code05:vision04 サーチ・ログ
「大丈夫、ノンアルコールって頼んであるから。
アリア組、高桐以外は強くないだろ?
いや、俺は飲むけど。飲まないと。経費なんだし」
奈守の声を脳内再生しつつ。
白石は、静かにグラスを置いた。
アルコール……入ってるじゃないか。
泡の浮いた炭酸水だと思って飲んだ。
……ジンソーダ?
カウンターの女性バーテンを見る。
素知らぬ顔で、別の客と話していた。
どうなってんだ……。
LINKで文句を送ろうかと思ったが。
監視が疎かになるので、やめておいた。
頭のToDoリストに放り込んでおく。
店内監視を、しっかり続けた。
フロアは広く、人は雑多に動いていた。
奥のダンスフロアだって見ないといけない。
4人で拾いきれるんだろうか……。
見落とした客は、居ないと思う。
トイレ通路を出入りする客。
席に戻らず退店しようとする女性客は、
いまのところゼロだった。
あそこと、あそこ……あと、あれか。
防犯カメラ位置もチェックする。
あとで回収する時、役に立つ。
通路のカメラも、あとで見ないと。
他のメンバーの動作も見ていた。
経験豊富組のスキルはさすが。
真似すべき箇所がたくさん見つかる。
特に高桐は、いつ店内を見ているか、
ちょっと分からないくらい自然だった。
見えない眼で、視ているとか……?
状況は常に把握しておく、と言った。
部下になって以来の数々の驚き。
また上書きされた、そんな瞬間。
ふと隣を見ると、ばばーんと目前に。
スマートフォンが突きつけられていた。
画面になんと、自分の姿が――。
「ちょっと」
慌てて手で覆って、スマホを下げた。
現れた人物が、不満げに頬を膨らす。
「あー、もう」
ばちばちロリータの、かわいい娘だった。
いや、かわいいけど……10代なんじゃ。
「突然、撮るのやめてくれるかな」
「えー、なんでー」
「なんでじゃないだろ」
肖像権とか、知らないのか。
撮られてSNSにアップとかマズいんだよ。
こっちはJPOの捜査員だし。
って、そんなの知らないだろうけど。
「カッコイイから撮りたかったのに」
「だからって、いきなり。ふつうは一言、断るもんだよ」
「断ったらいいの?」
「いや、だめだけど」
「じゃ、撮らせてね」
「だから」
スマホを構えるのを、また手で制した。
「失礼だよ」
怒って言うと、ロリータ女子は。
まったくお構いなしに隣に座る。
白石を見て、ほほ笑んだ。
え、文脈が……。
「撮るのはダメでも、飲むのは良いでしょ」
バーテンを呼んで。オーダーする。
理由も理屈も、よく分からなかった。
「あのさ」
「なに?」
天真爛漫に振り返る。
ちょっと世界が乱れそうだった。
「いいって言ってないけど、俺」
「でも、さっきから1人じゃない」
だからって一緒に飲む。
理由になるのか?
「そうだけど……ちょっと事情が」
「大丈夫、待てるから」
「……どういうこと?」
「飲んで、待ってる。『事情』が終わったら、一緒にどっか行こ」
……これは。
白石は女子を見つめた。
ダメなヤツだ……。
「事情、終わらないんだけど」
「いいよ、じゃあ。撮らせてくれたら」
「それもダメだって」
「あ、わーい」
バーテンが出したグラスを受け取り。
「いただきまーす」
ぐいっと。
一気に半分ほど飲み干した。
わりと濃そうな、紫のカクテル。
「大丈夫なの」
見た目では分からないが。
もしかして、かなり酔ってるのか……。
「なにがー?」
「いや、濃いんじゃないの、そのお酒」
「え、これ? そうかな」
「ベースは何なの」
「スピリタスだよ。ここのオリジナルなの」
す、スピリタス……だって?
「これね、美味しくて好きなんだ。ずっと飲んじゃう」
「何杯目?」
「さあ……数えてないから」
もう一度。ダメだと思った。
付き合っていたら仕事にならない。
役立たずに、終わってしまう。
ちょうど三朝も困る局面に来ていた。
白石はカウンターを降りた。
「ごめん、知り合い居たから」
「え」
「スピリタス、愉しんでね」
ちょっとー、という声を背に。
白石は、カウンターの角をまわって。
男に絡まれる三朝の、隣に座った。
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