code01:vision05 司令室の夜
――同4月10日 17時30分~――
JPO-IIR3-005-0405――。
西原美咲事件のコードナンバー。
異動を先延ばしにした間に。
起きていた事件だった。
結局、1人残ってパソコンを見ている。
数十枚の現場写真。
顔立ちの整った被害者、西原美咲の。
凄惨な暴行写真が、画面に並んでいる。
それは見るだに息苦しくなるほどだ。
胸部刺傷。性的暴行の痕跡。
資料で読めばひと言で片づけられる、
その現実は想像を絶する。
車に連れ込まれ、数人の男に押さえつけられ。
交代になぶられ、踏みにじられて。
最期は、心臓をひと突きにされて息絶える。
もし己の身に起き得るとしたら――。
何度も息をつきながら、写真を送った。
事件を、他人事と割り切れないのが、
捜査員としては致命的、悪い癖だった。
被害者のメイクは無残に崩れ。
巻いた髪も絡まって、頬に張りついている。
念入りに施されていただろう、それらは。
事件当夜の、被害者の期待を表している。
『出会えるかもしれない誰か』への。
被害者は、どの程度、遊びだったのか。
案外、本気だったんじゃないだろうか。
去年の2月ごろ、同級生の誘いに乗って。
初めてクラブ・ノービスへ行った、
と書いてある。
まだ20歳。大学生。クラブで男遊び。
無防備に身を投じさえしなければ――。
周辺カメラの映像の調査結果では、
被害者ひとりしか確認できていない。
いきなりバンに乗せられたのか。
誰かに誘われて乗り込んでしまったのか。
その『誰か』が。
被害者が『出会いたかった誰か』だとしたら――。
もちろん『騙した誰か』が一番、悪い。
が、被害者自身が招いた悲運……。
息苦しさは、次第に。
やりきれない気持ちに変わっていた。
やはり焦点はスマートフォンだ。
現場に残された被害者自身のスマホ本体。
オレンジ社製のレオン19。
日本では一番メジャーな機種だ。
このスマートフォンに犯人の情報などは入ってない。
おそらく、それは確定だ。
だから置いていった、遺体の上にわざわざ。
――意味がないわけがない。
はたと壁のデジタル時計を見あげると。
20:45になっていた。
奈守の言葉がよみがえった。
『帰って来ないからって、時間だけは見とけよ。
俺は怒られるの、やだからな』
やってしまった、と思った。
もう少し早く帰るつもりだったのに。
少し焦ってパソコンの電源を落として。
聞いておいた場所に、ファイルを片づけようと。
立ち上がった。
その時だった。
ドアノブを回す音がして。
驚いて振り返って――時が止まった。
誰も帰らないと聞いていたはずの戸口に。
JPO司令部第三係、司令長――。
高桐隼人(たかぎり・はやと/29)。
少しも変わらない姿だった。
「やっぱり」
高桐は呆れたように言って、近づいた。
「いると思った。早く帰れって言われなかったのか」
少し離れたテーブルの前で立ち止まり。
書類の束を手に取っている。
三朝はしばらく見つめてしまった。
懐かしい、とか、本物だ、とか。
が。
正直、服装が気になっていた。
スーツはともかくネクタイまで真っ黒の。
それは喪服姿では……。
「どうした」
書類を見たまま、静かに言う。
「帰ってこないと思って油断したか」
平然と聞こえるが、薄く笑みが含まれている。
それを変わらず感じ取れて。
三朝も、ようやく笑えていた。
「バレてましたね」
「当たり前だろ。だから奈守に言っといたのに」
やはり……おそらく高桐は変わっていない。
三朝は――。
「資料が気になって、ついこの時間に……」
「あいかわらずか」
手近なイスをひいて座っている。
決裁書類にサインをする姿。
「とりあえず帰る用意して」
「え」
それは、つまり……と固まっていると。
高桐は顔を上げて、まっすぐ三朝を見た。
「送るから」
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