ライオット兄様
全然休みがないんだけど。お盆休みもほとんど無いし、泣ける。
32
宿に戻った俺達は、今後の予定を話し合うことにした。
「ひとまず今後の予定だが、金を稼ぐためにダンジョンを攻略するって言うのは実はあまり効率が良くないことがわかった。ゴーストみたいな物理無効の敵が出たら打つ手がないからな。いっそのこと一番難易度の高いところを攻めた方がマシかもしれない」
「そうですね。下手にちまちま稼ぐよりその方がいいかもしれません」とエリシエル。
「よし。次はラングレスト洞窟に決定だ。とは言え、全く情報も無しで行くのは前回の失敗で懲りたので一度冒険者組合で情報を仕入れよう」
「ケーチ」その時ユリーシアが俺を伺うようにして声をかけてきた。
「なんだユリーシア?」
「私、一度ライオット兄様に会いに行こうと思う」
「ああ、そう言えばこの国にはお前の兄さんが留学しているんだっけ」
「うん、ライオット兄様なら本国に黙って私を匿ってくれると思う。もし匿うことが出来なくても、何かしら力にはなってくれるはず」
「う〜ん、どうしようかエリシエル?」
「私の聞いた話では、ユリーシアの兄ライオットは相当なシスコンだと言うことなので少なくともユリーシアに危害を与える事はないと思います」
「ちょっと待ちなさいよ。うちの兄様はそんなシスコンなんてものじゃないわ。そりゃあ、私にはいつも優しくしてくれるし、大抵のことはきいてくれるし何かあれば庇ってくれるし、でも兄様ってのはそんなものじゃないの?」
「う〜ん、まあその辺は程度問題だからなあ。取り敢えず一度お前の兄さんに会いに行こうユリーシア」
そうなると、まずはユリーシアの兄ライオットが居る寄宿舎を探さないといけない。宿の女将に学園の場所を聞いて学園に向かうことにした。
ーーーーーー
クロムホルツ学園。この国で一番大きな学舎で、通常学園と言うとクロムホルツ学園のことを指す。学園まで来た俺達は適当な所にグライドを降ろし、学園内を散策することにした。
「しかし、敷地が広いなあ。これだけ広いとどこに何があるのかわからん」
幼年部、少年部、青年部と言った具合に年齢別にそれぞれ別々の建物があり、図書館や体育館、大きなグラウンドなど様々な施設も用意されている。基本的に共学だが、女性のみの学園も有る。
青年部、日本で言えば大学に当たるところは学部ごとに建物があり、学園内はかなり複雑になっている。
「景一は方向音痴のきらいがありますからねえ。迷わないで下さいよ」
「うっさい」
周りを歩いてる人に聞いて寄宿舎の場所を探す。王族が居る寄宿舎なんてほとんど無いので探すのはそれほど難しくはなかった。
「ライオット兄様が居る寄宿舎はここね」
「時間的に、まだ寄宿舎には戻っていないんじゃないか?」
「ちょっと早く来すぎましたねえ」
「ユリーシア、お前の兄さんってここで何を学んでいるんだ?」
「確か天文学とか言ってました」
「大きな天文台がありましたね。流石に昼間は星を見ることがないと思われますが」
そうするとライオットはこの時間は何処に居るんだ。
寄宿舎の前で張り込んでいるしかないのか?面倒くさいなあ。
「お前の兄さんってお前しか顔知らないし、俺達はここにいても仕方ないから他行っていい?」
とユリーシアに尋ねたら、案の定ブチ切れられた。
「ふざけるんじゃないのよ。何で私一人で待っていないといけないのよ」
「いや、何でって言われてもお前が兄さんに会いたいって言うから付き合ってるだけで、俺達にはある意味関係ないって言うか……」
ユリーシアの右拳が固められ、俺に向かってパンチが繰り出されそうになっていたので慌てて取り繕う。
「わかった、わかったからその拳を引っこめろ」
仕方ないので、とにかくここで待つことにした。
結局ユリーシアの兄、ライオットが帰ってきたのはそれから二時間後だった。
「兄様〜」ライオットを見つけたユリーシアは大きく手を振りながら駆け寄っていった。
