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LOVERSコード  作者: 蒼貴みかげ


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3/58

code01:vision01 高架下トンネル

――4月5日 午前6時35分――



「どうですか」


 屈みこむ背中に問いかけた。


 ふり返らず、答えた。


「まだ寒いからね。

早めに硬直がはじまってるかもしれない」


 JPO統括医局長――早瀬慎一、45歳。


 遺体の手を、そっと地面に置いた。

 横顔に、重い何かが滲んでいる。


 奈守は、トンネル内を見渡した。

 冷気に満ちた、薄暗い通路――。

 

 湾岸高速の高架下になっていて。

 頭上を行き交う車の音が案外、響く。



 午前5時13分。

 トラックドライバーからの通報だった。

 若い女がっ――。

 倒れて、し、死んでる……。


 約1時間後。

 上層部の指示により。

 JPO司令部+捜査部第三係が出動した。


 防寒着がないとまだ寒い。

 ポケットに両手を入れたまま。

 奈守は、続けて早瀬に訊いた。

 

「今夜でしょうか?」


「数時間前じゃないかな。そんなに経ってないと思う」


 手早く遺体を調べていく。

 頭部、瞳孔、口元、首筋――。

 

 引き裂かれた衣服をはだけると。

 胸の谷間に、赤い大きな傷が開いていた。


「刃物か……ここで殺ったんじゃないね」


 冷静に胸元を合わせて戻し。

 ためらいなくスカートを捲りあげた。


「ひどいな」


 低い、早瀬の声が耳につく。

 奈守も、それ以外の言葉がなかった。


 下着はつけていなかった。

 それを喜べる状況ではない。

 

 足のつけ根は傷だらけで。

 早瀬ですら言葉に詰まっている。


「単独じゃないですね」

「どうみても複数だな。詳しく調べないとね」


 奈守は、手近にいた捜査員に目配せした。

 心得たもので。

 すぐにスマホを出して、対応している。

 

 再度、早瀬に向き直った。

 

「医局へ搬送手配させますから」

「午後には所見報告書を出すよ」


 やはり遺体を見たまま、答えた早瀬に。

 

「ありがとうございます」


 とだけ言って。

 奈守はその場を離れた。



 ついで近くに停めた車両に向かう。

 運転席から、投げ出した足が見えていた。

 

 ふたつ年下の、白石彼方、27歳。

 奈守とおなじ司令部第三係、司令官。


「白石」 

 

 顔を上げるなり。

 持っていたタブレットを差し出した。


「これだよ」


 そう言われて受け取った画面には。

 大きな「Ⅱ」以外。

 映っているものはなかった。

 

 ほぼ真っ暗の一時停止映像。

 高架下トンネルの監視カメラ。

 10インチの画面をタップすると。

 右上の数字カウンターが動きはじめた。


 画面の右端――。

 両手で被害者を横抱きにして。

 ゆっくりと、歩く人影がカットインする。

 

 ベルトをたらした黒のロングコート。

 フードで顔はまったく見えない。

 長身の男に見える。 

 

 奥まで進み、画面の左端で立ち止まる。

 カメラに背をむけ、慎重な様子で腰を落とす。

 

 こわれものを扱うように。

 被害者を地面に下ろし、横たえた。


 そのまま、しばらく屈みこんで。

 おもむろに立ち上がる。


 すこし佇み、顔を上げると。

 画面の右端へ、歩いて――消えた。


 奈守はタブレットを白石に返した。

 

「顔、見せてくれるわけないか」

「そうだね。なんか演技っぽい動きだけど」

「かがんでる間にスマホ、置いたんだな」


 普通は、通報があると所轄署が現着する。

 今回の管轄は、港南署だった。

 

 彼らによると。

 遺体の胸にはスマートフォンが。

 手向けるように置かれていたという。

 

 被害者自身のスマートフォンが。


 あとでJPOへ届けてくれる手筈になっている。


 白石はタブレットを膝に置き。

 また指でスワイプしはじめる。

 

「もっと良いカメラならね。これじゃ無理かもしれない」

「別角度とか無いの?」 


 奈守はあたりを見回した。

 白石が「いや」とつぶやく。


「近くのカメラはこれだけだった。

あるだけ良かったよ。時間だけは分かったからね」


 たしかに。

 動画にはAM3:19と表示されている。

 

「じゃあ、あとは防犯カメラの車両チェックか」


「車は映ってると思うよ、どれかには。

確認車両は何台か出るだろうね」


「早朝で助かったな。時間取られるところだった」


 そこへ横から呼ぶ声がした。

 

「奈守警部」


 振り返ると部下が駆け寄る所だった。

 捜査部第三係。

 奈守班の班長=久原理人(くはら・りひと/31)

 

 いつものメガネにスーツ姿。

 上着なしで寒くないのか?


「みんな散った?」


 奈守が訊くと、真面目に頷く。

 

「はい。

交通監視センターと道路管理局へは倉橋たちが、

近隣の運送業者へは我々が行ってきます」


「了解。白石、映像は送ってあるんだろ?」


「とっくにね」


「この画質じゃ怪しいけどな。

とりあえず聞き込み終わったら、いったん本部。

すりあわせよう」


 奈守が言うと、久原は一礼し。

 もと来た方へ走り去って行った。


「そういえば」


 と言った白石が「あ、ちがう」と呟いている。

 

「昨日、異動してくる日じゃなかったの」


 奈守は、白石に視線をもどした。

 

「それが、また延期だってさ」


「へえ。よっぽど難航してるんだね。

奈守は知ってるんだろ?」


 アプリを操作したまま言う。

 奈守はすこし空を仰いだ。

 

 薄い雲が、空一帯をおおっている。

 気温も気分も、上がらないわけだ。

 

「まあ居たからな、本庁に。顔見知りではあるよ」

「手、出したりしてないだろうね」

「あのね」


 奈守はねめつけたが。

 白石は画面に集中している。

 

 タップして「行った」とつぶやき。

 ようやく顔を上げた。

 

「……楽しみだね、再会」

「そういうのないから」


 顔をそむけた、先に。

 遺体搬送車両が到着したのが見えた。

 

 奈守は白石の肩に手を置いた。

 

「白石くんこそ仲良くしてよ。チームだからさ」


 軽くポンポンと叩いて。

 早瀬のところへ駆けもどった。

『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。

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