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LOVERSコード  作者: 蒼貴みかげ


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code06:vision02 診察室

「左下腕部の外側下方でしたよね」


 医局を訪ねるなり言った早瀬に、

 高桐も驚いてた。


「連絡ありましたか」


「ええ、白石警部から。聞いてませんか?

あ、そうか。何かと取り込み中でしたよね、事後処理とか」


 笑う早瀬の手元には。

 すでに準備万端、治療用品が。


「所轄へ行く車内のようでしたよ。

高桐警視が怪我をしているので、そちらへ行くと思います、

怪我は左下腕部、外側下方です、

と簡潔にお電話くださいました」


「それで準備いただいてたんですね」


「程度は『掠めた』と言ってたが、

もう少しヒドいかも知れません、お願いします、と」


「そんなことまで」


 穏やかにほほ笑み返している。

 暖色に照度を落とした診察室は、

 とても静かで落ち着いていて、

 早瀬本人の人柄のようだ。


 窓からの月は、次は白く輝いている。


「あ」


 高桐が言って、ポケットに手を入れた。


「……本人からです」


「噂をすれば、ですね。どうぞ、お構いなく」


 取り出したスマホを耳に当てた。

 事後報告だろうか、ひとしきり話し。


「……わかった。俺も手当てが済んだら家に帰る。

気をつけてな。……白石」


 そこで呼びかけた。


「ほんとに助かった。先生へも。ありがとな」


 電話を切った高桐は、

 机の上にスマートフォンを置いた。

 早瀬が顔を上げる。


「無事、終了ですか」


「みたいです。今から帰宅するって」


「災難でしたよねえ。

張り込みのつもりが、暴行事件に行き遭うとは」


「しょっちゅうですけどね、もらい事件なんて」


「もらい事故ならぬ。白石警部が居てよかったですね」


「投入して正解でした。

引き渡しも自分から引き受けてくれて。すごいヤツです」


「頼もしい方ですね。ここへも一度も来たことがない」


 感じ入ったように言うと、

 早瀬は「さ」と台を引き寄せた。


「じゃあ、拝見します。ハンカチ、取りますね」


 上目に三朝を見てほほ笑み。

 するっとハンカチを解いて、

 素直に「ああ……」と漏らした。


「高桐警視。

これでよく痛い顔一つせず、戻ってきましたね」


「え……まあ」


 また平然と答えている。

 早瀬がその顔を見て、苦笑う。


「まあって、痛いでしょう、これは。

見えづらいかも知れませんが、裂けてますよ」


「みたいですね。

白石が来るまで立ち回りが大変で、忘れてました」


「怪我に慣れるのも困りものですね。

痛覚って危機通知なんですよ、ご存じでしょう」


 高桐の腕を丹念に診つつ。


「よく洗って、テープで保護しますね。

ちょっと沁みますよ」


 ガーゼと洗浄ビンを手に取り、

 傷口に当てて水を流した。

 

 ほんのわずか眉を寄せた。


「来ていただいて、洗って貼るだけなんですが。

縫うほどではないようで、良かったです」


「いえ、ありがとうございます」


「大事にして下さいね。もう一度、洗いますから。

さっきほど沁みないはずです」


 またピーっと水をかける。

 たしかに平然とした顔は崩れなかった。


「どうしても痕は残るでしょうが。

帰っても消毒はしないようにして下さい」


 あとはテープを貼るだけだろうか。

 早瀬は台の上から包みを手に取ると。

 つと顔をこちらへ向けた。


 三朝はすこし身構えてしまった。


「立樹警部のおかげで、

出血もだいぶマシだったみたいですよ。

よかったら、これも貼ってあげてくれますか?」


「え」


 何を言い出すかと思えば。

 高桐が軽くたしなめる。


「早瀬先生」


「冗談ですよ。でも、ほんと。

綺麗に捲けていましたよ。経験がおありだったんですか」


「昔、少し……いとこが、よく怪我をしていたので」


「どうりで。きちっと傷を抑えて。

結び切るのが、けっこう思い切りが必要なんですよね。

捲く方だって、見てるだけで痛いですからね」


 早瀬はテープの封を切って、

 丁寧に高桐の腕に貼ってくれた。

 防水シートも忘れなかった。


「ひとまずは、これで。

また明日、テープを換えに寄ってください。

私か椿が診せていただきますから。生活も普通にできますよ。

制限なくて大丈夫でしょう。

打ち付けたりだけ、しないよう気をつけてください。

それは痛いですから。……わかりますよね」

 

 はは、と。

  

 高桐が早瀬の笑いを受けて。

 診察室の和が、終わった。

『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。

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