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世尊寺尹子の望み

前回までのあらすじ

大塔宮護良親王が排除され、万里小路藤房が出奔したことで、いよいよ建武政権の崩壊が間近になって来たぞ。


建武二年春の頃、西園寺公宗邸にある武士が尋ねてきた。

その武士は、北条高時の弟で北条泰家と名乗った。そう、義貞が分倍河原の戦いで破った奴ね。

西園寺家が鎌倉時代に絶大な権力を誇ったのは、ひとえに北条家が盛り立てたためである。しかし、鎌倉幕府の滅亡と共に西園寺家も後ろ盾を失い、今は閑職に追いやられていたのだった。

公宗はその泰家を丁重に迎え入れ、北条家と西園寺家の復権を目指して動き始めるのだった。

なんだか情勢がきな臭くなってきたが、この頃新田義貞は何をやっていたのかと言うと、金稼ぎに精を出しつつ、一族の結束強化に努めていたのであった。

やはり、何をするにも金と人材は必須だからね。

駿河の金山を採掘したり、南蛮船を多数建造した上で、海外貿易で金を稼いだりもしたなあ。

そうそう、甥の脇屋義治には、蝦夷地に貿易拠点を作ってアイヌと友好関係を結ぶよう指示しておいたよ。一応アイヌ語も勉強させているし、アイヌの欲する漆塗りの器や日本刀を安く譲ってやれば上手く行くんじゃないかな。そして、可能であれば蝦夷地から奥州軍(北畠軍)を牽制できるような軍団を編成して欲しいのだが・・・。まあ、北方の海産物を安定して入手出来るだけでも十分だけどね。

もちろん、図書寮の仕事も一生懸命やっているぞ。

元から最新の書籍を購入したり、紙や筆記用具を作ったり、瓦版で図書寮の仕事をPRしたりしていたのだが、若手の貴族・武家を集めた勉強会が目を付けられたようで、職務に関係ないことはするなと怒られてしまったよ。

まあ、あまり目を付けられても仕事がやりにくくなるので、主上(後醍醐)や三位内侍(藤原廉子)に貢物(賄賂)を献上しておいたよ。

俺としては、武家同士の争いを煽り、尹子殿に害を為したキツネの怨霊が取り付いているのは主上か三位内侍のどちらかだと思っているのだが、当人は御簾の中に居て、言伝も人を介してだったから、どちらに怨霊が取り付いているか分からなかったよ。残念。

理由は良く分からんが、今のところ俺の動きは見逃されているようなので、この隙に実力をつけるとしよう。


こんな感じで、俺の方は順風満帆と言えなくもないのだが、一つ気がかりなことがある。

そう、世尊寺尹子殿の事である。彼女は、十代後半という女の盛りに無理やり出家させられてしまった。しかも、俺の手でだ。

にもかかわらず、俺には恨みがましいことも言わずに新田家の様々な仕事を手伝い、今では新田家に必要不可欠な存在となってしまった。

彼女をどう扱えば良いのか。

前世の俺は、女性に全く縁がなかったからな。今世では妻が三人いるが、基本政略結婚だしな。どうやって女性をねぎらえば良いか、いまいち分からないんだよね。

ということで、尹子殿を誘ってピクニックに行くことにした。

そこでヒソヒソ話をしている義助、別に尹子殿を四人目の妻になどとは考えておらぬぞ。

俺は、尹子殿と数人の供を連れ、高野川(京都市左京区付近)に向かった。川の流れを眺めながら弁当を食べて、日ごろの労をねぎらいたい、と思ったわけだ。

「えー尹子殿。調子はいかがですが。仕事に疲れたりはしていませんか」

「いえ、特に疲れていませんが。いきなりわたくしを外に連れ出したのは、そのようなことを聞きたかったからなのですか?」

「いや、現状は俺があなたをこき使っている形になっているので、何か不平不満があるんじゃないかなーと思い、こうやって外に連れ出したのさ」

「わたくしに不平不満はありませんよ」

「でも、俺のせいであなたは若い身空を仏の弟子として過ごす羽目になったのですぞ。いくらあなたの命を助けるためだったとはいえ、本当にこの選択が正しかったのか、俺は日夜悩んでおるのです。不平不満があれば何でも言って下さい。俺を罵って貰っても結構です」

「そんな、義貞様を罵るだなんて。義貞様には感謝こそすれ、非難するところなど何もありません」

「でも、あなたは俺のせいで結婚できない身になってしまった。あなたから女の幸せを奪ったのは俺だ」

「あの、義貞様。女の幸せって何ですか?」

「そりゃあ、結婚して幸せな家庭を築くことじゃないかな」

「あのですね、わたくしはそんなことが女の幸せだとは少しも思っておりません。義貞様は、かつて安藤聖秀様に『親に決められた人生を送るのではなく、自身が望む生き方を選択できる国』を創りたいと言ったそうですね。新田家の皆さんがそう噂していました。わたくしも、日本が『結婚して幸せな家庭を築く』といったお決まりの生き方しか選べない国ではなく、自身が望む生き方を選べるような国であって欲しいと思います。わたくしが新田家の仕事を手伝えば、そのような世の中に近づくのではないか。そんなことを思いながら、わたくしは日々を過ごしているのです。あなたがわたくしに罪悪感を覚えるなら、早く日本を生まれや性別にかかわらず自由に職業選択のできる国にして下さい。そうすれば、あなたがわたくしに持つ罪悪感も自然と消えることでしょう」

「へー、尹子殿はそんなことを考えていたのか」

「わたくしが新田家の仕事を手伝うことで、わたくし自身にも利があるのです。だから、義貞様はあまり気に病まないで下さい」

「承知した。だが、仕事はほどほどにな。あまり働きすぎて病気になられても困るからな」

「フフフ、分かっております。それにしても、義貞様は随分と心配性なのですね。新田家の当主なのだから、でんと構えて命令していればいいのに・・・」

「三つ子の魂百までと言うであろう。性格を自由に変えることなど出来ぬよ」

「そんなものですかね」

「そうそう」

なんてことを、食事をしながら話し合ったのであった。

まあ、尹子殿に不平不満が無くて良かったよ。


◇脇屋義治視点◇

蝦夷地に行って拠点を築いてこいと、叔父上に命じられてしまった。

供として付けられたのは、上州屋清兵衛ら商人たちね。

なんでも、日本刀や漆器をアイヌとやらに売って、信頼関係を築いてこいとのことだ。

北の地に勢力を築くことが出来れば、そりゃあいいと思うが、あんな寒い土地で暮らせるものかな。

一応、叔父上からは『三角パネルを組み合わせたドーム型の家』とか『だるま型ストーブ』といったものを教わっているが、大丈夫であろうか。

まあ、叔父上の命令ならやるしかないか。

日本刀や漆器でアイヌの連中を手懐けて、北方から日本を統一してくれよう。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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