第20話 地図のない道
北西第三補助路の枝道が閉鎖されてから、二日が経った。
一週間前には通れていたはずの道は、その後の調査でも行き止まりのままだった。壁を削った痕跡も、崩落した形跡も見つからず、地質担当が採取した岩片も周囲と同じものだったという。
新しい壁ではない。
けれど、一週間前にはその先へ行った探索者がいる。
管理院の中では何度も話題になっていたが、結論はまだ出ていなかった。
その朝、迷宮管理院へ出勤したルアンは、資材室の前でダグから一枚の地図を渡された。
「今日、北西行くぞ」
「閉鎖してるところですか?」
「その周辺。昨日から導灯の位置も確認し直してる」
「位置が変わったんですか?」
「今のところは変わってねえ。ただ、道が信用できねえなら、灯りも一緒に見直す」
言われてみれば当然だった。
導灯は単に通路を照らしているだけではない。どの灯りがどの分岐にあり、その先がどこへ続いているのかという位置情報も含めて、人が迷宮を歩くための目印になっている。通路そのものに異常があるのなら、地図だけを調べても足りない。
その日の調査班は、ダグとルアンを含む管理院職員四人だった。通常の工具に加え、測距用の紐、壁へ仮の印をつける白墨、携帯灯、それに新しい測量図を持って中層へ入る。
一般探索者の立ち入りは、第三補助路周辺の一部だけ制限されていた。ただし北西区域全体が閉鎖されたわけではなく、資源採取や魔物調査の依頼も続いている。分岐によっては、普段と変わらず人が行き来していた。
中層詰所を越え、北西へ向かう。
先日見た景色は、今日もほとんど変わっていなかった。案内標識も同じ場所にあり、腐蝕苔の群生も残っている。
ルアンは歩きながら、それらを一つずつ確かめた。
少なくとも、ここまでは前に見た時と同じだった。
閉鎖区域の少し手前で、調査班は二組に分かれた。ダグたちは例の行き止まりへ向かい、ルアンともう一人の職員は、その手前にある二本の補助導灯を確認することになった。
同行するのは、二十代後半の職員だった。名前はハルトといい、中層勤務は五年ほどになるらしい。
「見習いなんだって?」
「はい」
「大消灯の時の?」
「たぶん、その見習いです」
「有名だな」
「始末書二枚書きました」
「そっちか」
どちらの意味で有名なのかは聞かないことにした。
一つ目の導灯は正常だった。外殻を開き、魔石の出力を測る。配線にも異常はなく、地面から流れ込む補助魔力も規定値に収まっていた。
ルアンは位置を地図と照らし合わせる。導灯番号、分岐までの距離、壁の形。すべて一致している。
二つ目も同じだった。
「変わってませんね」
「変わってない方がいいんだよ」
「調査って、何も見つからないとちょっと残念じゃないですか?」
「新人のうちはな。そのうち何もない日が一番ありがたくなる」
「ダグさんと同じこと言うんですね」
「灯守はだいたいそうなる」
ルアンは少し笑った。
点検を終え、二人はダグたちと合流するために戻ることにした。その途中、前方の分岐から素材籠を背負った少女が現れた。
ルアンには遠目でも分かった。
「ミレーナ」
向こうも気づいた。
「銀貨十二枚」
「そろそろ普通に呼んでよ」
「この前呼んだでしょ」
「一回だけね」
ミレーナはいつもの回収用装備を身につけていた。腰には採取道具が下がり、背中の籠には平たい木箱が二つ入っている。
ハルトが尋ねる。
「回収仕事か?」
「はい。北側で水晶蟻の抜け殻を探してます」
「閉鎖線は越えるなよ」
「分かってます」
返事には少しだけ不満そうな響きがあった。
「いつも採ってる場所が閉鎖区域の向こうなの?」
「近く。だから今日は遠回りしてます」
