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LOVERSコード  作者: 蒼貴みかげ


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6/58

code01:vision04 捜査ファイル

――同4月10日 16時5分――



 被害者の名は西原美咲。

 山梨出身、20歳の大学生だった。


「身元は、被害者のスマホから判明してる。

所轄の手配で、その日のうちに足取りも掴めてるな」


 ファイルに目を落としたまま。

 奈守が説明を続ける。


「事件前夜の4月4日午後10時。

被害者は、渋窪区月岡町のクラブ・ノービスに友人と来店。

数人で飲んでいた。男目的で通ってたみたいだな」


 ナンパされに行っていた。

 ――ということだろうか。 


「23時半、友人が先に男と退店。

被害者は1人、店に残り……0時15分。

トイレに立ち、5分後の0時20分に、席に戻らず退店した」


 奈守が逆さまにしたファイルが、

 三朝の前に差し出される。

 

 写真が印刷されたページだった。

 街を走る、黒い大型バンの写真。

 路上カメラの切り出し画像だ。


「このバンは、クラブと遺棄現場をつなぐ防犯カメラの映像で浮上した。

0時32分、クラブ近くの路上を通過。霧海通りを南下して、

0時48分に霧海倉庫街入り口。

で。

3時7分に倉庫を出発。

3時16分に高架前信号を通過。

――遺体遺棄の3時19分と合致してる」


 ファイルにもタイムラインが書かれている。

 

「じゃあ犯行現場は霧海倉庫街ですね」


 三朝が言うと、奈守がうなずく。

 車は、そこで空白の2時間強を過ごしている。

 

「ただ、あの倉庫街は広くて、死角も多い。

深夜だから目撃者もなかった。

あと、このバンだけど。案の定というか、

偽造ナンバーでヒットしなかった。

もうないだろうな、日本には」


「最近よくあるヤツですね……」


 犯罪グループによる車両窃盗。

 高級車や、人気車種。

 たいていは海外に売り飛ばされ、

 帰ってこないケースが多い。


「となると、

組織がらみの犯行って見方もできるけど……

どうかな。得しないだろ、この事件じゃ」


 奈守はそこで煙草を出して。

 

「ごめん、いい?」

「いいですよ。禁煙ですか?」

「そりゃ警察庁舎だから。ホントはね」

「気にしないので」 

「悪いね」


 笑った三朝に、微笑み返し。

 奈守は咥え煙草でファイルをめくる。


「で、カメラ映像の解析なんかは

今も白石の班が頑張ってるわけなんだけど……。

あとは、被害状況か。所持品と被害者」


 どちらもファイルにまとめてある。

 非常に分かりやすい。

 

「所持品はスマホだけ。

所持というか、遺体の上に置いてあった。

わざわざな」


 言葉どおりの写真が数枚。

 ページに納められている。

 

 女性の胸の上にスマートフォン。

 派手なケースに入れられている。


 煙を横に吐き出して。

 奈守はファイルのページを指した。

 

「死亡推定時刻が、5日の午前2時から3時半。

霧海倉庫街に車がいた時間と合致してて、死因が胸部刺傷。

即死だな。

正確に肋骨の間から刃物で心臓をひと突きにしてる」


 見て簡単に分からない場所を、

 正確に?


「手慣れた者の犯行ってやつ?

性的暴行の痕もひどくて、

複数人のDNAが体内から検出されてる」


 ファイルに『プロか?』と。

 赤字で書き添えられている。


 見覚えのある筆跡だった。


「ここにも組織的犯罪の可能性ってことですね」

 

 奈守は煙草の煙を吐いた。

 納得のいかない表情で。

 

「そうなんだけど……でもな?

殺して捨てて何になる?

見返りがいるだろ、組織犯罪なら」


 たしかに。

 犯罪グループの目的は「金銭」だ。

 利益なき暴行も殺害も、やらないだろう。


「被害者は金目の物は持ってなかった。

得るものないよな、殺したって」


 三朝は、とくに考えなく口にしていた。


「犯行が目的じゃなかったかもしれないですね」


 すると声を低めて「え?」と返された。

 三朝も「え?」と思う。

 

「あ、いえ……思いつきです。続けてください」


 一瞬だけ、射抜く様に見て。

 奈守がその目をファイルに落とす。

 

「……あとは目撃情報だけど。

いまのところは何もない。

被害者が”誰かと接触して巻き込まれた”のか、

”路上でバンに連れ込まれた”のか。

それすらも分からない状態なんだよな」


 半分まで燃えた煙草を灰皿に。

 根元まで行かないんだな……。

 と思ってしまう。


「聞き込みでも、目ぼしい情報はなかった。

この退店まぎわに行ったトイレ、

店内カメラの奥を曲がった先にあってさ。

誰かと接触があったのか、

映ってないから分からなかったんだよな」


 三朝はファイルを見つめたまま。

 何度か小刻みに頷いていた。


 つまり――。

 まだ捜査に大きな進展はない。

 ――ということだ。


「問題は、被害者のスマホでさ」


 足を組んで、奈守が言う。

 

「残した意味があるって話なんだよな、明らかに」

「そうですね」


 三朝も一番、疑問に思った点だった。

 

 被害者の胸に、置かれたスマホ。

 なんのために?


 普通、処分する。

 犯行の履歴を、消したいならば。


「本体は、いま白石が解析を進めてるけど、

被害者が店を出てからの交信記録ってものはないみたいだな。

――だからさ、犯人は知ってたんだよな。

自分の情報がスマホにないってことを。

会ってから使ってないって、一緒にいたら分かるしな。

だから残した、意図的に……って話だよな」


 意図的に残した……。 

 消したく、なかった?

 

 何を?


「こんなとこかな」


 奈守がパタンとファイルを閉じる。

 そのまま三朝に差し出した。

 

「また明日以降、くわしく把握してくれればいいから。

今日はもう上がっていいって。早く帰すよう言われてるしね」


 コーヒーを飲みかけた手が止まる。

 ひと口すすって、顔を上げた。

 

「奈守さんは出るんですよね」


 とたんに睨むような視線を返された。


「……それ、残る気じゃないだろうな」


「でも、まだ5時前ですし」


「立樹は残業が好きだからな。

本庁の時も『住んでんの?』ってくらい残ってた。

今日は『もう帰らない』とは言ってたけどさ」

『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。

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