code05:vision05 予測不能
白石が来てくれるとは思わず。
三朝は心底、安堵していた。
男が驚いた顔で声をかけた。
「あの、ちょっと」
「ごめん!」
強く遮って、弱く目を上げる。
「やっぱり……一緒に飲もう」
男が、腰の手をゆるめた。
「え、なに? 彼氏?」
「そうなの」
三朝は察して、乗っかった。
「さっきケンカしちゃって……だから」
「あ……あ、そう」
手ごと離れてカウンターを降りた。
「そうなんだ。ごめんね、邪魔して。じゃ」
思いっきり白石を振り返った。
「ああ、もう。助かりました、ホント」
かれこれ半時間――以上になるか。
男を振り切れず、職務を果たせなかった。
「ありがとうございました」
「いや」
白石が座りながら、前を見る。
「俺も。逃げてきたから。処置不能で」
視線の先を見ると。
ド派手なロリータファッションの女子が。
目を逸らして、カクテルを飲む所だった。
「いきなり上手くできませんね」
「話が通じないから。懲りた」
何となく笑い合い。
ようやくトイレ通路を振り返れた。
「何もなかったですよね」
「とりあえずは、と思う。1人で店を出る人も居なかった」
それは、三朝も見ていたので。
白石がスマホを出して、仕舞った。
「23時53分だって」
「危険な時間帯ですね」
「今までと同じならね。読めないしな、それも」
「他の店舗の可能性だって」
「うん。奈守からは『酒が美味いだけだよ、ほんと』ってLINK来たけどね、さっき」
「そう言って全部見てるんですから。すごいです」
「動いたら見逃さないだろうな」
バーテンが白石のグラスを移動したが。
見ただけで、飲もうとしなかった。
「そういえばさ」
左右に目を配ってから、言った。
「こないだ、俺のノート見て、驚いてなかった?」
「え」
この場合、書きつける方ではなくPCの。
司令室で解析を見せてもらった日の。
「いや、なんでかなって」
「気づかれてました?」
「まあ。訊かない方が良いのかとも思ったけど」
気になった、という事だろう。
「そうなんですね」
「うん」
「私も同じの、持ってまして……」
固まったのが、はっきり分かった。
「え、あ。ガレニア?」
「そうです」
「へえ……あ、そっちか……そうか……立樹、ゲームするんだな」
「少し。白石さんみたいにイジってはないですが」
「何やるの? ガチでオンラインとか?」
「いえいえ。1人で。おもにはコード・アラートを」
「コードか。確かに。あれならイジらなくても現行で十分動くよ」
「白石さんもやるんですか」
「一応ね。シリーズひととり制覇済み」
「それってトロコンですか?」
「トロコンもだけどレコードもね。やり出すと止まらないよな、あのゲーム」
「村に帰りたくなりますよね、不思議と」
「それね」
仕事そっちのけに見えるだろうが。
お互い、ちゃんと目線は配っている。
つもりだった。
「あれ」
前を見た白石が、不意に呟き。
「さっきまで1人だったのにな」
考える前に、視線を辿っていた。
途端に心臓が跳ね、冷たくなった。
血がざわつくが、目が離せなかった。
高桐が。
見知らぬ女性と、談笑していた。
いつもより笑って、親しげに話している。
女性が、高桐の腕に手を置いて。
それを嫌がる様子も、まったくなく。
色の白い、少し切れ長の目の、
肩までのセミロングが艶めかしい、
細身の綺麗な女性だった。
「偶然、来たのかな」
白石も見ているが、答えられない。
はじめて目にする。
気が置けない様子の、高桐だった。
からん、と。
手元で軽い音がした。氷の落ちる音。
グラスに目を落として、三朝は。
指の震えを、ようやく自覚していた。
高桐と目が合う、寸前だった。
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