表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢・白鳥エリカの受難~真犯人は別にいる!~  作者: ハヤカワ
〈第二話 悪役令嬢と花山院の切り裂きジャック〉
19/33

002

 振り返った先にいたのは、西門だったのだ。


 私達の視線に気付いた西門とバッチリ目が合ってしまい、今から知らぬ振りは出来そうもなかった。いや、二人きりだったらやってたかもしれないけど、私は私で家族連れだしね。西門もいつもの露骨な無視を今回ばかりは止めたようで、私達のテーブルへと向かってきた。そしてそのまま丁寧に頭を下げる。武道を嗜んでいるだけあって、所作が一つ一つ綺麗だなぁ。


「こんにちは」

「やあ。君は西門さんのところの……和道君だったかな? 花山院学園がっこうではエリカがお世話になっているようで」

「いえ。こちらこそ。白鳥さんには()()()助けられています」

「ふふ。嫌ですわ西門さまったら。お世辞が上手いこと」


 かなり言葉に含みを持たせていた事に私は気付いたので、にっこりと嫌味を言ってやった。まあ西門は基本的にむっすりした表情以外への変化は乏しいので、私の言葉にも顔色を変えない。棗も可愛くないけどまだ表情は豊かな方だよね。西門は可愛くないな~。

 どうやら家で出すお菓子を部活帰りがてら取りに来たらしい。詰めている間の待ち時間に、上でお茶でもと通されたみたいだな。本当はこういうのお手伝いさんとかがやるんだけど、西門は引き取られた引け目があるからか率先してやりたがるんだよな。まあそれがきっかけで女の子の姿の透子ちゃんと出くわして正体を知る事になるんだけど。

 二、三世間話を交わしたところで、お菓子が詰め終わったらしく、西門はお茶をいただく事もなく階下へ降りて行った。まあこれ以上は長居したくなかっただろうしな……私も家族と一緒にオフモードの時に大して仲良くもないクラスメイトと会うなんて気まずい以外の何物でもないし。

 おまけに、私は型通りの挨拶以外、何も話さなかった母と棗に気が付いていた。


「あの人でしょ。西門家が引き取ったっていうの」

「引き取ったというよりは、まあ、元々西門家の血は入っているからねえ」

「でも、よりによって駆け落ちなんて不祥事を起こした方々の血でございましょう? 蛙の子は蛙と言いますわよ」


 母と棗の会話を聞きながら、私はむかむかと胃をせり上がる嫌な感じを、必死に玉露で下に下にと追いやっていた。

 原作では白鳥エリカの家族なんて早々語られる事はなかったけれど、白鳥エリカに転生して思う。白鳥エリカがああなってしまったのは、この母の選民思想によるんだろう。棗はバッチリその影響を受けてるしね。普通に接してる分には悪い子じゃないんだけど、学校でいじめに加担してないといいな…。私は根が庶民だし、“私”としての記憶を失っていたと言っても、繰り返されるこういう言葉は毒みたいに感じて、いつも人のいないところで気持ちを吐き出していた。まるで夏越の祓みたいに、穢れを祓うように。父はそこまで選民思想もないし実力を買う人だから、西門の事も評価しているとは思うけど、母に強くは言えないんだろうなあ…。

 私も強くは言えないけど、さすがに湯呑の中の玉露が尽きて、蓋にも限界が来たみたいだ。「由緒ある学園がいくら西門家の子とはいえ彼を受け入れたのか……」と、先程西門と話す時には鳴りを潜めていた饒舌さを遮るように、トン、と音を立てて湯呑を置いた。


「西門さまは学園中の女生徒の心を掴んでおりますわよ。武道の才も本物とあれば、学園側が受け入れるどころか喉から手が出る程欲していても可笑しくはないかと」

「まあ。でもエリカさん、あなたの心は例外でしょう?」

「あら、わたくしが例外だなんていつ言いました? 西門さまはとっても素敵なお方だと思いますわ」


 動きが停止した母に対して、母直伝の微笑みを向けて、私は玉露のお代わりを貰おうと店員さんを探すために振り返った。



 椅子に忘れていったであろう竹刀に手を伸ばしたまま動きを止めた、西門がいた。



 ギャーーーーーーーーーーー!!!!!!!



 ◇ ◇ ◇



 半年分の穢れを祓った日に、半年分以上の穢れを溜め込む事になってしまった。土曜日の夕食は母の機嫌も悪くお通夜みたいだったけど、月曜日を迎えた今、私が一番誰よりもお通夜だよ……仮病を試みようかと思ったけれど、受験を志す私は内申書のために無遅刻無欠席を目指さないといけない。まあ白鳥家の力があればおもねった先生方は良い成績をつけてくれそうだけど……。どっちみち今日休んでも学校にはいつか行かなきゃいけなくなるんだし、覚悟が決まるのにそう長い時間はかからなかった。

 それに、夏越の祓から帰ってきて直ぐに、私は“しなければならない事”の二つ目を行ったのだ。憂さ晴らしとして。それが本日、いつもの革鞄に並べて持った、ケイトスペードのビニールバッグの中に眠っている。

 教室に入るまではどこから敵襲という名の西門との遭遇が訪れるか分からなかったので、必要以上にビクついてしまったけれど、いざ扉を潜ったら西門はいなかった。よくよく考えたら剣道部の朝練があるから、普通の生徒達より教室に来るのはゆったりしてるんだっけ。私は安堵して、覗き込んでいた教室内にようやく足を踏み入れた。席について教科書などを整えていると、先に来ていたらしい助さん格さんが私の席の周りにやって来た。「ごきげんよう」とお決まりの挨拶を交わすと、白鳥エリカの持ち物に目ざとく視線を落とす。


「あら、エリカ様。それケイトスペードの新作ではなくって?」

「鮮やかなイエローが夏らしくてとっても素敵ですわ~!」

「ふふ、ありがとう。今日から七月ですし、()()も始まりますから」

「そうですわね! 私も新調してまいりましたわ! 加奈子さんは?」

「もちろんバッチリですわ! 今日の午後が楽しみですわね」


 良家の子女らしくふふふとお上品に笑ってみせるけれど、助さん格さん共にウキウキなのが駄々漏れだ。もちろん私も人の事を言えないけれど。今日の午後、五時間目から始まるんだよね~、あの授業が。

 そのまま週末は何をしたかと話していると、教室に入ってきた西門の姿を見て、二人は一瞬顔を見合わせた。私は英語の教科書を引っ張り出し、きちんと上下が正しい位置に収まっている事を確認してから、授業の予習をしている振りに勤しんだ。出来るだけ教科書で顔が隠れるようにする。

 思惑通り西門の顔は視界に入らずに済んだけれど、代わりに入ってきたのはこの二人だ。助さん格さんがニヤニヤしながら、私の顔を覗き込んでくる。なんだ?


「ねえエリカ様、わたくし家の者から聞いたのですけれど」

「どうなさったの菜々緒さん」

「土曜日、実松屋で西門さまとお忍びデートをされていたとか……」

「ブッ!!!!」

「あら、私は熱烈な愛の告白をしていたと聞きましたわ」

「……………」


 気が遠くなるのを感じたものの、ここはきちんと二人に弁明しなくては!

 そう思って口を開いた瞬間、無情にもチャイムの音が鳴った――――。



 夏越の祓、今日もまだやってますか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