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LOVERSコード  作者: 蒼貴みかげ


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28/58

code03:vision08 真の捜査会議

 上条はしばらく動かなかった。

 つまり場の誰も動き出せない。

 

 おもむろに議場の奥をふり返った。


「立樹くん」


 打って変わった、やわらかい声だった。

 名指されるとは、思っても居なかった。


「ちょっと聞いたけどさ」


 顔にも笑みが戻っている。


「異動初日に、奈守くんから事件説明を受けたよね?

その時に『犯行が目的じゃないかもしれない』って言ったって

――本当かな」


 ただし目の奥には笑みがない。

 さっきもそうだった。

 

 場の視線が集中している。

 まさか、この場で突っ込むとは――。

 てか、さっき聞いてくれよ、個別に。


「はい……」


「実は僕も高桐くんも、そんな気がしている」


 優しいながら重さを孕んで、上条は言う。


「何かが少しおかしい。

第一事件の高桐くんの報告から、すでにそんな話があった。

立樹くんも着任して直後に感じたみたいだって聞いたから。

考えつく事があったら言ってくれるかな」


 ここは言うか迷った。

 みんな、誰もが見ている。

 聞いている。


「いえ、まったくの……」


「思いつき? それとも、カン?」


 目の奥は鋭い。逃げるとどうなる。

 迷ったが、顔を上げた。


「……奈守警部のお話では」


 口走ったに過ぎない――直感。


「殺害に関して、

手慣れた者じゃないと難しい手法が取られていたというので、

思いつきで発言しました。

その場では訂正しましたが、おかしいと思ったのは事実です。

解剖所見にも同じ記載がありました。プロが関わるとしたら、

金銭――何らかの得るものが必要なはずで。

でも被害者自身にはそれがない。

もし他の目的があったとしたら、事件の見方も変わってきますし、

スマートフォンを置いた理由や、暴行犯を先に逃がした理由も、

見えてくるかもしれません。

根拠はありませんが、意図不明な行動がある以上、

検討の必要はあるのではないかと……思います」


 みんな黙って無表情に聞いていたが。

 ざわつく気配が漂ってくるようで。

 一礼をして、ノートPCの陰にかくれた。


「そうだよね」


 上条の声が、やわらかく議場に落ちる。


「これは会議だからね、報告聞くだけじゃ意味がない。

根拠も裏付けもなくても、疑問があれば議論すべきだと思うよ。

立樹くんがいま言った『意図不明な行動』。

これってなんだろうね」


 発言はないが、誰もが考えているようだ。


 最初に話を聞いた時から、そうだった。

 この事件には違和感がある。

 

 なぜスマホだけを置いて行ったのか。

 なぜ実行犯は先に降ろされたのか。

 その後、被害者は誰が殺害したのか。


 手際は鮮やかで、犯行も計画的。

 明らかにプロの手だという。

 そして被害者を車へ誘い、乗せた人物。

 それは誰なのか。


 たぶん、この場の全員、感じている。


「ひとまずは

クラブ近隣の聞き込み捜査が主体でいいだろう。

ただ、この違和感のタネも探さないとね。

高桐くんと話しているのは、組織犯罪の可能性。

現段階では何の根拠もないよ。

けど、白石くんだって闇サイトのぞいて痕跡、

探してるでしょ?

もし見つかったら事件は動くよ。

立樹くんが言うように、見方も変わる」


 上条は、どこか愉しそうですらあった。


「ただの婦女暴行連続殺人じゃない。

その可能性も視野に入れて、ひとまずは張り込み。

大城送検にむけた一連の捜査活動。

引き続き、頼めるかな」


 最後に、と一同を見まわす。


「僕がいる場では迂闊な事も言いにくいだろうから。

各班長は司令官に。

司令官および司令官補佐は、高桐くんとよく協議して。

必要なら僕から一係にかけあう。

というか、もう布石は打った。

一係、黒岩司令長にも、平行して情報収集を依頼済みだ。

もし何かあったら知らせる。

君らは通常の捜査活動に加えて、

この意図不明の行動の理由も、あわせて探ってみてくれ」


 上条は立ち上がった。


「以上が現時点で判明している事実、および現状の捜査方針だ。

けして解決速度は速くはないが、手詰まり感はないと思う。

高桐警視の方針で全面承認。

捜査部は、新事実が判明した時点で司令官に報告。

各司令官ならびに司令官補佐は、

捜査員の動向に注視の上、現場指揮を怠らないように」


 上条が退室すると、

 場の空気が少し抜けた。


 ノートパソコンを閉じる。

 倉橋が横に立っていた。


「立樹警部補、ありがとうございました。

会議準備までしていただいて。

このレジュメと会議資料、よくまとまっていて進めやすかったです」


 意外にも、笑顔が混じる表情だった。

 三朝は恐縮し、あわてて言った。


「いえ、そんなことは、ぜんぜん」


「このポイントが書き添えてあるのが助かりました。

久原さんも唸ってましたよ、ねえ?」


「なかなか出来ないんじゃないですか。

あとで見返そうと思ってました」


 メガネにスーツの、出来そうな人まで。

 三朝は、ちらっと白石を見てしまった。

 案の定、上目遣いに、顔を背けている。


 誤魔化すように濁して席を立った。


「だったらよかったです。お役に立てて」


 白石謹製のテンプレートのおかげだが。

 2人の言葉は、素直に嬉しかった。

『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。

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