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西園寺公宗

建武二年六月


そういえば、そろそろ中先代の乱だよな。

確か、西園寺公宗の後醍醐帝暗殺計画が失敗して公宗と文衡入道は処刑されるが、北条時行の挙兵は実行されるんだよな。

信濃で兵を挙げた時行には、甲斐・信濃に加えて関東の軍勢も集まり、その数はたちまちのうちに五万余騎に膨れ上がって、瞬く間に鎌倉を落とすことになるのだが、さて俺はどう行動すべきか。

公宗の後醍醐帝暗殺計画を止めさせれば良いのか?

ただ、この場合は西園寺家と北条家が喧嘩になるな。下手すれば、北条家の手で公宗の首が飛ぶかもね。

西園寺家は、鎌倉時代には散々北条家の世話になっているからな。後醍醐帝の世になったとたんに北条家を見捨てるのであれば、西園寺家の信用は地に落ちるであろう。でも、貴族にとっては家を残すことが一番大事だから、西園寺が北条を裏切るのも有りなのかな・・・。

一方、北条の考え方は簡単だ。武家だから、勝てば鎌倉幕府を再興できるし、負ければ滅びるだけだ。既に滅亡の縁にいるわけだから、西園寺がどうであろうと北条は兵を挙げる以外の道は無いであろう。そんな北条にとって、俺と尊氏は不俱戴天の仇となるわけだな。

うーん、どうやっても俺・尊氏と北条・西園寺連合は衝突する運命で、いずれ戦争になるのは間違いなさそうだが、さてどうしたものか。

そんなことを考えていると、当の西園寺公宗から手紙が届いた。

何やら、邸内に湯殿を作ったから、温泉の宴を催したいとのこと。

一緒に尊氏も招待するらしい。

これって、どう考えても罠だよな。

俺と尊氏が温泉に入っているところを襲撃して血祭りにあげるのと同時に北条時行が兵を挙げ、一気に天下を握るといったところかな。

まあ、公宗が何を考えているのか良く分からんけど、相手の出方を見て俺の方も対応を考えるとしよう。

ということで、俺と尊氏は六月二十二日夜に北山の西園寺邸を訪ねたのだった。もちろん、忍びたちと念入りに打ち合わせをした上でね。


ふーむ、さすが鎌倉時代は関東申次として栄華を誇った西園寺家だけのことはある。西園寺邸は実に立派な建物だね。

当主の公宗は閑職に追いやられているとはいえ、未だ財力は健在といったところか。

ところで・・・、俺は尊氏に話しかけた。

「尊氏殿、公宗殿にはどう対応するおつもりか?」

「君と余は温泉の宴に呼ばれたのであろう。温泉に入って飲み食いするだけではないのか?」

だめだこいつ、何も考えていない。

ということで、俺は尊氏にかくかくしかじかと西園寺家の立場を説明するのだった。

「すると、公宗は宴にかこつけて余たちを討ち取るかもしれぬというのか?」

「俺が公宗の立場なら、そうするでしょうね。そして、京が混乱している隙に日本各地で北条の残党を蜂起させ、武力で帝を持明院統に変えてしまえば北条・西園寺政権の成立ですぞ。なにしろ、建武政権は失政続きで、武士も公家も不満を抱いているからな。建武政権が崩壊しないのは我らの武力があってこそなのだから、我らを亡き者にすれば再び戦乱の世に戻るであろう」

「では、公宗を殺せば良いのか」

「とりあえず、奴の本音を聞き出した上で、捕らえて主上(後醍醐)に引き渡すのはいかがか」

「では、それでいくか」

(あとは・・・、祟り神殿はいらっしゃいますか)

『我ならここに居るぞ』

(祟り神殿、西園寺邸を見てどう思いますか)

『西園寺邸からは、どす黒い負の怨念が溢れ出しておるのう。やはり、鎌倉幕府が滅んで西園寺家が政権中枢から外されたことを、公宗は余程恨んでおるようじゃ。そして、負の感情にとらわれた人間は、破壊と混乱を求めて自ら破滅の道を歩むことになるであろう』

(仲間に誘われるかもしれないと思っておりましたが、殺しにかかってくる可能性の方が高いですかね)

『そのようじゃな。我は、敵意を持つ者の位置を把握できる故、その情報をそなたの脳内に投影してやるとしよう』

(やったー、これで俺自身も敵の数と位置を把握できるようになったぜ)