ミレーナは地図を持っていなかった。代わりに腰袋から小さな紙を取り出し、自分で書いたらしい簡単な経路図を見せる。管理院の地図ほど正確ではないが、素材が採れる場所や危険な苔、魔物の痕跡まで細かく書き込まれていた。
「ここ、昨日までは通れたんだけど」
ミレーナが一か所を指し、ルアンも覗き込む。管理院の地図にもある通路だった。
「今日は?」
「まだ見てない。これから」
ハルトが少し考えた。
「俺たちも同じ方向だな。途中まで一緒に来るか」
「いいんですか?」
「閉鎖区域に入らなきゃ問題ない」
三人で進むことになった。
少し歩くと、今度は前方から何人かの探索者が来た。先頭に長い槍が見え、その後ろに蜂蜜色の髪が現れる。
ルアンは思わず笑った。
「今日はよく会うな」
セインだった。
向こうも同じことを思ったらしい。
「またいる」
「仕事だから」
「俺も仕事」
今日は三人組だった。この間一緒にいた者たちとは違い、二人とも若い探索者に見える。依頼内容を聞くと、北西区域で増えている裂牙犬の痕跡を確認する仕事だという。
セインがミレーナを見る。
「腐蝕苔」
「だから名前じゃないって」
ミレーナは即座に返した。
そのやり取りに、同行している探索者たちが少し不思議そうな顔をする。
「知り合い?」
「この前、飯食った」
セインが答えた。
ルアンは一瞬だけ、その言い方に引っ掛かった。間違ってはいないが、説明としてはずいぶん雑だった。
ミレーナも同じことを思ったらしい。
「それだけ聞いたら、前から仲いいみたいじゃない」
「違うの?」
「違うでしょ」
「じゃあ何?」
「知り合い」
「マーサさんと同じこと聞くなあ……」
ルアンが呟いたが、誰にも意味は伝わらなかった。
セインたちは、この先の分岐からさらに北へ入る予定だという。そこまではルアンたちと同じ経路だったため、しばらく人数が増えることになった。
管理院二人、回収士一人、探索者三人。
六人で歩くと、普段は広く感じる通路も少し狭く見えた。先頭はハルトと探索者の一人が歩き、ルアンはその少し後ろにつく。ミレーナは足元を見ながら進み、セインは相変わらず周囲を眺めたり、隣の探索者と話したりしていた。
「昨日の壁、どうなった?」
セインが尋ねてきた。
「まだそのまま」
「壊さないの?」
「何で壊すの」
「道だったなら、向こうに行けるかもしれないだろ」
「地質担当が調べる前に壊したら怒られるよ」
「そういうもん?」
「そういうもん」
ミレーナが口を挟む。
「中に何かいたらどうするの」
「戦う」
「そういうところだよ」
何が「そういうところ」なのか、セインには分かっていないようだった。
しばらく進むと、分岐へ着いた。
右へ行けばセインたちの調査区域、左へ行けばミレーナの回収地点。ルアンたちは、その先にある補助導灯を確認する予定になっている。
ここで別れるはずだった。
ハルトが携帯時計を確認する。
「俺たちは左を一本見てから戻る。お前らも閉鎖標識には近づくなよ」
「はい」
「分かった」
それぞれが答える。
セインが槍を持ち直した。
「じゃあ、また飯で」
「決まってるの?」
「会ったらって言っただろ」
「今日は会ったけど」
「じゃあ行く?」
「まだ仕事中」
「それもそうか」
セインが笑った、その時だった。
地面の奥から、低い音が響いた。
最初は遠くで岩が落ちたのだと思った。迷宮の中では珍しい音ではないため、誰もすぐには動かなかった。
ところが、音は一度で終わらない。足元から伝わってくる鈍い振動が数秒ほど続き、石床に積もっていた細かな砂がかすかに震えている。立っていられないほど強くはなかったが、遠くの崩落というより、迷宮そのものの奥で何か大きなものが動いているような感覚だった。
「地震?」
探索者の一人が言うと、ハルトは壁へ手を当てて振動を確かめた。
