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悪役令嬢・白鳥エリカの受難~真犯人は別にいる!~  作者: ハヤカワ
〈第一話 悪役令嬢と割れた花瓶〉
15/33

014

 人の噂も七十五日、という言葉があるけれど、実際それらしい代替のものがあれば七十五日もかからずに噂は収束を迎える。

 翌朝、花山院が言った外部犯説はまたたくまに「花野井透犯人説」を潰しにかかり、透子ちゃんをチラチラを疑いの目で見ていた生徒達は逆に居心地が悪そうに身を縮こまらせていたり、透子ちゃんに謝罪に向かったりしていた。まあ、花山院や西門から恨まれても困るだろうしね。

 私も、透子ちゃんには朝ほかの誰かが来る前に、こっそりと謝罪をしに行った。花野井透犯人説ではなく、昨日聞かれてしまった暴言(何度だって言うけど本心じゃないよ嘘だよ)についてである。手土産というかせめてものお詫びの気持ちで、デメルのスミレの砂糖漬けも押し付けた。薔薇の上の雨粒も子猫に生えてるヒゲももちろん好きだけど、これこそが“私のお気に入り”なんだよね。甘い物が好きなのは原作で確認してるし、透子ちゃんも気に入ってくれたらいいな~。


「ああ、あんなの気にしなくていいですよ。というかその通りだなと僕も思いましたし。僕が犯人だったら割るより売った方が断然得ですからね」


 あっけらかんと笑ってるけど、もう本当に忘れてほしい……マジで……。

 透子ちゃんは花山院からの電話であらかたの内容を把握しているらしく、教室にはまだ人気がなかったので、その話もチラッとした。昨日私が感じた違和感についても、ついでに相談してみた。だって昨日帰ってからもずっとモヤモヤしてたんだもん。


「水耕栽培を知らない可能性もなくもないですが……」

「でも園芸部の顧問になったのなら、多少は調べるものでしょう? 花の育て方とか」

「そうですね……ただ、切り花にしようとしていたのは本当なんじゃないかな、と僕は思うんですけど」

「どうしてそう思われるの?」

「僕、花瓶に水を入れる時にちょっと傾けたんです。入れにくくて。そしたら、金属音って言うのかな……何かが花瓶の中で滑る音がして」

「金属音?」

「で、白鳥さんはご存知ないかと思うんですが……庶民の知恵で十円玉を花瓶の水の中に入れておくと長持ちするって方法があるんです。てっきり僕はそれが入ってるんだと思ったんですよね。だから球根がついてたって聞いて驚いたんですけど、先生が水切りするつもりだったんなら納得かと」

「なるほど……」


 これはかなり説得力のある話だった。他の先生や生徒ならまだしも、花瓶に十円玉を入れるのはそういう暮らしの知恵を持っている人物だけだ。この学園でそれを知っていそうな人と言えば、確かに透子ちゃんや私を除けば先生ぐらいだろう。こりゃあ水耕栽培を知らなかった説の方が有力なのかな? でもそうだとしても、なんで放課後にやらなかったんだろう、という謎は残るんだけど……。


 昼休みには、隣のクラスの風見くんにもお礼を言いに行った。もちろんお菓子も一緒に。ちょっと注目を集めたけど、察してくれたらしい風見くんが「ああ、委員会の件だよね」とにこやかにファインプレーを繰り出してくれたので、廊下の目立たないところで犯人が外部犯である事を伝えた。もっとも、昼休みにもなればもう噂はだいたいのクラスに行き渡っているようで、「聞いたよ」と風見くんは頷いていた。


「でも外部犯かあ……俺の推理全然当たってなかったなあ。実は俺、花山院達に続いて白鳥さんから聞かれた後、自分なりに推理してたんだよね」

「まあ。シャーロック・エームズにはなれました?」

「全然。俺、てっきり入生田先生が犯人だと思ったんだ」

「えっ!?!」


 思わず声が上ずってしまった。なんで風見くんが知ってるの!? まさかあのバカ二人話してないよね!? いくら協力してくれたからといって、透子ちゃんならまだしも風見くんに話すのは口が軽い認定しちゃうよ~~~口が軽い男は個人的に印象サイアクだよ~~~。

 要らぬ心配で冷や汗をかく私に気付かないのか、風見くんは続けた。


「いや、言っただろ? 花瓶が割れる音がしたのが、先生が出て行った後だったからよく覚えてるって。あまりにもタイミングが良すぎたし、戻ってきた()()()()()が誰も見てないって言うから、逆に先生が犯人なら辻褄が合いそうだよなと思ってたんだ」

