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LOVERSコード  作者: 蒼貴みかげ


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21/58

code03:vision01 モニタリング聴取②

――4月25日 22:55――


 奈守班に成果があった。

 第二事件の、実行犯。

 

 大城靖(おおしろ・やすし)、33歳。

 月岡町の飲食店、元従業員、

 現在は無職。

 

 事件当夜、クラブ裏路地へ入るのを、

 若者集団に目撃されていた。


 発覚前に逃亡していた大城の

 捜索には数日を要した。


 ようやく――4月24日21時8分。

 交際女性宅に現れたのを確保した。

 

 清潔とはちょっと言い難い、

 疲れた風体の男だった。


『えー、それで?』


 奈守が、机で向かい合う男、

 大城に語りかける。

 

『裏路地へは何のために?』


 大城はそっぽを向いたままだ。

 

『何のためですか』

『…………』

『答えないか』


 しばらく沈黙がつづく。

 

 三朝は、聴取室の裏にいた。

 モニタリングルーム。

 画面で中の様子を確認しながら、

 チャットや音声でやり取りもできる。 


 モニター前に座るのは、高桐。

 平然とした顔で、聴取を眺めている。


『4月19日、午後11時50分ごろ。

エージェント裏路地へ入っていくアナタを見た、

という証言を得ていますが。

お心当たりはないと、そういう態度なわけですね』


『…………』


『一発で出ますがね』


 奈守の声に、凄味が乗る。

 大城の顔が引きつった。

 

『ゴム……付けてらっしゃいませんでしたよね、現場で。

出てますよ? 何人かのDNAが。あなたのも調べます。

どうなりますかね? 待遇……変わりますよ? 

黙秘で出るのと、自供してから出るのでは』


 バツが悪そうに床を見ている。

 奈守のため息。


『おそらく、

その態度では身に覚えがおありでしょうから。

任意ですが帰れません。早く話した方が身のためですね』


 この静かな圧に負けたのか。

 わずかに目を泳がせ、呟いた。


『……やったよ』

『聞こえませんね』

『犯った、女はな。”殺し”はしてない』


 保守に走った、必死の早口。

 嫌悪したのか、奈守が顔をゆがめる。


 高桐が、手元のスイッチを押した。


「押さえろよ」


 画面の中の奈守の手が、

 『了解』

 と言うように、わずかに上がる。


『詳しく話せますか』

『だから』


 イラついてるのか、怯えてるのか。

 男は目を上下させて必死に供述した。


『車に乗せられて女は襲った。

けど、終わったら降ろされたんだ。

女は生きてた。殺してはいない』


 突然。

 奈守が立ち上がった。

 パイプ椅子の派手な音が響く。

 なんとか倒れなかった。

 

『……詳しくって言いましたよね』


 怒りを押し込め。

 奈守が静かに男を見下ろす。


『何月何日何時何分、どこで車に乗って、

誰が運転して、ほかに何人いて、どうやって女を襲って――

そういう事を全部、順に話せって言ってんですよ、こっちは。

分かりますかね』


 男は震えあがっていた。

 引き寄せたイスに、腰を下ろして。

 奈守はもう一度、男と向き合う。

 

『いいですかね、話して頂いて。

こっちは散々、探したんです。

時間はかまいませんよ。……ゆっくり。行きましょう』


 話がはじまると。

 高桐は息をついて、呟いた。

  

「怒ってるな」


 はじめて聞く奈守の敬語。

 三朝も圧倒されていた。

 

「迫力ありますね」


「昔からだ、あいつは。怒るほど敬語になる。

本気になったら、俺でも止められない。

……気をつけろよ。立樹に怒ることはないだろうけど」


「あの空気で怒られたら、立ち直れないかもしれません」


 正直に言うと、軽く笑った。


 画面の中では供述が続いている。

 ぽつりぽつりと男が言うには。

 

『街で声をかけられて裏路地へ行った』

『クラブ裏に車があって、スライドドアが開いていた』

『運転手と男2人が乗っていた。ぜんぜん知らないヤツだった』

『乗った直後に女が推し込まれ、外からドアが閉められた』

『車はすぐに走り出し、しばらくして倉庫街についた』


「まあ想定どおりの流れみたいだな。

車は直前にエージェント裏に停めて、

被害者を乗せたら霧海倉庫街へ直行した」


「ひどすぎます……」


 暴行の供述はリアルだった。

 男は淡々と語っていく。

 頭の中で、自然と再生された。

 

 遺体の女性。あどけない顔。

 ノートPCを抱く手に力が入る。


 抵抗する被害者、怒声、暴力。

 笑い声、涙、差し込む灯り。

 やがて息遣いも、静かになって。


 知らず唇を噛んでいた。 

 想像が、自分の身に起きている様で。

 呼吸も忘れて、つい苦しく――。 


「立樹」


 気がつくと。

 高桐がこちらをふり返っていた。

 

「大丈夫か」


 三朝は、小さく頷いていた。

 深い目に、引き戻されていた。

 

「仕事だから仕方ない。けど聞きたい話じゃないからな」


 あの目でしばらく三朝を見つめ。

 またモニターに向き直る。

 横顔に、奪われてしまった。

 

 気を取り直して画面に集中した。

 男の語り口は。

 空恐ろしいものになっていた。


『怖かったよ、俺……殺すなんて……

ニュースで見て、真っ青になった。

俺ら、道ばたで降ろされたのに……

車は走り去った、一瞬で。そっから……

何があったんだよ……』

『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。

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