阿野廉子、最期の戦い
俺は、義助や師直たちを連れて金峰山城へと入城した。
蔵王堂(本営)には、少数の兵に守られた廉子と後村上帝が立て籠もっていた。
俺は、毎度おなじみの降伏勧告を廉子に対しても行うことにした。
「南朝は良く戦いました。ここまですれば十分でしょう。国母様と帝は、佐渡でも隠岐でも好きな場所で余生を過ごされるがよかろう」
「ふん、この世の全てを手にするまで、わらわが満足することはない。義助、わらわに従え。義貞を殺して、おぬしが将軍となるのじゃ」
俺の提案を却下した廉子は、義助に南朝へ寝返るよう説得を始めた。
えー、なんで義助が俺を裏切ると思っているんだ?国母様ご乱心か?
そんなことを俺は思っていたのだが、義助の話を聞いて肝を冷やした。
「毎晩、夢の中で某に謀反を促していたのは国母様でしたか。確かに、何も知らぬ若い時分であれば、某も将軍位を望んだかも知れません。しかし、兄者が散々苦労しているのを見ている今となっては、将軍位など某にとって重荷でしかありません」
まじかよ。一つ間違えれば義助に寝首を掻かれていたのか。
でも、義助は裏切らなかった。これで北朝も安泰だと思ったら、今度は師直にも南朝へ寝返るよう説得し始めた。
「師直よ。そなたを義貞の傍に置いたのは、このような事態に備えてのこと。のう、そなたはわらわのことを愛しているのであろう?ならば、義貞を殺してわらわの下に参るがよい」
周囲にいた護衛は俺と師直の間に入り、師直に向かって刀を構えた。
師直、どう出る。だいたい、今までにも俺を殺す機会はたくさん有ったはずだ。この期に及んで、師直が俺を殺すことなんてあるはずないよな。
師直は廉子に向かって話し始めた。
「廉子様、もう止めにしましょう」
「師直、何故じゃ。何故わらわの言うことを聞かぬ。わらわを愛しているのではないのか」
「愛しています。だからこそ、愛する人が間違ったことをしているのであれば、命を懸けてその誤りを正します。廉子様、義貞殿に降伏しなされ。拙者は、生涯をかけて貴女をお守りいたそう」
「いやじゃ。わらわはまだこの国の全てを手にしていない。わらわは、もう自分の力で欲望を押し止めることが出来ぬのじゃ。そうじゃ、この国が手に入らぬのであれば、この国をこの世から消し去ってしまえば良いではないか。玉藻の前様、この国を破壊する力をお与えください」
「廉子様、お止め下さい」
『その願い、叶えて進ぜよう』
廉子から衝撃波が放たれ、俺たちは金峯山城の外に放り出された。
ケモ耳ケモ尻尾の生えた廉子は宙へと舞い上がり、この世のありとあらゆる負のエネルギーをその身に集め始めた。
うっ、こいつはヤバい。このままでは廉子の自爆と共に、日本も吹き飛んでしまう。
何とかして廉子を止めないと。
いったいどうすれば・・・。やはり、前世の最期でやった『闇落ちして負のエネルギーを一身に集めて敵に突撃』しかないのか。
もう考えている余裕はない。俺は、鬼切を構えて廉子に突撃しようとするが、それに待ったをかける者がいた。
「師直、邪魔をするな」
「義貞殿、廉子様との決着は拙者にお任せ下され。あと、鬼切をお借りします」
師直は俺から鬼切を奪うと、見よう見まねで御霊の力を操り始めた。
「師直、御霊の力を扱えるのか」
「拙者は、日本一の女好きと自負しております。そして、御霊すなわち神の力の強さは、思いの強さで決まるはず。であれば、拙者が愛する廉子様のために力を振るえば、その力はとてつもないものとなるでしょう。この力でもって、欲望に振り回される廉子様を救って見せよう。そもそも神の力とは大雑把でいい加減なもの。願えば何でも叶うはず。神よ、拙者に翼を授けよ」
何と、師直の背中に翼が出現した。
師直、すげえな。廉子を愛するというその一念だけで翼を得たか。
師直は、高く高く羽ばたくと、はるか上空から廉子に向かって急降下した。
廉子は、師直に向かってエネルギー波を放った
「幼き日のわらわは、帝の寵愛を受け后になることを夢見るような、どこにでもいる普通の少女であった。しかし、玉藻の前様との出会いが全てを変えた。帝の寵愛を受け、皇子を産み、その皇子が天皇に即位して、わらわは国母となった。この国はわらわの物。誰にも渡さぬ。もし、わらわからこの国を奪うというのであれば、この国の全てを破壊し尽くしてくれよう」
師直は、それを避けることなく上空から廉子に突撃する。
「廉子様、愛しております。だからこそ、この命を懸けて貴女の過ちを正しましょう」
師直は、廉子を捕らえるとその背に鬼切の刃を当てたまま廉子を抱きかかえた。
「師直、何をする。わらわと心中するつもりか」
「廉子様、拙者の最期をあなたに捧げましょう。貴女と共に生きることはできなくとも、共に滅びることはできる」
廉子と師直は地面に激突した。
「「ぐふっ」」
鬼切の刃は、廉子と師直の身体を貫いていた。
「これで・・・、欲にまみれた人生から・・・、解放される・・・」
「廉子様・・・、貴女に永遠の忠誠を・・・」
こうして、三位内侍こと阿野廉子と高師直は、波乱に満ちた生涯を閉じたのであった。




