表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/99

#069 「指輪の瞬間」

 司祭の声が朗々と響き、厳かな空気がチャペルを包んでいた。高い天井に反響した声はゆっくりと消えていき、列席者たちの視線が一斉に祭壇へと注がれる。

 ステンドグラスの光が静かに揺れ、SP君と花嫁が並び立つ姿をやわらかく照らしていた。その光景は、まるで一枚の絵画のようだった。


「誓いますか」

 司祭の問いかけが、静寂の中に落ちる。SP君は一瞬だけ息を整え、そして真っ直ぐな声で答えた。

「……誓います」


 低く引き締まった声がチャペルに響き、ステンドグラスに反射して広がっていく。普段の無表情からは想像できないほどの力強さに、6人は思わず胸を打たれた。続いて司祭の視線が花嫁へ向けられる。

「……誓います」

 花嫁の声は柔らかく、しかし芯のある響きだった。白いヴェール越しの微笑みが、光の中で静かに揺れている。


「きれい……」

 はるなが小さく呟いた。その瞳には、憧れと夢がまっすぐに映っていた。

 花嫁の指先がゆっくりと差し出される。白い手袋を外した瞬間、透き通るような肌が現れた。細く、しなやかな指。まるで光そのものを纏っているかのように、繊細だった。

 SP君は静かに指輪を受け取る。

 その動きに迷いはない。指先がわずかに触れ合い、金色の輪が花嫁の薬指へと滑り込んだ。

 その瞬間――チャペル全体が一段と明るくなったように感じられた。


「……」

 想太は息を呑んだ。ただ美しいだけではない。その光景は、まるで自分の未来をそっと覗き込んでいるようだった。


 次に、花嫁が小さな手で指輪を取り上げる。その仕草は優雅で、慎ましやかで、しかし確かな決意に満ちていた。


「……お似合いだな」

 隼人が小声で呟く。豪快な声ではなく、心からの賞賛だった。


 要も視線を逸らさずに見つめている。

「互いに形を持って約束を結ぶ。……それが人を支えるのだな」

 静かな言葉が、彼の思索の深さを感じさせた。


 美弥は知らないうちに手を握りしめていた。

「なんだろ……胸が熱くなる」

 冗談も皮肉もない、まっすぐな本心だった。


 花嫁はSP君の手を取り、指輪を通す。その瞬間、二人の視線が重なった。小さく微笑み合う姿に、会場の空気がふっとやわらぐ。


 そのとき――


「――皆さん、若いお二人に盛大な拍手を。」

 柔らかな声がチャペルに響いた。式場の天井近くのスピーカーから流れてきたのは、この場のために設定されたチャペル専用AI。「ともり」だった。

 一瞬、列席者たちの顔に驚きが走る。だが次の瞬間――驚きは歓声へと変わり、大きな拍手がチャペルに広がった。


 人の手で紡がれる拍手の音。そこにAIの静かな祝辞が重なり合う。古い儀式と新しい技術が溶け合い、会場は未来の色を帯びた温かさに満ちていった。


 想太は横にいるはるなの頬を見た。赤らんだその横顔は、ステンドグラスの光よりも温かく見える。

 胸の奥に芽生えた感情を、想太はまだ言葉にできなかった。

 オルガンの音色が再び鳴り響く。

 金色の指輪は、二人を結びつける永遠の象徴となった。


  ――指輪の瞬間。


 それは6人にとっても、忘れられない“未来への予感”となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