010
西門の社会の窓全開事件(と名付けようと決めた)に出来るだけ長く浸っていたかった私だけど、結局すぐに事務員を呼んで戻ってきた助さん格さん達に加え、ぞろぞろと生徒達が集まってきたのでこれ以上醜態を晒すわけにはいかない。必死で唇を噛んだから内出血が起きそう。
取り外されたカーテンをああだこうだ言って花山院が回収し、その場はお開き。クラスメイト達はまだざわついていたけれど、昼休みってこともあって散り散りになったし、まあそれぞれ食堂や何処かで一体何が起こったのかと談笑にふけるのでしょう。
私? 私はもちろん、
「白鳥さん、ちょっといい?」
「…………………」
まあ、こうなりますよね……………………。
◇ ◇ ◇
昼休み、私は例に漏れず温室へと連行された。花山院に西門、それに今日は透子ちゃんも一緒だ。
二人はたぶんあんまりこういうことに透子ちゃんを巻き込みたくないんじゃないかと思ったけど(実際、花山院や西門は「お前は先に飯食っとけ」と促したけど)、透子ちゃんが頑としてついてくると言い張ったのだ。少なくとも、透子ちゃんはヒロインとして優しい心を持っているし、今のところ私にも優しいので私は助かった。さすがに好きな女の子(いやまあ西門はともかく花山院は女の子だと知らないわけですが……)の前で二人とも白鳥エリカをいじめたりしないでしょ。しないよね?
二人の圧に怯えている(ように見た目が見えるかは知りませんが……)私を他所に、西門が切り出した。
「それで、お前はどこを切られてたんだ」
「ブッッッッ」
「西門、それはあまりにもデリカシーが…………」
「無………」
「んなこと言ったって関連性があるかもしれねえなら聞くしかねえだろ」
もはや悪びれる様子すらない西門に私は眩暈がするのを堪えながら、ふらふらとテーブルによりかかった。助さん格さんの白鳥エリカヨイショには辟易しているものの、普段ならこういう時にスッと椅子を差し出してくれるのが実はとってもありがたいことに気がついた……。
私はゴホゴホ咳払いをしながらふらついた身体を立て直す。
「……どこを切られたかは伏せさせていただきますけれど、やり口は似ているように感じます」
それでもまだどの部分が切られていたのかを知りたがっているというかいっそもう持ってこいと言わんばかりの西門(科捜研やCSIじゃないんだから切り口見たところで「これは同じ鋏で切られている…!」なんてわかるわけないのに見せるメリットあるか?ない)をひたすらスルーしていると、透子ちゃんから助け舟が入る。
「水着なんてどこが切られていたにしても、狙いは明らかですもんね。西門のズボンもそうだけど、着る人を辱める意図を感じる気がします」
「ええ。わたくしもそうだと思いますわ。おまけに切り口のえげつなさは甲乙つけがたいですもの」
「……ということは、白鳥さんもやっぱり関連性があると?」
「西門さまの制服のこか………、……いえ社会の窓部分が開け放されたこととですか?」
「開け放された……」
「常時開放などのほうがよろしい?」
「どっちでも変わんねえよ」
西門は常から刻み込まれている眉間の皺をより深くしているが、私はきちんと見ていた。透子ちゃんと花山院が「ブフッ」と噴き出してそっぽを向いたことを。うんうん、笑いごとじゃないんだけど笑っちゃうよね。私も自分の水着も客観的に見たら爆笑ものだと思うもん。
ま、先ほどまでの空気が読めない発言への復讐はこのぐらいにしておいてやるか。
「そうですわね。教室の件は兎も角、少なくとも西門さまとわたくしの件は関連性があるように感じます。同一犯か、それとも模倣犯か……」
「模倣犯の可能性は低いんじゃねえか」
「? なぜですか?」
「俺達もどの部分が切られていたか分かんねえのに、“えげつない切り口”が似てたんだろ?」
あ。たしかにそうだ。西門の言葉にはっとした。
透子ちゃんが続ける。
「水着のタイプにもよりますけど、だいたい女の子の水着が切られていた、と言われて想像するのは肩紐だとかですもんね」
「え!? え、ええ……」
あれ? この口ぶり、もしかして透子ちゃん知ってないか?
私が疑わしい視線を向けると、透子ちゃんはさっと目を細めて「でも、白鳥さんはそういうわけじゃなかったんでしょう?」と続ける。えっ……。これ誤魔化された? おとなしく頷いておきますが……。
「だとするなら、同一犯、か……」
「同一犯なら、白鳥さんとカズ、二人に恨みを持っている人物が怪しいのかな」
「でもそれもあまりピンとは来ないのですよね。西門さまもですし、わたくしも、恨みを買っている……かどうかはまあ割愛いたしますが、少なくともこの学園でわたくしたちに表立って喧嘩を売るというのは、あまり得策とは言えないと思いますわ」
これは前回の花瓶の件でも、花山院や西門に告げた内容と同じだ。
結局花山院学園において、生徒たちの関係は家同士の関係の縮図みたいなものだ。もちろん見た目や学力、一芸に秀でた生徒はふつうの高校と同じように周囲の羨望を集めるだろうけど、それでもこの学園での不動の一位は理事長の息子でもあり、花山院グループの御曹司でもある花山院平馬。自称するのもなんだけど(まあ中身は別人だし…)、女子なら白鳥家の令嬢である白鳥エリカに間違いない。
西門だって花山院に並んで人気があるわけで、おまけに西門に何かしようもんなら花山院家も敵にするようなもんだ。
原作に比べれば慎ましく生きてきたとはいえ、万人から愛されるとは思わない。私にしても西門にしても、知らず恨みを買っていることだってあるだろう。だけど、花山院家も西門家も、そして何より白鳥家も敵に回すような行いをする生徒がいるとは、正直あまり思えないのだ。普通の高校生ならいざ知らず、興信所なり何なり使って真犯人を暴き出して粛清するような女だぞ白鳥エリカは。中身が私でよかったよね。
「恨みを買っていないにしても、なぜわたくし達がターゲットになったのか」
「それと、教室のカーテンもだね」
「うーん、確かに。これこそ模倣犯の可能性もあるけど、白鳥さんと西門への犯行の模倣なんて最悪自分に罪が擦り付けられてもおかしくないし、結局僕たちのクラスってことは変わらず二人がターゲットって事でしょうか」
「その可能性はあるだろうが、……“意図”は違うんじゃないか」
「え?」
西門の言葉に視線を向けると、西門は真っ直ぐに私を見ていた。
な、なに? 前世では武士推しだし、三次元(?)化されててもとにかく顔がいいからちょっとドギマギするんですけど……。私はとりあえず真面目に見える体裁だけは保つために瞳に力を込めて、西門を見返した。
「俺とお前への件は、どっちかっていうと辱めだろ」
「? ええ」
「あ、そうか」と花山院が手を打ち、透子ちゃんも合点がいったとばかりに頷いた。さすが偏差値の高いやつらは違うぜ。
「最初は白鳥さん、次に西門、個人を辱める攻撃だったものが、不特定多数を怖がらせるものに変わっている?」
西門は頷いたけど、「それだけじゃない」と続けた。
さすがに私も、ここまで来たらみんなが何を言おうとしているのかピンときた。
「エスカレートしてる」
まるで一度殺人を犯した殺人犯が、シリアルキラーになるように。
その刃でどんどんと血を濡らしていくように。




