code03:vision03 喫煙所
奈守と並んで歩いていると。
「あ。いまお帰りですか?」
医局の看護師に遭遇した。
即座に奈守が対応する。
「おー、ともちゃん。夜勤?」
「そうですよー。
というか早めに呼び出されちゃって。18時間勤務です」
ネームプレートには『有村友乃』
とある。まだ20歳そこそこだろう。
「でも奈守さんたちは、もっと長いですよね」
「3日、4日帰れないはザラだったね。
司令長のおかげで、今はそんな事ないけど」
奈守の言葉でこちらを見上げ、
看護師が軽く笑顔を向けてくる。
苦笑いだけ返した。
「今日は先生は? 早瀬先生?」
「椿先生です。
患者さんも落ち着いてるので、なにか勉強されてましたよ」
「へえ。熱心そうだよね、あの先生。イギリス帰りだっけ」
「そうです。
向こうで臨床やってた先生を早瀬先生が呼んだとか。
女性の患者さん、多いですからね」
「うちの立樹と一緒だねえ。苦労するわ」
「実際、そうみたいです。
ふつうの治療のほかに心療内科みたいな対応も必要ですから」
「そうだよな。ま、がんばって。今度、飲みに誘うから」
「あ、絶対ですよ。みんな待ってましたからね」
指差しと笑顔を残し。
有村友乃は歩き去った。
奈守がふり向く。
「悪い。行くか」
帰りがけ。
奈守と一緒になる時は、
屋外の喫煙所に寄っていく。
暗黙の了解だった。
「立樹、寝られるかねえ」
定番の紙巻きに火をつけて。
奈守が軽口のノリで言う。
が、笑顔はない。
それは高桐の方も。
「すぐには無理かもな。けっこうキツそうだった」
「そりゃそうだよな。
俺だって聞きたくなかった。えげつなさすぎた」
「そうだな」
電子煙草を吸いつける。
味は軽いが、扱いも手軽だ。
「現場でも、ずっと被害者、見てたし。
動かなかったもんな」
高桐は答えず、考えていた。
同じように感じている――
かもしれないと思った。
「被害者2人とも若いけどさ。夜あそびって怖いよ」
「たまたま無事だったってだけだ、今までは。
あそこに行くとよくわかる。危機感はまったくない」
クラブ・ストリート。
自分たち以外の男女、誰もが、
他者との壁など感じていなかった。
「な? 声かけられまくっただろ。こっちから聞くまでもなく」
いや、あともう1人――。
「最後の証言者以外はな。あの子はちょっと違ってた。
1人で路上で……観察者って感じだった。それか何か待ってたか」
「たまにいるよ。『街を見に来た』って体のヤツがな。
被害者にも、そのくらいの余裕があればな」
煙草を灰皿に投げ入れて。
当たり前にもう一本、出している。
高桐も、切れたスティックを捨てて、
もう一本セットした。
第一事件と第二事件の、
被害者を思い浮かべていた。
「なあ、高桐」
声のトーンが変わっている。
「なに」
「ちょっと感じてないか、もしかして」
流し目に奈守を見やった。
空を仰ぎ、煙を出している。
「俺はね、思うよ。この事件は……ちょっと違う」
すぐには答えられなかった。
確かにあるが、掴めない、
第一事件からある微かな違和感。
「どうお感じですか」
「敬語やめろよ」
ため息をついて、話を続ける。
「俺だって言いたかないよ?
けど共有しないとな。わかるだろ」
「わかるよ、それは。
確証がない事ほど、あとで効いてくる」
「だろ? まだ何もわかんないよ?
でも、このイヤな感じ。
もし第三、第四と事件が起きるなら――」
言うのをやめて、煙草を吸った。
煙りを見送り、向き直った。
「立樹はさ、引っ張られるだろ、被害者に。
感じなくていい責任ていうかさ。
現場でも、さっきみたいな供述でも。
情を持ち込んで、自分ごとみたいに思うヤツだろ。
この先、キツイよ?
お前も司令長としては、しんどい立場だけどさ」
言わんとすることは分かっていた。
だから何も言わずに視線を返した。
沈黙は肯定――。
奈守のスタイルに合わせるなら、
何も言わないことが答えになる。
「時間はかかったけどさ。
来たよな、ちゃんと。お前だって……」
奈守にしては歯切れが悪い。
いっそありがたいくらいなのに。
「いや、わかってるよ。2年だろ? けどさ」
腹を決めたのか。
「余計なこと言うよ?」
キレるような薄ら笑いで、
静かに見すえた。
「早くケリつけて、そばにいてやってよ」
高桐は、一瞬だけ奈守を見て。
また電子煙草を深く吸った。
『LOVERSコード』および関連作品に掲載されている文章・画像・動画・ロゴ・キャラクター・設定等の権利は、作者・蒼貴みかげに帰属します。