「そういえば風見くん達のクラスの一時間目は、生物でしたわね」

「うん。まあでも先生が犯人なわけないよな、よく考えたら。だって先生が犯人なら、放課後にアリバイ工作でもした方が楽じゃん。それに実際五分もしないで戻ってきたし、その日に限って白衣は着てなかった。行きは手ぶら、帰りはプリント。なんで俺は先生を疑ってたのか、今となると全然分かんないよ」

「そうですわね……」


 正直昨日の先生との会話を聞かれてたのか?ってレベルで風見くんはシャーロック・エームズだったけど、外部犯説に何の疑いも持っていなさそうだったので、オホホ笑いで全て誤魔化した。というか良く見てるなエームズ……ひょっとして私だけじゃなく、花山院や西門をも凌ぐ名探偵なの? 『常識人・風見栄一郎の事件簿~真犯人はキミだよね?~』が始まってしまう……。

 でもこれでもう一つの謎が解けた。どうして放課後を選ばなかったんだろうと思っていたけれど、先生としてはアリバイ工作のつもりだったのかも。別にチューリップを水切りするのにアリバイ工作も何も要らないだろうけど、いかにも展示物くさかった花瓶を使用してしまった事や、裏庭のチューリップを勝手に抜いてしまった事など、やましさがあれば出来れば気付かれないように行動するのが人間だろう。


 ………あれ? でも、それならおかしいな………。


 私の脳裏を過ぎる微かな疑問は、また一つ、不思議の芽を出す。まるでボタンを掛け違えたブラウスみたいにちぐはぐしている。聞いた事。起こった事。何かが違うような、そんな気がしている。



 ◇ ◇ ◇



 さて、今回の件で迷惑を掛けた人はもう一人。とはいえわざわざ事情を聞きに行ったわけじゃないけれど、せっかくの出会った事もあるし、昨日の様子もちょっと気になったので、私はその足で三年生の階へと向かった。スミレの砂糖漬けを渡す相手はもう一人いらっしゃるのだ。むふふ。

 もっとも、三年A組を覗いたところ、七瀬先輩の姿は見えなかった。クラスの人に尋ねたら裏庭じゃないかとの事だったので、そのまま裏庭に向かった。昨日は放課後もいらっしゃったけれど、放課後さっさと帰宅されたら捕まえる手段がない。土日を挟む事を思うと、ここで確実に渡しておきたい。

 クラスメイトの方の予想通り、裏庭の噴水のところで日向ぼっこをされている七瀬先輩を見つけたので、そのまま声を掛けてお隣にお邪魔した。


「昨日は妙な事を尋ねてしまって申し訳ありませんでした」

「いえ。私の方にも噂が回ってきましたし、事情は分かりましたから……それよりもよろしいのでしょうか? 私、全然お役に立っていないのに、お菓子なんていただいてしまって」

「もちろんですわ! というか、七瀬さまともう少し仲良くなれたらいいなという下心もあるので……正直口実ですわね」

「まあ。……白鳥さまは本当に、いいお方ですわね」


 実はお嬢様としてのお手本にしようと思っている、という浅ましい気持ちは、七瀬先輩の柔らかい微笑みの前に霧散した。天気がいいせいか、はたまたお昼間なせいか、昨日とはまた印象が違ってまるで花が咲いているみたいだ。吹いてくる風に弄ばれる髪を、右手で耳に掛ける仕草にうっかり見惚れた。キラリ、と太陽の光を受けて反射する先輩の指輪と同じぐらい、なんだか先輩が眩しい。


「その指輪、とっても素敵ですわね。昨日は気付きませんでした」

「あ、昨日は……実は失くしてしまっていたんです」

「えっそうなんですの!?」


 お嬢様の持つ指輪が無くなるなんて、私が学生の時三千円で買った時計を高頻度で失くすのとレベルが違う。盗まれて入れ替わったりしてない? 大丈夫?