「揺れてるな」
「魔物?」
セインも槍を下ろし、周囲を見回す。
「こんなでかいのがいたら困る」
ハルトがそう答えた直後、振動はゆっくりと収まり、通路に元の静けさが戻った。全員がその場に留まり、天井や壁を確認するが、石が落ちた様子も、新しい亀裂が入った形跡もない。
「戻った方がいいですね」
ミレーナの声から、さっきまでの軽さが消えていた。
ハルトもすぐに頷く。
「今日は中止。詰所戻るぞ」
異論はなく、六人は来た道を引き返し始めた。
ルアンは歩きながら、導灯の光を見ていた。消えてはいない。ただ、いつもより少し青白さが弱いような気がする。
「ハルトさん」
「何だ?」
「導灯、少し暗くないですか?」
「どれ」
立ち止まって出力を測る。数値は規定の範囲内だった。
「異常なしだ」
「じゃあ気のせいかな」
「今のところはな」
大消灯のことが頭をよぎった。あの時も、最初は小さな違和感だった。
ただ、今は導灯そのものに異常が出ているわけではない。ルアンはそれ以上何も言わず、戻ることを優先した。
一つ目の分岐を越え、次の通路へ入ったところで、先頭を歩いていた探索者が足を止めた。
「……あれ?」
「どうした?」
「こんな曲がり方してたか?」
ルアンも前を見て、すぐに違和感を覚えた。
来た時、この通路はもっと先まで真っ直ぐ続いていたはずだった。ところが今は、五十歩ほど先で緩く右へ曲がり、その向こうが岩壁に隠れて見えなくなっている。
ミレーナがしゃがみ込み、地面を確認する。
「足跡あるよ」
薄く砂の積もった床には、複数の靴跡が残っていた。六人が来た時につけたものらしい。
「同じ道だ」
セインの言葉を聞きながら、ハルトが地図を広げる。
「ここは直線だ」
地図では、この先二百歩ほどで次の分岐へ出ることになっている。だが、目の前の通路は五十歩ほど先で右へ曲がっており、明らかに形が違っていた。
「別の道に入ったんじゃない?」
探索者の一人が言うと、ミレーナは足元に残る跡を指した。
「でも、私たちの跡がある」
ルアンもその場へしゃがみ込み、砂の上に残った靴跡を確かめた。
自分の靴跡と断定することはできない。それでも工具袋の重さのせいで、右足の踵が少し深く沈む癖があり、それらしい跡はいくつも見つかった。少なくとも、誰も知らないうちに別の道へ入ったとは考えにくかった。
ハルトが白墨を取り出す。
「全員ここで待て。俺が曲がった先だけ見る」
「俺も行く」
セインが言う。
「待ってろ」
「何かいたら?」
「いたら戻る。今は戦うために先を見るんじゃない」
セインは少し不満そうだったが、従った。
ハルトは携帯灯を持ち、一人で通路の先へ進んだ。曲がり角を越えると姿が見えなくなり、それから一分ほどして戻ってくる。
表情が少し険しくなっていた。
「先に分岐がある」
「地図には?」
「ない。それと、その先に導灯が一基ある」
「番号は?」
ルアンがすぐに聞いた。
「そこまでは見てない。光だけ確認した」
地図にない道、その先にある地図にない分岐。さらに、その向こうには導灯まである。管理院が設置したものなら、記録に残っていないはずがなかった。
ハルトはもう一度地図を確かめ、首を振る。
「今は調べない。別経路から戻る」
誰も反対しなかった。
地図上では、この近くに迂回路がある。来た道を少し戻り、別の分岐から南へ抜ければ、中層詰所まで戻れるはずだった。
六人は一度引き返し、さっき別れようとしていた場所まで戻る。そこから別の通路へ入った。
今度は全員が、地図と周囲を見比べながら進んだ。
百歩ほどは、ルアンにも見覚えがあった。右側の岩壁には細長い白い筋があり、その少し先では床が一段下がっている。二百歩近く進んだところで、地図に記された分岐へ着くはずだった。
