

最終個体のみ

現実へ帰還できます。

スマホに出た文章。

そういう意味だったのか。

でも

一つおかしい。

「あなたは?」

僕は男を見る。

「あなたも

バスの乗客だったんですよね」

「そうだ」

「でも僕じゃない」

男は黙った。

312人の候補は

全員僕だった。

なら

この男は何者だ?

「名前は?」

初めて聞いた。

男は少し迷ってから

答えた。

「高橋」

その名前に

胸がざわついた。

知っている気がする。

「下の名前は?」

「直樹」

頭の奥に

痛みが走った。

映像が見えた。

営業部。

隣のデスク。

笑っている男。

飲み会。

二人で歩く帰り道。

そして

怒鳴り声。

僕が高橋の胸ぐらを

掴んでいる。

映像が消えた。

「今のは……」

高橋が僕を見る。

「思い出したか」

「僕たちは

同期だった?」

「ああ」

第3話で聞いた話。

でも

それだけじゃない。

「何があったんですか」

高橋は答えなかった。

「今は逃げる方が先だ」

候補個体。

『241』

もう71人も

消えている。

そのとき

誰かが叫んだ。

「187番!」

僕の番号。

周囲を見る。

数人の僕が

こちらを見ていた。

「そいつだ!」

一人が叫ぶ。

「187番が

起点個体になってる!」

起点個体?

スマホを見る。

僕の写真だけ

赤く囲まれていた。

『起点個体 187』

一斉に視線が集まる。

高橋の顔色が変わった。

「走れ!」

僕たちは走った。

背後から

何十人もの僕が追ってくる。

「なんで僕なんだ!」

「お前を統合すれば

終わると思ってる!」

「本当に?」

高橋は答えない。

白いバスへ向かう。

でも扉は閉まっている。

『候補個体が

複数存在します』

逃げ道がない。

僕たちは

バスの裏へ回った。

その瞬間

一人の僕が

飛びかかってきた。

倒される。

スマホを奪われた。

「悪く思うな」

僕が僕に言う。

「俺には家族がいる」

男のスマホ画面。

187。

僕の番号。

「やめろ!」

指が

選択ボタンへ近づく。

その瞬間

高橋が男へ体当たりした。

スマホが飛ぶ。

僕は拾った。

画面には

選択画面が開いている。

指が触れた。

電子音。

『選択を受理しました』

「え?」

僕は画面を見る。

選ばれていたのは

187ではない。

番号。

『001』

周囲が静まり返った。

誰かが呟く。

「001って誰だ?」

スマホに

写真が表示された。

僕だった。

でも

見覚えがない。

営業成績トップだった頃の

若い僕。

写真の下。

『起源個体』

高橋が叫んだ。

「キャンセルしろ!」

できない。

『統合を開始します』

駐車場の奥で

一人の僕が光った。

001。

その瞬間

大量の記憶が

頭へ流れ込んできた。

会社。

バス。

高橋。

あの日の光。

そして

僕自身の声。

『もっと上の世界へ

行けるはずだ』

頭が割れそうだった。

僕は膝をつく。

思い出していく。

四年前。

僕は成績最下位ではなかった。

営業成績トップだった。

高橋と競いながら

順調に出世していた。

なのに僕は

満足していなかった。

もっと成功したい。

もっと金が欲しい。

もっと上へ行きたい。

そして

ある人物から

奇妙な話を聞いた。

『別の可能性を歩んだ

自分と交換できる』

僕は笑っていた。

でも

試した。

あの日。

バスの中で。

僕が何かを

起動している。

白い光。

乗客たちの悲鳴。

そこで

記憶が途切れた。

僕は高橋を見る。

「僕が……」

声が出ない。

「僕が始めたのか?」

高橋は

何も答えなかった。

スマホが鳴る。

『001統合完了』

続いて

新しい表示。

『起源個体の記憶を

確認しました』

『統合処理を

第二段階へ移行します』

候補個体の数字が

突然変わった。

241。

120。

60。

30。

15。

「何が起きてる」

高橋が叫ぶ。

数字が止まらない。

7。

4。

2。

そして。

『候補個体 1』

駐車場から

すべての僕が消えた。

僕だけが残った。

白いバスの扉が

ゆっくり開く。

行き先。

『ORIGIN』

帰れる。

そう思った。

しかし

スマホにもう一行

表示された。

『最終個体を確認』

『現在の統合数 312』

僕は息を止めた。

312人が

消えたんじゃない。

全員

僕の中にいる。

その瞬間。

頭の中から

何百もの声が聞こえた。

笑い声。

泣き声。

叫び声。

そして

同時に一つの言葉を

繰り返していた。

『帰るな』

僕は

白いバスを見た。

運転席には

誰かが座っている。

顔が見えた。

高橋だった。

僕の隣にいたはずの

高橋を見る。

誰もいない。

運転席の高橋が

こちらを向く。

そして

静かに言った。

「やっと312回目だ」

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