code00:vision01 街頭ビジョン
――なぜ、あの夜
街頭ビジョンなんか見上げてしまったんだろう――
『続いてのニュースです』
走り出す――ホームの上を。
灯りまみれの電車が。
少しはなれた高架の上。
『今日午後2時ごろ、世田谷区内の住宅で、女性が胸や腹部など数か所を刺され、死亡しているのが発見されました』
動き出した――足元の。
テールランプの、赤い車列。
取り囲むビルは、どれも光輝いて。
夜の街は――この眼に眩しすぎる。
歩道橋の片隅。
季節はずれの昨夜の雪が、
黒くくすんで凍っていた。
3月初旬――。
今夜も、歩道橋に肘をついて。
煙草の煙を、ただ眺めていた。
巻きあがる煙を、目で辿って――。
ふと頭上をふり仰いだ。
とくに理由はなかった。
街頭ビジョンの女性キャスター。
歩道橋にもたれて、しばらく見つめた。
『女性はこの家に住む日方幸子さん、43歳で、
居間で血を流して倒れているのを、
帰宅した11歳の長男に発見されました。
警視庁によりますと、日方さんは――』
頭のすみを映像がよぎった。
居間に駆け込む笑顔の少年。
ランドセルのまま立ち尽くす。
笑わず迎えた、血染めの母――。
煙草の煙を、また夜風に乗せた。
街頭ビジョンが、切り替わる。
白い大きな家の映像。
取り巻く警官、報道陣。
黄色いテープの向こうの住人。
スーツ姿の刑事集団も映し出された。
その次の。
ブラウンヘアの女が。
画面にクローズアップされた時――。
彼は、煙草を取り落とした――。
今夜も歩道橋に立っている。
街頭ビジョンは見もしなかった。
自分の手の中を見つづけている。
6.7インチの小さな画面。
ニュースで見た女が――映っている。
白い家を見上げた、おそらく刑事。
探し当てた静止画は、あの夜より鮮明で。
見まちがいとは思えなかった。
……やるしか、ないのか。
強く、スマホを握りしめた。
祈るかのように、額にあてて――。
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