ところが、そこに分岐はなかった。
一本道の右側を、古い岩壁が塞いでいる。
先日見た行き止まりとよく似ていた。崩れた石が積もっているわけではなく、最初からそこにあったように一枚の壁が続いている。
ハルトが岩肌へ手を伸ばしかけた。
「……触らない方がいいですね」
ルアンの声に、ハルトは手を止めて苦笑する。
「お前に言われるとはな」
結局そのまま触れずに壁の表面を確認していると、足元へしゃがみ込んだミレーナが声を上げた。
「苔がある」
岩と床の境目には、薄い灰色の苔が生えている。少なくとも、さっきの揺れで突然できた壁には見えなかった。
「じゃあ、本当に道が変わったってこと?」
セインが尋ねると、ハルトはすぐに首を振った。
「まだ決めるな」
「でも、さっきの道も地図と違った」
「分かってる。だから今は、見たものだけ確認する」
その声には、さっきまでなかった硬さが混じっていた。いつの間にか、誰も冗談を口にしなくなっていた。
ハルトは床へ地図を広げ、現在地を確認する。
北西第三補助路。ここから詰所へ戻る経路は三本ある。
一つ目は来た道だが、その先は地図にない曲がり道と分岐へ変わっている。二つ目は今いる道で、こちらは本来あるはずの分岐が古い岩壁に塞がれていた。
残るのは、北側を大きく回る古い経路だけだった。
「こっちから戻る」
ハルトが指した。
セインも地図を覗き込む。
「遠い?」
「倍くらい」
「でも帰れるならいいだろ」
「ああ。今はそれでいい」
この時点では、まだ誰も取り残されたとは思っていなかった。
地図と違う場所が二つ続いただけで、別の経路は残っている。迷宮の異常なのか、地図や記録の問題なのかもまだ分からない。
六人は北側の旧経路へ向かった。
そこから先は人の通行が少なく、導灯の間隔も広くなっていた。灯りと灯りの間には携帯灯がなければ足元が見えない場所もあり、壁には古い標識が残っている。
分岐が少ないので、地図通りなら迷う道ではない。
三百歩ほど進んだところで、先頭のハルトがまた足を止めた。今度は誰も理由を聞く前に、ルアンにも分かった。
あるはずの場所に、導灯がなかった。
「ここ、ですよね」
ルアンが地図を確認する。
「北西三十四号の前に、補助灯が一基あるはずだ」
ハルトも周囲を見る。
しかし台座らしきものは見当たらず、その代わりに左側の岩壁へ細い通路が口を開けていた。
地図にはない道だった。
ルアンの背中に冷たいものが走る。今度は誰も、「地図が間違っているだけかもしれない」とは口にしなかった。
ミレーナが自分の簡易図を取り出す。
「ここ、私も何回か通ってる」
「この道、あった?」
ルアンが尋ねると、ミレーナはすぐに首を振った。
「なかった。ここは普通の壁だったよ」
セインが細い通路の奥を覗き込む。
「入れる?」
「入るかどうかの話じゃない」
ミレーナが即座に返した。
ハルトはしばらく通路と地図を見比べていたが、やがて地図を畳んだ。
「一度、さっきの分岐まで戻る。来た道をもう一回確認する」
誰も反対しなかった。
元の場所へ戻ると、壁はそのままだった。さらに来た道へ戻っても、地図にない曲がり道は変わらず残っている。
ハルトはそこで全員を止め、携帯灯の残量と食料、水、それぞれの装備、怪我の有無を一つずつ確認し始めた。
ルアンはハルトが装備を確認していく様子を見ながら、ようやく状況の意味を理解した。
これはもう、通常の調査ではない。
「詰所まで戻れない?」
セインが尋ねると、ハルトは少しだけ間を置いた。
「知ってる道では、今のところな」
その答えが、ルアンには何より怖く聞こえた。知っている道でも、地図に書かれた道でも戻れない。
