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LOVERSコード  作者: 蒼貴みかげ


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22/58

code03:vision02 宿直室

――4月25日午前0時33分――



 今夜は宿直だった。

 本部を出る奈守と高桐を見送って。

 三朝は1人、司令室に戻った。

 

 宿直室は、司令室の奥にあった。

 狭い部屋だが、ベッドと洗面。

 シャワーブースまでついていて。

 問題にはならんのか、という豪華さだ。


 部屋着に着替えて、灯りを落とした。

 ベッドに座って、窓の外の空を眺める。

 瞬く赤い航空灯が目を引いた。


 この職を選んだのは、自分自身だが。

 残酷な事件を目の当たりにする。

 その覚悟は十分だったのかというと。

 そんな事はなかった、と思い知らされる。


 今日だって供述を聞いて心拍が上がり。

 おそらく顔色まで変わっていたのだろう。


 高桐は、三朝を気遣ってくれた。

 大事な聴取中にもかかわらず。

 部下とはいえ捜査員であるべきはずの、

 自分。


 都合のいい解釈というものがあると思う。

 確証のない事を、希望的観測でとらえる。

 優しさも気づかいも職務上の事で。

 個人に向けられたものではない――。


 研修時代も、毎日のように押し込めて。

 そうなる自分が嫌だったから異動を拒んだ。

 半年前は――。


 警察庁に入って三か月後の初任科研修。

 半年間の研修先は、北海道警察本部。

 『刑事部捜査特別検証室』という、

 ちょっと特殊な部署だった。


 高桐は、そこで2班の班長をやっていた。


 最初は、あまり話した事もなかった。

 三朝は1班に配属され、

 別の指導刑事についていた。


 研修開始から、ひと月近くがたった頃。

 旭川署で開かれる各署合同の会議に

 1人で出席するよう命じられた。


 帰りが深夜になることを心配した室長が、

 旭川まで 『誰かを迎えにやる』と言い出した。

 必至に固辞したが受け入れられず、

 指導刑事が迎えに来ることになってしまった。


 5つ上の指導刑事は、三朝の事を気に入って、

 周囲にかまわず好意を言いふらしていた。

 ひと月の間に、笑って流せなくなっていた。


 会議が終わり、署のロビーに降りてみると。

 その指導刑事の姿がなかった。


 かわりにいたのが、高桐だった。


 高桐は、ガラス張りのロビーの外で、

 誰かと煙草を吸っていた。

 親しい相手らしく、その男がなにか言うのに、

 小さく笑って答えていた。


 はじめて見るおだやかな表情に、

 その場に立ち尽くしたのを覚えている。


 帰りの車内で、はじめて長い時間、

 ふたりで話した。

 

 本来、来るはずだった指導刑事が

 『体調不良で来れなくなった』と言い、

 『張り切ってたからな、あいつ』と笑った。

 

 助手席でふつうに受け答えしながらも、

 照らされる横顔や、ハンドルを握る手が

 目について仕方なかった。

 高桐を意識した瞬間だった。


 最初は『気のせい』で済ませようとした。

 でも、できなかった。

 今度は高桐本人に指導を仰ぐ事になった。


 指導は厳しかった。

 だが、かならずフォローも忘れなかった。

 失敗すると『次に生かせ』と一緒に考え、

 危ない場面では助けてくれる。


 キャリアが、新米がと罵られた時には

 『気にするだけ損だぞ』と言ってくれた。


 想いは『気のせい』では済まなくなった。


 それからの日々は苦しいものになった。

 ただでさえ上官で、自分は新任研修中。


 そのうえ高桐には『同棲している女がいる』、

 という噂まであった。

 

 素直に想いなど出せるはずもなかった。

 絶対に悟られまい、

 何があっても踏み込まないと決め、

 自分を必死で押しとどめた。

 

 三朝は。

 終了までの日をカウントするようになった。


 そして研修最終日――。

 ようやく終わると思った、その日の夕方。

 事件は起きた。

 


 自分の気持ちが何も変わってないことを、

 自覚せざるを得なかった。

 本人を前に、どう逃げまどっても抗えない。

 そのうえ――。

 

 優しくされたら、もう戻れない。

 それが怖くて逃げていたのに。

 

 また、高桐のところへ来てしまった。

 あの頃と変わらない調子で、今、隣にいる。


 それを都合よく受け取りたくない。


 また苦しくなるのだろうか――。

 三朝は1人、消えゆく灯りを見て、

 沈んだ。

『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。

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