自由と責任
クーラーの効いた部屋あたしはソファの上でねぇねに抱っこされています。その時にどうしてもねぇねの胸が背中に当たるのですが、下を向いたら見えるあたしの物との違いに思わずため息をついてしまいます。
あたしもいつかはねぇねのようになれるのでしょうか。それをお兄ちゃんに言ったら「妹がアイツのようにだらしなくなったら困る」と言われてしまいました。
「ねぇね」
あたしはねぇねに体を預けた状態で上を向いてねぇねに声を掛けます。
「どうしたの?」
いつもよりもほんわかした声でねぇねが尋ねてきたので、あたしは口を開きます。
「ねぇねは卒業したらどうするんですか?」
特にこれが聞きたいというわけではなく、ふと頭を過ったので言ってみると、なんというか無意味な感じがします。
だって、ねぇねは小説家になりたいと前々から言っていたのですからきっと、「小説家ね」みたいに帰ってくるでしょうから。
「そうね、どうしたらいいのかしらね」
でも、ねぇねはあたしの予想とは違い、少し困った声でそう返してきました。
あたしはどうしてそんな風に言うのかが分からなくて首をかしげます。
「ねぇねは小説家になるって言ってましたよね?」
あたしの言葉にねぇねが少し寂しそうな笑顔を見せます。でも、あたしにはその理由がわからなくて、ただ何となく申し訳ない気持ちになってしまいます。
「なれたら良いんだけどね。実際なれるかはわからないのよ」
ねぇねはそこまで言うと、一度黙ってしまいます。あたしはどうしていいのかわからず、ただ少しだけ震えているねぇねの手にそっと手を重ねることしかできません。
少ししてねぇねが「妹ちゃんにこんなことを言ってもわからないかもしれないけど」と前置きをしてから話し始めます。
「もしかしたら今から卒業まで本気で小説を書き続ければ小説家になれるチャンスはあるかもしれない。でも、最近は一度小説から離れて就職した方がいいんじゃないかと思ったりもするの」
「どう言うことですか?」
ねぇねに言われた通りあたしにはねぇねの言っていることは解りません。ですからあたしは素直に尋ねます。
「一度小説から離れても小説家になれないわけじゃないからね。今の私にはこのまま小説家一本を目指すか、一度就職してちゃんと一人で生活できるようになってから小説家を目指すか、いっそ小説家をあきらめるかっていう選択の自由があってね」
「まぁ、最後のはないとは思っているんだけど」とねぇねは一度ここでおどけたような声を出します。それから、あたしの頭の上に顎を載せました。
「どちらにしても責任ってのが圧し掛かってくるのよ」
「責任?」
「そう責任。小説家を目指して、卒業までに成れなかったら間違いなくフリーターになるだろうし、会社に入ったらその社員として会社に最低限の責任は果たさないといけない」
そこで頭に乗っていたものが急に柔らかくなりました。恐らく頬っぺたなのでしょう。
ねぇねはその状態でまた話し始めます。
「気持ちとしては小説だけを頑張りたいけど、現実問題として一度就職した方がいいのは頭ではわかってて」
「まあ、そんな感じなのよ」とねぇねが無理に作ったような明るい声を出して、あたしを立つように促します。それからすぐにねぇねも立ち上がって、あたしの手を握ると
「妹ちゃんは私みたいなダメな大人になっちゃだめよ」
と笑ってから「遊びに行こうか」とあたしの手を引きました。
不安なことも誰かに聞いてもらうだけで楽になることがあります。
不安なことだから誰かに聞いてもらっても不安が増すことがあります。