手元の測量図へ目を落とすと、さっきまで現在地と出口を結んでいた線が、急にただの線に見えてきた。隣ではミレーナも自分の簡易図を畳んでいる。
「私のも使えない」
「じゃあ、どうする?」
ハルトは周囲を見回した。
「まず現在地を固定する。勝手に動くな。導灯の位置と、使える通路を確認する」
ルアンもそれに従って周囲の灯りを確認した。見える導灯は二基。近い方が北西三十四号、その先が三十五号だった。番号そのものは地図と一致しているが、その間にある通路の形が違っている。
三十五号の光が、わずかに揺れているように見えた。
「三十五号、少し出力が不安定です」
ハルトが振り向く。
「見に行けるか?」
「ここからなら」
全員で移動することになった。今は誰も単独では動かなかった。
三十五号へ着くと、ルアンはすぐに外殻を開いた。魔石は正常で、内部の導線にも目立った異常はない。測定器を当てると、出力は基準値の範囲に収まっていたが、一定ではなく、わずかに上下していた。
「地面からの魔力は?」
ハルトが尋ねる。
ルアンは補助系統へ測定器を切り替えた。表示された数値を見て、もう一度確かめる。
「弱いです」
「切れてる?」
「切れてはいません。でも、いつもの半分くらいしかありません」
迷宮の地面を流れている魔力と、導灯の間に何か変化が起きている。それが道の変化と関係しているのかは分からない。
ルアンは考えたことを飲み込み、見たことだけを伝えた。
「補助魔力が通常よりかなり弱いです」
「記録しろ」
ハルトが頷く。
ルアンは紙へ数値を書いた。
その横では、ミレーナが地面を見ていた。しばらく同じ場所を見たあと、しゃがみ込む。
「何かある?」
ルアンが尋ねる。
「足跡」
「誰の?」
「分からない」
ミレーナが導灯の先を指した。薄く砂の積もった床に、小さな靴跡が続いている。人間のものらしいが、少なくとも六人の誰のものでもなかった。
「古い?」
セインが聞く。
「そんなに古くないと思う。端がまだ崩れてないし、水滴も入ってない」
ミレーナが足跡の先へ目を向ける。そこには一本の通路が続いていたが、ハルトが開いた地図には、その道を示す線はどこにもない。それでも靴跡は、確かにその奥へ続いている。
「人が通ってる」
ルアンが言うと、ミレーナは足跡を見たまま答えた。
「そう見える」
セインも通路の奥へ目を凝らす。
「戻る道かもしれない?」
「かもしれないし、違うかもしれない」
ハルトは答えず、しばらくその場から動かなかった。
地図にない通路。そこへ続く人間の足跡。少なくとも誰かがここを通った形跡。そして近くには、出力こそ不安定ながら管理院の番号がついた導灯がある。
ほかの帰路は、今のところどれも地図通りには使えない。
しばらく考えたあと、ハルトが言った。
「このまま全員で動く。足跡を追う。ただし、戻れるように印を残しながら行く」
セインが頷く。ミレーナも異論はないようだった。
ルアンは一度、手にしていた地図を見る。
今までなら、紙に引かれた線を見て次に進む方向を決めていた。今日は、その線のない場所へ行く。
地図にはなくても、道そのものは目の前にある。そこには足跡があり、誰かが通った痕跡も残っている。
ハルトを先頭に、六人は細い通路へ入った。
幅は狭かったが、歩けないほどではない。壁は古く、床にも人が何度か通ったような擦れがあり、少なくとも今この瞬間に現れた道には見えなかった。
ルアンは少し後ろを歩いた。隣にはミレーナがいて、そのさらに後ろにはセインがいる。
誰かが誘ったわけではない。一緒に迷宮へ入ったわけでもない。それぞれ別の仕事をしていて、たまたま同じ場所にいただけだった。
それでも今は、同じ道を歩いている。
地図にはない道だった。




