↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LOVERSコード  作者: 蒼貴みかげ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/58

code01:vision6 霧海タウン

――同4月10日 21時5分――



 本部を出て、大通りから路地に入った。

 

「新興開発地域だからな、この辺は。夜、危ないんだ」


 わずかに前を行く高桐が言う。


 確かに昼間、歩いた時とは空気がちがう。

 人通りのない道に影が沈んで、心許ない。

 温もりの外に、闇の冷たさが満ちていた。

 

「早く帰れる日ばっかりじゃないのは分かってるけど、絶対に気をつけろよ」


 電子たばこを出してセットしている。

 帰り道、その習慣は変わってないらしい。


 思いきって、訊いた。


「もしかしてお葬式だったんですか」

「そう」


 煙が流れて、高桐が答える。

 銘柄も変わってないと、分かってしまう。


「被害者のな。山梨まで行って、さっき帰ってきた」

「ああ、それで……」 


 なら、あるはずの疲れを見せもしない。

 遠方の葬儀会場での捜査。

 自分は言い置きを守らなかった。

 

「やっぱり早く帰るべきでしたね」


 言うと、意外そうにふり返る。

 

「なんで」

「送らせてしまって。大変でしたよね」

「ああ……」


 なんだ、というように小さく笑う。

 

「いいよ、たいした距離じゃないだろ。立樹の残業グセはよく知ってるからな」


 目を見ると、前に向き直った。

 

「参列者から話を聞いてきた。詳しくは明日、話す」

「はい」


 やがてスイッチが切れたと見えて。

 電子煙草をジャケットに仕舞った。


 会話の途切れは数秒だったかも知れない。


「――元気にしてたみたいだな」


 うつむき加減に、小さく。

 声がやけに静かに届いた。 

 

「本庁で一度、見かけたけど。声をかける時間がなかったな」


 ふり向きはしない横顔。


 あの時、目は合わなかったが。

 慌てて現場へ向かう、警視庁のロビーで。

 三朝も、高桐を視界に捉えていた。

 鮮明に覚えている。


「どうにか。やってました」


 できるだけ、ふつうに答えると。

 高桐は横目に三朝を見た。


「おまえ、それ……ちゃんと食ってたんだろうな」


 指導についていた、あの頃。

 三食をおろそかにする自分を見かねて。

 よく食事にも連れて行ってもらっていた。


「時間があるときは食べてましたよ」

「なくても食えって言っただろ。言うこと聞かないやつだよな、ほんと」


 つい口元がゆるんだ。

 平然とした口調が少しだけ崩れる。

 以前の距離を感じる。

 

 三朝はそのゆるみを消した。

 

「高桐さんは?」

「うん。まあ生きてるな、今のところ。正直ちょっと忙しかった」


 JPO設立にむけた準備のため、

 高桐も半年後に北海道から戻った、

 と伯父から聞いていた。

 本部内の多くの人事に関わったとも。

 

 新組織を立ち上げ、

 ゼロから捜査部隊を編成する。

 並みの作業ではなかったと思う。

 

「おかげで軌道には乗ったと思うけどな。片づいたそばから、また事件だから」


 わずかに空を仰ぐように顔を上げる。

 重みと、何かが、横顔に滲んで。

 

 三朝は思わず目をそらした。

 

「ふつうの事件ではなさそうですね」

「そう思うか? ほかのやつらも、そう感じてるみたいだ」


 そう言うと、高桐が立ち止まった。

 静かな目で三朝を見下ろす。

 何事かと思って見上げると、言った。

 

「どっち?」


 気がつくとT字路に差しかかっていた。

 

 左右に伸びた道の、どちらへも。

 白く淡い外灯が、等間隔に並んでいる。

 

 三朝は左を差した。

 

「こっちです」

「……へえ。俺もこっち。ちなみに、ほかの2人はあっち」


 右を差して小さく笑った。

 三朝も少し笑ってしまう。


「偶然ですね、なんか」

「そうだな。ほとんどの奴らがこの辺に住んでる。そのうち道も覚えられるだろ」


 ふたりで左の路地へ折れた。


 こちらは道沿いに、ごく小さな川があり。

 舗装された遊歩道になっている。


 言葉少なにオレンジの道を進んで。

 ふと、となりを見上げると。

 街灯に照らされた高桐の横顔があって。

 それがすごく不思議だった。


 言葉がぜんぜん浮かんでこない。

 前はどう話していたんだったか――。

 

 ほどなく三朝のマンションの前に着いた。


「ここ?」


 建物を下から上へ見上げている。

 十三階建てだったと思う、たしか。

 

「はい、五階です」


 聞かれてもないのに答えて。

 三朝は高桐に向きなおった。

 

「送っていただいて、ありがとうございました」

「そういえば、うちは残業は申告制だからな。次からは連絡入れろよ」


 念を押すように、高桐は言う。

 

「変わってないんだろ、連絡先」

「はい」

「俺も変わってないから」


 わかりました、と答えるべきが。

 気づいてしまって動けなくなった。


 やわらかい風が、一筋、髪を揺らす。


 高桐は行こうとしない。

 ただ平然と三朝を見下ろして。

 瞳の奥の、深い――。

 

 気づかれぬよう目をそらし。

 頭を下げて。

 三朝はエントランスへ歩き出した。


「立樹」


 ふり向くと――。

 高桐は喪服に手を入れ。

 

「また明日な」



 去っていった、

 その建物の角から目が離せなかった。

 

 変わらない――でも何か。

 目の奥に見えた気がして。

 しばらくそこに立ち尽くしていた。

『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。