「盗まれていない事は確実なのでご安心なさって」

「でも……」

「実は、恥ずかしいから誰にも言えなかったのですけれど……窓から落としてしまっていたんです。どこを探しても見つからなくて……だけどちゃんと先生に見つけていただけたので大丈夫ですわ」


 どことなくはにかんでいるように見える七瀬先輩に、私の野生の勘が働いた。これ、もしかして家宝云々とかじゃなく恋人からのプレゼントかな。ひょっとして昨日元気がなさそうだったのは指輪を失くしてたからか!? そう尋ねると、七瀬先輩は顔を両手で隠して頷いた。ああ、こういう事にばかり勘が働くの、自分が非リアだと認めているみたいで何だか悲しい……。リア充レセプターでも搭載されているのかしら? 私の中のレセプターが、昨日花壇を見ていたのもひょっとして指輪を探していたのでは、と告げている。今思えば花が好きというわりに、ずいぶん寂しそうな顔で見つめていたものね。

 それにしても、A組の窓から落としたなら、初めて七瀬先輩を見た位置関係的に、問題の花壇辺りに落下してそうな。でも昨日戻ってきたのは今日か昨日なわけだよね? その前日に私は花壇の大捜索をしていたのに、なぜ見つからなかったのだろう? 掘り起こしたのは新しい花のエリアとはいえ、その周りも見てはいるはずなんだけど。


「まあでも、見つかってよかったですわね。落ちるなんて……サイズが緩かったのかしら? 七瀬さま、指も華奢でいらっしゃるから」

「いえ……あの、ほんとうにほんとうにお恥ずかしいのですけれど……」

「?」

「窓から……捨ててしまったんです、私……………」

「え゛っっっ!?!?!?」

「ほんとうに……彼が拾ってくれたのが幸いでした……」


 な、なんてダイナミックなことを……。何があったんだ……喧嘩とか別れ話とか? 指輪を再びしてる時点でヨリが戻ってそうだし、聞いても妬み嫉みしか浮かばなさそうなので深くは掘り下げないでおく。七瀬先輩は好きだけど、恋愛よりも一家の存続のために奮闘している身。羨む気持ちは海より深く山より高い。こちとらスマホのプライベートブラウザで夢小説を検索しては恋愛した気になって心を静めているんですよ。昨日はバスケ部の後輩男子から「先輩、いい加減俺のこと、男として見てよ」と言われる夢を見ました。私、今高校一年生なんですけどね。

 七瀬先輩とのお喋りをつつがなく楽しんでいた私だけれど、予鈴が鳴ったので仕方なく校舎へと向かう。


「とても楽しかったですわ。ぜひまたお喋りしてくださいね」

「ええ。私も白鳥さまともっと仲良くなれたら嬉しいです」

「本当ですか? そうしましたら、今度学校帰りにお茶でもいかがです?」

「もちろん。と言いたいところですが、私、平日はほとんど部活とお稽古で時間が……」

「部活ですか?」


 そりゃまた変わってる。という表情は読み取られていないといのだけれど、私の願い虚しく、先輩は少し弱弱しく微笑んだ。


「ええ。変わっていると思われるかもしれませんが、週に三回。今年で卒業ですから、最後まで出来るだけ参加したくて……」

「それでしたら、部活がお休みの時にでもお誘いください。お稽古はなかなかお休みにはならないでしょうから」

「そうですね。月・水・木が活動日なのですけれど、白鳥さまのお稽古日と重ならないかしら?」

「わたくしの方は融通が利きますので大丈夫ですわ!」


 暇人というわけではないですけれどもね。ええ。ええ。そうですとも。というか国内随一の白鳥家の令嬢が放課後暇しまくっていたらさすがに問題があるような……今週ずっと暇してるように見えるけど……これでも習い事とか忙しいんだよ~!? 私が一番始めたいのは探偵養成所の尾行入門体験なんだけど、絶対許されないだろうな。でもお茶とお花はもう疲れた……。あ。でもお花は七瀬先輩に教えてもらえるかも? 流派が同じだといいな~。


 ぼんやりそんな事を考えながら、七瀬先輩と別れて教室へと向かう私。今日は色んな人と話したな~。家柄のせいか普段助さん格さん達としかお喋りしないからすごく楽しかった! ここ数日花山院と西門とは話していたけど、気が滅入る内容ばっかりだったしな……。今回の事で唯一感謝しているのは、他の人と関わってほんの少し仲が良くなれた気がする事だよ。もちろん王子と武士は除く。

 ――そこでふと、全く別の人物とした会話が頭の中に蘇ったのは偶然だった。



「……………あれ?」



 違和感は繋がり合う。ズレたボタンは外され、正位置に収まるのだ。あの時、()()()は何と言っていた? そしてもしかして、この人とあの人は――――………。




 …………困ったなぁ。今日も早く帰れそうにないみたい。

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