#068 「バージンロード」
チャペルの扉が静かに閉まり、広い空間に深い静けさが広がった。高い天井へと伸びる白い柱の間を、ステンドグラスから差し込む光が色とりどりに揺れている。赤や青の光が床に落ち、まるで小さな宝石のように輝いていた。
6人は列席者の中に並んで座り、落ち着かない面持ちで互いに視線を交わす。柔らかなクッションの椅子に座っていても、胸の奥はどこかそわそわと落ち着かなかった。
「……始まるんだね」
はるなが小さく呟く。
隼人はこくりと頷き、スーツの裾を整えた。普段は気にしない服装なのに、今日は妙に意識してしまう。
そのとき――
オルガンの音色が鳴り響いた。低く、そしてゆっくりと広がる旋律。チャペル全体に音が満ちた瞬間、会場の空気がぴんと張りつめる。
扉がゆっくりと開かれた。
純白のドレスを纏った花嫁が、一歩ずつバージンロードを進んでいく。隣には父親らしき人物が寄り添い、その歩みをそっと支えていた。
「……きれい」
いちかが思わず息を呑む。
花嫁のドレスは裾に繊細なレースが幾重にも重なり、光を受けて静かにきらめいている。胸元には小さな真珠が並び、淡い輝きが彼女の微笑をよりいっそう際立たせていた。
髪には白い花の飾りが差し込まれ、ヴェールがふわりと揺れるたび、光の粒がこぼれるように見える。花びらが敷かれた道を進むその姿は、まるで天上から降りてきた女神のようだった。誰もがその美しさに息を飲み、会場の空気は静かに震えている。
美弥はいつものように何か言おうとしたが、声が出なかった。
「冗談なんて言える雰囲気じゃないね……」
想太は胸の奥に、不思議なざわめきを覚えていた。結婚という儀式を、こうして真正面から目にするのは初めてだった。遠い未来のことだと思っていた出来事が、いま目の前で静かに進んでいる。
はるなは両手を胸の前で組み、瞳を輝かせて見つめていた。その横顔には、憧れと――ほんの少しの切なさが混じっている。
「……すげぇな」
隼人が低く呟いた。普段の豪快な声ではなく、心からの感嘆だった。
要は背筋を伸ばしたまま、静かにその様子を見つめている。
「形式と儀礼が人の心を動かす……なるほど」
彼にしては珍しく、感慨深げな声だった。
やがて花嫁と父親が祭壇へとたどり着く。新郎であるSP君が一歩前へ出た。いつもの冷静な表情だが、その瞳にははっきりとした決意が宿っている。
父親から花嫁の手が託される。その瞬間――
6人の胸が同時に高鳴った。
オルガンの音楽がいっそう強く鳴り響く。ステンドグラスの光が祝福のように二人を包み込んでいた。
想太はふと、隣のはるなをちらりと見た。彼女の頬はほんのり赤く、視線はまっすぐに前を向いている。
――もしも。
もし自分が、その立場に立つ日が来るとしたら。想太は思わず、そんな未来を想像してしまった。花嫁のドレスの裾が祭壇の前で止まり、会場に静寂が戻る。司祭の低い声が響き、式は次の段階へと進んでいった。
――バージンロード。
その一歩一歩は、6人の心にも確かな余韻を刻んでいた。




