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LOVERSコード  作者: 蒼貴みかげ


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2/58

code00:vision02 応接室

 霞が関、警察庁上層階――。

 

 今夜は早く帰れるはずだった。

 この呼び出しさえなければ。


「――来たか」


 当の本人は。

 応接ソファでゆったり足を組んでいた。


「まあ掛けなさい」


 幹部専用の、豪華な応接室に入った。


 窓の外に、航空灯の赤が光っている。

 ビルの灯りが、明るい部屋を包んでいた。


 向かいに座ろうとソファに近づく。

 そこにも先客がいて、驚いた。

 

「木崎警視監……」


 久しぶりに会う小柄な上司は。

 笑顔を見せて、片手を上げた。


 三朝は察した。

 この2人が自分を呼ぶということは。

 つまり”あの話”しか。

 有り得ないではないか――。




 秘書官が、頭を下げて去っていく。

 木製の扉が、重く閉じた。

 

 話のはじまる合図だった。


「最近はどうだ? あまり家にも寄りつかんようだが」


 さっそく、これは皮肉だろうか。


「休みもあれば、そうしますが。

自分の家にすら、帰る時間がない有様です」


 今夜もこうして、つぶされました。


「無理もないな。

いまは時田谷(じたがや)署だったか? 

帳場に呼ばれてるんだったな」


「男の子のケアに。進展もあまりないようです」


 昼間の病室を思い返した。

 真っ白の部屋で、止まった時間。

 蒼いパジャマと、空虚な横顔――。


「白昼堂々と……

それでも手がかりが掴めんと言ってたな」


 三朝は、壁掛けの時計を見やった。

 

「それで」

「なんだ」

「お話というのは?」


 佐木沢は、一瞬、瞬いて。

 怒ったように、眉根を寄せる。

 

「そう急かさなくてもいいだろう。まだ7時だぞ」


「洗濯モノが溜まってるんです。

できる日にやっとかないと」


「……仕方ないな」


 ため息をついて、体を起こし。


「では本題に入る」

 

 トーンを変えて、話しはじめた。


「先日、本庁で開かれた人事協議会の席で、

ここにいる木崎本部長から正式に要請があった。

すなわちJPO司令部における”女性捜査官増員”について」


 やっぱり。

 顔には出さず、続きを待った。


「以前から再三、

寄せられていた要請ではあったのだがな。

今回は……正式に承認された」


 予感が一歩――確信に近づく。

 

 佐木沢は正面に目をやった。

 

「木崎」


 呼ばれて、湯呑をテーブルに置く。

 

「そうだね……」


 笑顔に見える糸目を三朝に向けた。


「知ってのとおり、立樹君。

JPOは『捜査改革』をうたう組織なわけだが……

その中枢たる司令部には、現在、女性司令官が存在しない。

3つある係の全員が男性で、

女性はといえば捜査部に2人、いるだけだ。

私はこれを大変遺憾な状況だと考えていてね。

警務局に何度も増員をお願いしていた」


 目を伏せ、膝の上の指を握った。


「分かるかな。

女性司令官の不在……これは痛いよ。

被害者も被疑者も、半分は女性だ。

男性部員では対処できないことも多くあって、

みな苦労している」


 佐木沢の窺う気配がする。

 木崎もしかり、だ。


「……だが今回、ようやく承認された。

さっそく佐木沢官房長と人員の検討を行ってね。

候補者は何人かいたが……

やはり立樹君が適任じゃないか、ということでね」


 本当に検討したのだろうか――。


「立樹君の女性対応実績は、ほかの候補者の群を抜いていた。

その経験を、ぜひ生かして欲しいと思ってね。

うちなら医療チームと連携した、より高度な被害者対応を学べる。

女性被疑者への接見だって、これまでよりずっと機会が増える。

あらたな経験がたくさん積めるよ。

たしか半年前の聞き取り調査では、

経験不足を理由に”異動を希望しない”という事だったが――」


 胸の奥がざわつきはじめた。  


「実は、この4月から『司令官補佐』のポストを、

新たに設けることになってね。新興捜査機関だから。

人材育成を兼ねて新人職員を配属しようと。

まずは各係に1名ずつ。立樹君にも加わってもらって。

――どうだろう。これなら問題はないと思うがね」


 糸目をいっそう細める木崎を。

 三朝は見つめるしか出来なかった。

 

 何もそこまで包囲を固める……。

 イヤだと人事を拒否できるだろうか?


「というかな、三朝」


 そこで佐木沢が口をはさんだ。


「もう決定事項だ」


 驚いて振り返った三朝の目を。

 佐木沢はしっかりと捉えていた。


「ことは急を要する。欠員が出てな。

2人しかいない女性捜査員のうち、

1人が産前による配置換えになるそうだ。

本来ならお前の意向も聞いて采配を決めるところだが……

さすがに女性捜査員ひとりでは立ちいかん。

悪いが吞んでくれ」 


 少し芝居がかった口調の伯父を、

 見つめ返すしか出来なかった。


 偶然までもが――。

 人事に味方したということか?

 ざわめきが警鐘に変わりつつあった。


「ちなみに」


 悠然と笑って木崎が言った。


「司令長もすでに了承済みだよ」


 大きく目をみはった三朝の横で。

 佐木沢が冷たく言い放った。


「辞令だ、三朝」

 

 パラっと。

 書類が一枚、テーブルに差し出される。

 それは正式な、拒めない”辞令書”。

 

『立樹三朝警部補

 四月一日付をもって日本警察機構JPO司令部第三係に配属

 司令官補佐の任に就けることを命ずる』


 その文字を見つめたまま、言った。

 

「三係……ですか」

「そうだ」


 書類と同様、乾いた肯定。


「何か問題でもあるか?」


 木崎は糸目の笑顔のままだ。


 三朝はうなだれ「いえ」と答えた。

 

 三係――。


 ちょうどビルの灯りが、ひとつ消えた。

 もう覚悟を決めるしかないようだった。

『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。

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