code02:vision11 リアルストリート
「え、行っちゃうんですか。せっかく話せたのに」
「仕事だから」
「じゃあ、せめて。連絡先を……プライベートな」
「名刺は? 近くの店だろ?」
「……分かってました?」
「馴染んでるヤツに訊いてまわってるからな」
被害者のように、バーで働いている。
その手の人材に話を聞く方が効率的だ。
高桐はターゲットを絞って選定してきた。
女性は、バッグの中を漁ることなく。
スッと名刺を差し出した。
「絶対、来てくださいね」
クラブ・サスペクト『キサラ』。
ただ……。
営業を越えた笑みには、見える。
仕草も。
キサラは名刺を――高桐の。
グレーのブルゾンに差し込んだ。
見上げた彼女を、見下ろして言った。
「そのうちな」
このまま事件が続けば――。
行くことも、あるかも知れない。
名残り惜し気なキサラと別れ。
高桐は後ろを振り返った。
三朝が男と話していた。金髪の若い男。
絡まれている……のではなさそうだ。
しばらく様子を見届けて。
次の対象を求めて、通りを見まわした。
こちらを見る女性の集団が目に入った。
これで何組目だろうか。
ほんとに奈守のいう通りだなーー。
そう思って見た、視界の片隅。
高桐の目に飛び込んだ。
この通りにしては、珍しく。
1人で佇んでいる……20歳前後?
歩道の手すりに腰かけて。
コンビニのカップコーヒーをすすっている。
髪の色は明るいが着飾ってはいない。
普通の女の子に見えた。
駆け寄ろうとした女性たちに手を上げて。
高桐は、そちらに近づいた。
コーヒーを飲みかけた動作を止めて。
気づいた女の子が高桐を見上げる。
軽くならない程度に声をかけた。
「ちょっといいかな」
あからさまに不審げな目つきで迎え撃つ。
「え、なに」
「今、1人?」
「は?」
「連れはいる?」
「……え」
警戒を隠さず、返した。
「ナンパ? 女に困ってないですよね」
通りでの様子を見ていたらしい。
高桐はあえて笑わず、口調も戻した。
「仕事中だ。話を聞いてまわっている」
その瞬間。
彼女の怒ったような目の中に、
ちょっと気づかない驚きが浮いたのを、
高桐は見逃さなかった。
スマホを出して、彼女に見せた。
「この子。昨夜の0時ごろ、この辺で見なかったか」
女の子は高桐に向けていた視線を落とし。
画面をチラとだけ見て、短く答えた。
「……エージェ常連だね」
「ニュースは知ってるか。昨夜の」
「見たよ。”ハイエースされた”ってやつでしょ。
めずらしくないよ」
やけに冷めた調子で言う。
高桐も合わせた。
「この辺でもよくあるのか」
「ないよ、最近は。2年くらい前は何回かあったかな。
いま多いのはどこだろうね。けっこうあるよ」
「詳しいんだな」
「耳には入る。ほかの盛り場にも行くから、あたし」
「今夜はここで何してる」
「別に。ヒマつぶし」
何気ない様子でエージェントを見やった。
「――その子ならね、見たよ、昨夜」
高桐は頷いていた。
何故か、そんな気がしていた。
「誰かと一緒だったか」
「たぶん……
昨夜はあたし、エージェのちょっと先に座ってて。
あの角を曲がって、裏へ行くのが見えた」
裏路地の方を指さす。
淡々と答えてくれた。
「追いかけてた、『待ってー』って。誰かを」
「…………」
「笑いながら。その誰かは見えなかったけど」
「……間違いないか」
「ない。見た。ちゃんと。
友達に向ける顔じゃない。それは……分かった」
スマホを仕舞って。
自分の名刺を差し出した。
受け取った女の子が。
また不審な顔をする。
「……2枚あるけど」
「1枚は渡しておく。
もう1枚は裏に連絡先、書いてもらえるか」
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