「ユリーシア、どうしてここに?」
「兄様に会いに来たの」
「お前が王宮を出奔したって聞いていたので心配していた」
ユリーシアの後ろから歩いてきた俺を見つけたライオットは、俺の方を見ると顔をしかめ不機嫌そうに言った。
「彼は誰だ?」
「え〜っと、彼はケーチ。私の協力者よ」
「神楽坂景一です。呼びにくいのならケーチと呼んで頂いて結構です」
「ケーチ、お前がユリーシアをたぶらかして王宮を出奔させたのか」
ライオットは俺にきつい目線を向け、そう言った。まあ、ある意味間違っていないので返事しかねていると。
「違うの兄様。ケーチはゼクトール王子との縁談を嫌がっていた私を見かねて逃げるのを手伝ってくれただけ」
「ふん、どんな下心があるかも知れん。ユリーシア、何かされてないだろうな」
「何かって、別に危害を加えられたりはしていないわ」
「ユリーシアに手を出していたら、ただでは済まさんぞ」
あ〜、ライオットは極度のシスコンだったな。風呂場から出てきたユリーシアの裸を見た件とか抱き抱えてグライドに乗り込んだ事とか話したら殺されるかも知れないな。黙っていよう。
「一応ユリーシアをここまで連れてきたことについては礼を言おう。だが今後ユリーシアはこちらで保護する」
「待ってよ兄様。私にはまだやりたいことが…」
「さあ、来るんだユリーシア」
う〜ん、色々厄介なことになってきたな。どうしたものか。
ーーーーーー
ひとまず、ユリーシアはライオットに預けて、俺達は宿に戻った。
「あれ、ユリーシアちゃんはどうしたの」
ユリーシアがいないことに気づいた女将が俺に尋ねてきた。
「ユリーシアの兄さんの所に行っています。しばらくは帰ってこないかと」
「あら、そうなの。兄さんにユリーシアちゃんを取られちゃったのね。寂しい?」
と、何を勘違いしているのか女将がニヤニヤ笑いながら俺に言ってくる。別に俺とユリーシアはそう言う関係ではないし、どうでもいいのだが。
部屋に戻り、もう一度今後のことを考え直すことにした。
「ユリーシアが居ないと、動力に問題が出ますね。ダンジョン攻略も見直さないといけませんね」
とエリシエルが話しかけてきた。
「景一?」
「ん、すまない。ちょっとぼーっとしていた」
「やっぱりユリーシアのことが気になりますか?」
「ん〜、多分大丈夫だろう。実の兄に預けてきたのだし、もう問題ないだろう」
「そう言うことではなく、ユリーシアが居なくてもいいんですか?」
「宿の女将といい、お前といい、どうして俺とユリーシアのことをそう言う関係みたいに言う。俺とユリーシアは付き合ってる訳でもないし、最初に戻っただけだよ。動力の事は考え直さないといけないがね」
「景一…。私は人間ではない、機械と異星生命体のハイブリッドです。ですが貴方がユリーシアをどう思っているかくらいはわかります。ユリーシアを連れ戻しましょう」
「うるさいな。だって仕方ないだろう。彼女はあれでも一国の王女なんだぞ。いつまでも俺達とは居られない。これでいいんだよ」
「本当にいいんですね。だったらここを引き払って村に戻りましょう」
「え、しかしダンジョン攻略が」
「冒険者になるのも、ダンジョン攻略もユリーシアがやりたいって言ったことです。ユリーシアが居ない今、ダンジョン攻略はやめてしまってもいいのではないでしょうか」
「いや、でも…」
「煮え切らない人ですね。そもそも私達は異世界から来た者ですよ。この世界の身分なんてどうでもいいじゃないですか」
「そんな無責任な」
「元の世界ですら、あれだけ無責任な事をやっていた貴方が今更そんな事を言いますか。ちゃんちゃら可笑しいですよ」
「……」
「景一!」
「あ〜、わかったよ。やりゃあいいんだろう」
「そうこなくっちゃ。よっ、この無責任大将」
「お前なあ」
「ははは」
「まあ、いいか。ただしユリーシアに連絡して彼女がいいって言ったらだぞ」
「了解。それじゃユリーシア奪回作戦開始です」