こんな感じで打ち合わせをして、俺と尊氏は西園寺邸に入ったのであった。


「ようこそおいで下さいました。早速、我が邸自慢の温泉に入るのはいかがかな」

刀を西園寺家の家人に預けた俺と尊氏に対して、西園寺公宗はこう言って俺たちを湯殿へ案内しようとするが、俺はそれに待ったをかけた。

「わざわざ俺と尊氏殿を呼び出したのは、何か用があったからであろう。温泉に入るのは、要件を済ませてからでも遅くはあるまい」

俺の発言に同調する尊氏。

ちなみに、俺らの周囲にいる西園寺家の家人は十数人といったところか。

「義貞殿は一体何をおっしゃっておるのやら。私はただ、今を時めく尊氏殿や義貞殿との誼を通じたいだけのことで御座いますよ」

(ふーむ、公宗はなかなか本音を言わんな。祟り神殿、公宗の本音を引き出す方法はありませんか?)

『それなら、我が怨霊の力で奴の欲望を高めてやろう』

おおー、(祟り神が変身している常人には見えぬ)ネズミからどす黒いものが湧き出てきて、公宗を包み込んだぞ。

「公宗殿は、現状に不満をお持ちのようだ。そこで、俺や尊氏殿を取り込んで、ともに建武政権打倒の兵を挙げようというのか。それとも、天下取りの前に俺たちを血祭りにあげようかと、そんなところかな」

「義貞殿、冗談でも言って良いことと悪いことがありますぞ。建武政権打倒だなんて・・・。そう、鎌倉幕府の時代は良かった。西園寺家は代々太政大臣を輩出し、位階は一位という最高位を極めてきた。皇后を立てる時も多くは西園寺家から出て、国司に任じられるのも半ばは我が一族からであった。だが、現状はどうだ。帝に媚を売る者しか出世できぬではないか」

(おー、いい感じに本音が出て来たな。周りの家人たちも慌てているぞ)

「公宗殿、話を続けてくれ」

「今、大勢の民が帝の圧政に苦しんでいる。贅沢三昧で国家財政を破綻させ、ろくでもない連中を近付けた朝令暮改の政治にだ(逆説の日本史7P60から引用)。このような腐りきった世の中は、私が変えて見せよう。そして、元の西園寺家の栄える鎌倉幕府の世に戻そうではないか。尊氏、義貞、私に従って君側の奸を討つのだ」

「余は、帝に向かって弓を引くことなどできぬ」

尊氏って意外と後醍醐帝には従順なんだよね。一方俺は、

「政治が上手く行っていないことは認めるが・・・、だが断る。公宗殿が気に入らないのは、西園寺家が政治の中枢から外されていることでしょう?」

こう言って公宗の提案を却下した。

「この状況で味方せぬとは・・・。者ども、尊氏と義貞を討ち取れ」

周囲の家人が刀を構える。

「尊氏殿、囲まれてしまいましたな」

「義貞殿は元々こういう展開を想定していたのだから、解決策も分かっておるのであろう。余は、義貞殿の考えに乗るだけだ」

俺に丸投げかよ。尊氏は何も考えていないのか、劉邦みたいな大人物なのかさっぱり分からんな。

「とりあえず背中を合わせて、俺の逆方向を向いていてください。鬼切よ、来い」

俺の手に鬼切が現れた。

周囲の家人どもは、いきなり出現した俺の愛刀に慌てているぞ。

(祟り神殿、離れていて下さい。退魔の力を使います)

『心得た』

「祓いたまえ、清めたまえ、顕現せよ退魔の力!」

俺を中心にまばゆい光が放たれた。公宗や西園寺家の家人どもは、『目がー』とか『ぐわー何も見えん』などと言ってもがき苦しんでいるぞ。

俺が放った退魔の光を見て新田家の忍びも西園寺邸に侵入し、公宗や家人どもを縄で縛っていった。

「ほー、誠に手際が良いですな」

尊氏が俺を褒めているけど、一つ間違えれば縛られていたのは俺たちだったわけだから・・・。

本当に、こいつ何も考えていないな。

「恐らく、北条泰家もいるはずだ。探して捕らえろ」

周囲の忍びに指示を出すと、文衡入道は取り押さえることが出来たが、泰家にはまんまと逃げられたようだ。残念。

俺は、西園寺邸で謀反の証拠探しを続行した。

やはりあったよ、湯殿の踏み板の下に刀の切っ先を埋め込んで並べた罠がね。

こいつで、俺と尊氏を血祭りにあげようとしていたのか?

とりあえず、今夜できるのはこれくらいかな。

公宗と文衡入道と西園寺家の家人は、朝廷に突き出すとしよう。

さて、これからは中先代(北条時行)の乱だ。忙しくなるぜ。

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